フリーアナウンサーとして活躍する金井憧れさん。「憧れ(あこがれ)」と聞いて誰もが一瞬驚く個性的な名前には、いろいろな思いがあったそうで ──。
「周りから憧れる存在とは?」がんじがらめだった幼少時代
──「憧れ」という珍しいお名前ですが、由来は?
金井さん:私の父がつけてくれました。りっしんべんにわらべと書いて「憧」という字なのですが、「わらべのような純真なこころをずっと大切にしてほしい」という思いが込められているそうです。よく「周りの方から見て憧れの存在に」というふうにとらえられることが多いのですが、実は父の思いとしては逆で、いろいろなものに憧れを持って好奇心旺盛の子であってほしいという思いでつけたと聞いています。
── 名づけたお父さまが新聞社にお勤めの記者だったそうですね。やはりお仕事柄、文字に対するこだわりがおありだったのかなと思うところですが、珍しいお名前につながった理由のひとつでしょうか?
金井さん:そのようですね、それはおおいにあったと思います(笑)。送り仮名がつく名前というのもなかなかないですよね。当て字で「あこがれ」という音をつくることもできたでしょうし、「憧」という漢字一文字で「あこがれ」にもできたでしょうし「あこ」と読み、憧れの意味を持たせることもできたと思うんです。
なぜ送り仮名をつけたのか父に尋ねると「誰が見ても読めるものにしたかった」と。父なりにいろいろ考えたうえでつけてくれたようです。母は個性的な名前に「今後生活していくうえで大丈夫かな?」と不安はあったようですが、父の思いが強かったようです。
── 珍しいお名前だと、いろいろな人にすぐに覚えてもらえそうですね!
金井さん:そうですね。大学に入ったときや入社したときなど、この名前のおかげですぐに覚えてもらえました。ですが、珍しい名前で注目されるというのは、ときに悩みでもありました。
入学式とか学校のイベントとか大勢の前で名前を呼ばれると、みんなが振り返るのは毎度のこと。「憧れ」という名前の人がいるらしいと、教室まで見に来てくださる人も…。学校以外の場所でも病院なんかで名前を呼ばれるのが恥ずかしくて嫌でしたね。
── 先ほどもおっしゃっていたように、名前の由来が勝手にイメージされて「周りから憧れられるような子になってほしい」と思われることも多かったようですが、そう思われてしまうことでのプレッシャーもおありだったのではないでしょうか?
金井さん:ありました。周りからはきっとそういう思いでつけられた名前だと思われていただろうなとプレッシャーに。「名前の通りに生きるとはどうあるべきか?」と、学校行事のリーダーをやったり、生徒会に入ったり、成績も上位になれば生きやすくなるのか、大いに悩みました。
── 小学生のころはアメリカに住んでいらしたそうですが、そのときは名前を意識せずにすんだ時期だったのではないでしょうか?
金井さん:まさにその通りで、みんな自然に「Ako」と呼んでくれたんです。それまで、新しい環境では名前のことを必ず言われてきたので、渡米した際も構えていましたが「こんなに楽なんだ!生きやすいなぁ」と世界が明るく感じたくらいでした。
ですが帰国すると、また名前を意識する生活が戻ってきました。名前が目立つうえ、アメリカでは現地校に通っていたので、もう日本語がしゃべれなくなっていて、アメリカ人のようにリアクションしたり、ポロっと出てしまう反応が英語だったりする様子が少し生意気に思われたりもして、余計に浮いてしまっていたんです。このころは、ついには名前を変えたいと母に相談したこともありました。
「親に名前をつけ逃げされた」と思っていた思春期
── 名前を変えると言い出してお母様も驚かれたでしょうね。
金井さん:当時は改名ができることを自分で調べ、リアルにどの名前に変えるかまで考えていました(笑)。でも中学生ですから、ひとりではできないと悟り、母に相談しました。当時の私は、この名前をつけられてこんなに恥ずかしい思いや、つらい思いをしているのは私だけだと思っていました。親に名前をつけ逃げされたような気持ちだったんです。
── そのとき改名には至らなかったんですね?
