『news23』のキャスター小川彩佳さん。器用ではなかったと語る小川さんが、テレビ朝日の社員からフリーキャスターとなり、大事にしていることとは。(全5回中の5回)

CMまでの10秒にプレッシャー

── 大学卒業後はテレ朝のアナウンサーに。新人時代はいかがでしたか?

 

小川さん:いわゆる優秀なアナウンサーではまったくないです。「小川は、何を言っても本当に響かないよな」って先輩から言われたことも(苦笑)。

 

新人時代は、最初に担当したレギュラー番組が『サンデープロジェクト』という政治討論番組でしたが、今思えば何もできなかったに等しいですね。番組では出演者の紹介やニュースを読む仕事以外に、司会の田原総一朗さんからコメントを求められることもありました。CMまで10秒、15秒の間に何かを喋らないといけない場面もあって、それが本当にプレッシャーで。

 

そもそも器用ではないですし、コメントもすごく考えてから発言しないと心配なタイプです。咄嗟のひと言が出てくる方や、機転が効いたり、面白いことが言える方は本当に羨ましいといつも思っていました。

 

リニューアルしたスタジオにて

── 『報道ステーション』ではサブキャスターを務めました。メインキャスターの古舘伊知郎さんからも学ぶことがあったとか。

 

小川さん:古舘さんは、よく行間を読むという言葉を使われていました。ニュースを伝えるときは、文字となっている情報だけではなくて、その先にある人の営みだったり、感情だったり、そこに絡んでいるいろいろな情報を自分の中に取り込んだうえで、そのニュースが漂わせている空気そのものを伝えていくことを意識されていて、とても勉強させていただきました。

 

新聞やネットにある文字の情報は無機質に見えるかもしれませんが、そこには必ず人が介入しています。人の営みやいろいろな感情が入り乱れていることを感じながらお伝えするのと、ただ原稿を読むのとでは、伝わり方も変わっていくのではと思っています。いかに自分に関連しているか、自分はどう思うだろうかと感じながら観ていただけるか。今も意識しながらお伝えしています。

ニュースキャスターとして意識すること

打ち合わせにて、真剣な眼差しの小川彩佳さん

── 小川さんはキャスターとしてどんなことを意識しているのでしょうか?

 

小川さん:自分の中にないものは出さないようにしています。知ったかぶりをしない、取り繕ったようなことは言わないように気をつけたいと思っています。

 

ただ、不特定多数の、さまざまな主義主張の方がご覧になっているなかで、全員が肯定するような伝え方はないのだと思います。誰かがこのコメントで傷つくかもしれない、コメントしないことで傷つくかもしれない。ニュースをお伝えしたときの表情に引っかかりを覚えるかもしれない。無意識の加害性のようなものは、必ず報道にはあるんだという意識でいます。

 

また、今はネットでも簡単に情報が得られる時代です。夜の生放送の番組でニュースを見る方は、すでにその話題を知っている方も多いと思います。ニュース番組の果たす役割ってなんだろう…すごく難しくなっている時代ですよね。

 

それでも、人と生で繋がることがどんどんなくなっているなかで、ちょっとテレビをつけたときに、リアルで動いている生身の人がいて、その人が伝えている生身の言葉があって、その一瞬だけでも同じニュースについて一緒に考える。その感覚は大事にしたいと思っています。

 

── 番組で扱うニュースは多岐に渡りますね。

 

小川さん:明るくお伝えするニュースより、事件や事故、災害など、憤りや痛みの伴うニュースのほうがどうしても多いですよね。特にここ数年は感染症に戦争にと、先行き不透明な時代を迎えています。ご覧になりながらつい内向きになったり、気持ちが沈んでしまうこともあると思います。それでも、『news23』では、最後は笑顔で「また明日お目にかかります」と締めくくるようにしています。明日またここで会いましょうね、それまでどうかお元気でという願いを交わし合いながら、1日を終えられるような番組でありたいと考えています。

 

PROFILE 小川彩佳さん

東京都出身。フリーアナウンサー。テレビ朝日に入社後、2019年に独立。現在、TBS系報道番組『news23』(9月25日よりリニューアル)のメインキャスターとして活躍。

 

取材・文/間野由利子