息子の難病を機に、子どもが栄養素をバランスよく摂れるサプリメントの開発を手がけた小浦ゆきえさん。開発途中で気づかされたのは、子どもの悩みは千差万別であるという現実でした。その経験が「mogふりかけ」を開発するきっかけになったそうです。

 

全体的な栄養バランスの底上げにこだわった「mogふりかけ」
全体的な栄養バランスの底上げにこだわった「mogふりかけ」

日本のふりかけ開発の元祖との運命の出会いが

── 息子さんが難病の診断を受けたことを機に、一粒で栄養が取れるチュアブル「mog」を開発された小浦さんですが、新たにユーザーさんの声を反映したふりかけも開発されたそうですね。

 

小浦さん:そうなんです。息子がエネルギーをうまく作り出せない難病、ミトコンドリア病だということを知って「一粒で子どもが満遍なく栄養がとれる栄養補助食品を作ろう」と美味しく噛んで食べられるチュアブルを開発しました。

 

味は、子どもが喜ぶように甘くしました。ただ、手に取ってくれたお子さんのなかには、その形や味を受け入れられなくて困っている子がいました。甘ければ子どもは好きなはずとか、飲み込まないで口で溶かすから食べやすいはずという考えは全員にマッチするわけではないということに気づかされました。

 

── どうしても合わないお子さんが一定数いらっしゃったんですね。

 

小浦さん:そうです。この商品は「お子さんに合わなければ返品OK」というシステムにしていました。そのおかげでさまざまな「合わない理由」を知ることができました。子どもによって「困っていること」は千差万別で個人差がありました。

 

そのような声を聞いて、「100%全員が美味しく食べられるものを作るのは難しい」というあきらめがついたのも事実です。

 

でも、お子さんがの少食や偏食に悩み、わらにもすがる思いでいる親御さんがいるのであれば、同じ悩みを抱える親として、放っておくことはできないと思ったんです。解決方法の選択肢を増やすために、思いついたのが「ふりかけ」でした。

 

ふりかけは好きなお子さんも多いですし、サプリの形に抵抗がある子にとってもより身近に感じてもらえるのではないかと。

 

「mogふりかけ」を開発した小浦さん
「mogふりかけ」を開発した小浦さん

──ノウハウのない「ふりかけ」を商品化するプロセスは大変だったのではないでしょうか?

 

小浦さん:今回、ふりかけの開発に協力をしてくださったのが熊本にある会社・フタバさんでした。フタバさんは、日本のふりかけを開発した元祖として知られる会社です。大正2年の食料不足の時代、ふりかけはカルシウムを補うためのものとして薬剤師によって考案されたものだったそうなのです。私の持つコンセプトと同じところからスタートしたフタバさんとの出会いは運命的でした。

 

そこからは、子どもが食事として違和感なく身近に食べてくれるふりかけを目指して、開発をスタート。ビタミン、鉄分、亜鉛、カルシウムなどの栄養素、バランスのいい配合を相談しました。ふりかけはすきやき味にするなど、フタバさんの味付けの技術なども詰め込み、私の考える理想を形にするべく、協力していただきました。

「食べられなくて困っている」という視点を持つ

── 小浦さんは食べない子の支援情報サイト「はぐもぐ」も運営されてます。

 

小浦さん:「はぐもぐ」では、その子に合った「食のつまづき」を見つけることを目標にしています。商品を開発して、食べてくれない子には食べられない理由があり、それは千差万別だということを知りました。たとえば偏食や小食という問題以外にも、食事に集中できないとか、食事に興味を持たないとか、「食べる」という行為の習得自体が難しい子もいます。

 

そういう子の中には、食事そのもの以外に食べられない理由があることも多いです。「椅子や机の高さや形が合っておらず姿勢を保ちにくいのでは?」「気が散るもの(音・掲示物など)が近くにないか」「食器が使いづらいのでは?」など、解決につながるかもしれない情報をご紹介します。困っている親御さんたちにとって、なにかしらの解決の糸口になってくれたらと。

 

また、親御さんと医療機関の橋渡しになりたいという思いもあります。困っている内容をネットで探してもお医者さんたちの使う専門用語と親の検索する言葉が違っていて、情報にたどり着けないという問題もあります。また、実は案外知られていませんが「食べないこと」は医療機関に相談してもいいんです。情報も発信していき、何か気になったら定期検診の時やかかりつけの小児科医にまずは相談してもらえたらと思います。

 

偏食・少食・食のお悩みの支援情報サイト「はぐもぐ」
偏食・少食・食のお悩みの支援情報サイト「はぐもぐ」

── 今の親世代は「好き嫌いなく食べるのが当たり前」という時代でしたから、親側の考えのアップデートが必要だなと感じます。

 

小浦さん:そうですね。また、食べられない子への目の向け方も変えていきたいと思っています。私もかつて小学校の頃、給食に出た苦手なものがどうしても食べられず、休み時間もずっと教室から出られない経験をしました。今思えば、子どもに無理強いすることでますます嫌いになるというリスクになりかねませんよね。こうした背景には、食べられないことがわがままだという考えが当時は一般的なところがありました。

 

でも、本当は子どももわがままを言っているわけではなく「食べられなくて困っているんだ」ということ。そういう視点で「苦しんでいる」「困っている」を解決すべく大人がアプローチしてあげることで変わってくると思うんです。社会全体がそういう視点を持てるように私も貢献していけたらいいなと思っています。

 

PROFILE 小浦ゆきえさん

日本臨床栄養協会認定NR・サプリメントアドバイザー。健康食品・栄養補助食品の選び方・付き合い方を伝える健康食品アナリスト。息子の少食や病気をきっかけに、子どもの食事と栄養について学び、こども栄養バランスmogを開発。 食べない子の支援情報サイト「はぐもぐ」を運営。

取材・文/加藤文惠 画像提供/小浦ゆきえ