金井さん:はい。すごく悩みましたが、「変えてもいいけれど、今後きっといいことがあると思うよ」という母の言葉を信じ、踏みとどまりました。
実際、私も親となり、娘の名前をつけるときに「名前をつけるってこんなに大変なんだ」と、経験しました。そして、こんなに子どもの名前で自分が生きるんだということに気がづいたのです。もちろん名前をつけたら終わりではなくて、病院の待合室などで娘の名前で「Aちゃんのお母さま」と呼ばれたり、保育園でも毎回娘の名前を名乗ったり、書類や持ち物などに娘の名前を書いたり…。
そこで初めて、「憧れ」という名前で生きてきたのは私ひとりではなく、母も同じだったのだということがわかりました。母も同じように私の名前を背負って生きてくれていたのだなと、今はあのとき母に当たってしまったことをすごく後悔しています。あらためていろんなことを考えてつけてくれた名前なのだと感じ、この名前を大切にしたいなと思いました。
── 次第にお名前への思いが変わったんですね?
金井さん:そうですね。もちろんいいこともたくさんあったのですが、つらいことのほうが目立ち、当時はまだ考えが幼くていろいろと想像ができていなかったなと思います。大人になり、いいことも多いということにようやく気づけました。あのときの母の言葉を信じてよかったです。
私は子どもがひとりいるのですが、子どもの名前は私の名前同様、送り仮名がついた「結な(ゆいな)」と名づけました。名づけにどれだけ神経と体力を使うか、親になって経験してわかりました。名前のことでいろいろな思いをしてきたので、ものすごく考えて悩み、個性的な名前でよかったなと思う部分と、嫌だったなと思う部分を両方考慮して、うまくフィットする名前がないかを考えました。
思春期のころは改名したいと思うほど嫌だった名前ですが、社会に出てこの珍しい名前のよさにも気づいてきたので、文字で見たときに記憶に残るものにしたいなと。あと、ひらがなのやわらかくかわいらしいイメージを使えたらと思いました。音で聞くとそんなに引っかからないけど、見たときに目に留まる名前として考えた結果ついに「結な(ゆいな)」になりました。
── とってもかわいいお名前ですね。ご主人からの意見などもあったのでしょうか?
金井さん:夫は普段、目立つことが好きというタイプではないのですが、名前に関してはなぜか私よりも攻めていて(笑)。夫は私に出会ったときに名前にすごく衝撃を受けていましたが、「憧れ」という名前についても良い名前だねと言ってくれていますし、もしかしたら珍しい名前をつけることに興味があったのかもしれません。私の名前がもたらしたさまざまな経験も知ったうえで、娘に珍しい名前をつけたいと思ったようで。「麗し(うるわし)」という名前が候補に挙がったんです。
これはもしかしたら私の上を行く個性的な名前かもしれないと私は悩みましたね(笑)。検討期間中は私もこれがいいと思うこともあったり…。素敵な名前だと思いますが、結果「結な」になりました。一生懸命つけたので、娘が名前を気に入ってくれるといいなと思っています。
自分の名前では本当にいろいろと悩みましたが、会社に入ってからも、フリーになるときも、違う名前で仕事をすることもできたのですが、あえてそこを本名でやらせていただいているのは親への感謝の気持ちでもありますし、「この名前で頑張るからね」という決意でもあります。今は自分の名前が大好きです。
PROFILE 金井憧れさん
フリーアナウンサー・キャスター(TBSスパークル所属)として、テレビやラジオなどさまざまな現場で活躍中。本名の「憧れ」という珍しい名前でも知られ、プライベートでは2歳の女の子のママとして子育てにも奮闘中。
取材・文/加藤文惠 画像提供/金井憧れ