「ぬいぬい屋SOU」のブランド名でミシンを使った手芸作品を制作・販売している中学2年生の佐々木奏さん。字が書けないという学習障害(限局性学習症)があるものの、ミシンという特技に自分の世界を見つけだし活動しています。

 

奏さんとお母さん。出店時は奏さんと弟さんが店に立ち、親は見守り係に徹するそう

これまで手がけた作品は1000点以上

── 奏さんはブランド「ぬいぬい屋SOU」を立ち上げました。きっかけを教えてください。

 

奏さんの母:ブランドが誕生したのは小学2年生の頃です。ちょうど不登校になってフリースクールに通っていたときに文化祭があり、スタッフの方に「奏さんは縫うのが得意なので縫いもの屋さんでお店出したら?」と言ってもらったのがきっかけでした。

 

フリースクールの文化祭に初出展した時の様子
フリースクールの文化祭に初出展したときの様子

── これまでに1000作品以上手がけてきたとのこと。今はたびたびお店を開いてらっしゃるそうですね。

 

奏さんの母:イベントなどでお声がかかったら出店しています。まだ中学生なので、年齢制限で参加できないものもあります。ありがたいことに、主催者側さんが見つけてお声がけしてくださることが多く、そのようなものには極力参加させていただいています。直近では今度10月に石川県のクルーズターミナルで「みなとマルシェ」というイベントに参加予定で、それに向けて100商品くらい製作しています。

 

奏さん:出品するものは主にカバン系が多いです。実用性のあるものが好きで、ここにポケットを付けようとか金具を付けようとかを考えるのが好きです。ユーザーさんの声を取り入れて次に生かしたりもします。お店にはリピーターさんも来てくださるので、「楽しみにしていた」と言ってくれることも。みんなに喜んでもらえるのがうれしいです。弟が接客を手伝ってくれますし、二人でお店に立つのも楽しいですね。

 

カバンを中心に毎回約100点の商品を出品する
カバンを中心に毎回約100点の商品を出品する

── 奏さんは弟さんのためにつくった洋服がコンクールで優勝したそうですね。

 

奏さん:弟が感覚過敏で、縫い目が内側にある服がチクチクして苦手と言っていたので、縫い目が外側にあって、弟が着やすい、心地よい素材で服を作ってあげようと思ったんです。それが思いがけず受賞しました。

 

── エイのデザインというのも面白いですね。

 

奏さん:エイを選んだのは、弟がサメやエイが好きだからです。サメとかエイにはエラが5対あるんですけど、よくあるイラストやぬいぐるみなどには3対しかないとぼやいていたので、正確に5対で作ってあげました。弟も気に入ってすごく喜んでくれました。

 

第43回ホームソーイングコンクールで優秀賞を受賞した作品
第43回ホームソーイングコンクールで優秀賞を受賞した作品

── デザインが凝っていますよね。クラゲのような帽子もあって素材も面白いなと思いました。

 

奏さん:帽子は、弟が中が蒸れるのが嫌というので通気性をよくしました。生地は弟にさわってもらい選びました。石川県で生産している透ける素材の布を使っています。たまたま道の駅で販売されているのを見つけて、透け感がクラゲっぽいなと。後ろのひらひらとした部分は日焼け防止のために工夫してデザインしました。

 

まさか優秀賞をいただけると思っていなかったのでとてもびっくりしました。放課後に学校の先生から賞状を渡されて、褒めていただけて嬉しかったです。

 

小さくなって着れなくなった弟のお気に入りの服をバッグにリメイク
着れなくなった弟のお気に入りの服をバッグにリメイク

不登校児に「逃げてもいい」は釈然としないけど

── 学習障害で不登校の奏さんですが、学校に行かなくても、社会と繋がって、楽しく毎日を送っていて素敵ですね。サポートするという立場で大事にしていることはありますか?

 

奏さんの母:私が娘の得意を伸ばすということはしたつもりがないのですが、たくましく育ってくれているのは、周りとのご縁が一番大きいんじゃないかなと思います。出店を楽しみにしてくれるお客さんやリピーターさんたちの存在が本人の自信につながって、どんどんやる気も出たように思います。

 

本人が自身の作品を喜んでもらうという経験のなかで、「自分の縫いもので誰かが喜んでくれる」というのを発見したんじゃないでしょうか。その成長は大きいなと思います。彼女自身が自分で見つけた世界だと思います。

 

ただ、実は1年半ほど娘がミシンを触らない時期がありました。そんなときもあるだろうと急かしたりもせず見守っていたら、また「縫う!」と言い出して。小学3年生くらいの頃です。ちょうどフリースクールにも学校にも行かなくなった時期でしたが。「それもいいんじゃない?」と見守りました。押しすぎず引きすぎずぐらいの感じですかね。

 

小学6年生の時のホームソーイングコンクール出展作品。大好きなゲーム「スプラトゥーン2」のキャラクターの衣装で努力賞を受賞。
小学6年生のときのホームソーイングコンクール出展作品。大好きなゲーム「スプラトゥーン2」のキャラクターの衣装で努力賞を受賞。

── お母さんのサポートの仕方や関わり方のバランスはとても勉強になります。

 

奏さんの母:私自身、順風満帆なほうではなかったので、娘には何とかなるもんだよ!という気持ちで接しているところがありますね(笑)。小学校時代、いじめられていた経験がありました。今の時代は絶対おすすめしませんが、「学校に来るな」と毎日言われることに腹を立てた結果、ボロボロになりながら皆勤賞をとってみせたりしました。なので、私自身も「学校」にあまりいい思い出がありません。

 

よく不登校の子に「逃げたっていいんだよ」と声をかけるのを見聞きしますが、悪いことをしたわけでもないのに負い目を感じさせるような「逃げてもいい」という声かけは、なんだか釈然としません。彼らは「自分を守っている」ので、「守っていいよ」と言ってあげてほしいし、大人は自分を守っている子どもの「今」を守ってあげてほしいなと。未来はレールの上だけにあるものじゃないです。草を払い、地を踏みしめ、開拓してつくる道もあると私は思います。

 

「不登校」は問題行動ではありませんし、今は教育機会確保法もあります。「学校行かないと!」とか「将来が!」とか心配してしまうかもしれませんが、今がないと将来はありません。困っている子は「今助けてくれる大人」にそばにいてほしいと思うので、「今」味方でいてあげること、「今」この子のために何ができるかなということを、これからも大切にしたいですね。

 

PROFILE 佐々木奏さん

「ぬいぬい屋SOU」のブランド名でミシンを使った手芸作品を制作・販売して活躍する中学2年生。第41回ホームソーイング小・中・高校生作品コンクールで小学生の部で優秀賞、第42回同コンクールで努力賞、第43回同コンクール中学生の部で優秀賞を受賞。

取材・文/加藤文惠 画像提供/佐々木奏