大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、結婚20年目の夫の嫌味っぽい態度に悩む女性の相談にお答えします。
【Q】20年連れ添った夫の態度に腹が立つ!
結婚20年目。お互いフルタイムのため、仕事のすれ違いから夫とはあまり会話がない日々が続いています。ちょっとした家事は手伝ってくれるのですが、家事偏差値が低めです。いちいちやり方が雑でそれが私にはストレス。
たとえば、湿気ている洗濯物を取り入れて畳もうとしたり、泡がついている食器を水きりかごに入れようとしたり。「まだ畳まないで」「まだ泡ついてるよ」と私が普通に声をかけると、無言で「チッ」と舌打ちしたり、「はぁ」とこれみよがしにため息をついたりします。まるで自分だけ我慢しているかのような態度で、余計に腹が立ちます。子どもは巣立っているので、このまま2人きりの生活が続くかと思うと絶望的な気分です。雰囲気をうまく変える方法はあるでしょうか。
夫に家事を自由にやらせて気づかせる作戦
家事の”気になるライン”が夫婦で共有できないと、ストレスになりがちですよね。ご相談の場合ですと、ご主人はわりと大ざっぱ派で、奥さまは細かいところまできちんとやりたい派とお見受けしました。
せっかく家事をやってくれているので、一度ご主人の”気になるライン”に合わせる実験をしてみてはいかがでしょうか。
これは作戦です。実験中は、いつもの声かけをグッとがまん!やり方に口を出さないで見守ります。ご主人のやり方に合わせると、生乾きの洗濯物を畳んで臭くなったり、シワシワになったり、カビが生えたりすることもあるかもしれません。こうした経験を通して「あれ?乾いていないまま畳むとあとからこんなに大変なるのか」とご主人が学べば、なぜ奥さんが自分のやり方を嫌がるのか、声かけが嫌味のつもりではないことにも気づくと思います。
さりげない感謝の言葉とにおわせ発言でやんわりと
それから、ちょっとした家事をしてくれたときに、感謝の気持ちをさり気なく伝えられるといいですね。「やり方が気に入らないからイライラする」という気持ちもあるとは思うのですが、これから2人きりの生活が続くということですから、こうした感謝のやりとりは夫婦関係を見直すうえで大事になってくると思います。
「洗濯物、畳んでくれてありがとね」
「食器洗っといてくれたんだね」
と、とりあえず伝えてみてください。たとえ洗濯物が湿気ていても…。もし、「湿気てるよ」というひと言を添えたいのであれば、これまでのように「まだ畳まないで」と言わずに、
「もし乾いてなかったら、あとでわたしやっとくよ」
「今日は乾いてたんだね」
と、やんわり伝わる“におわせ発言”をしてはどうでしょうか。
舌打ちやため息がつらいことは“Iメッセージ”で伝えて
普段のやりとりのなかで、相談者さんが特に不満に思うのはご主人のため息や舌打ちですよね。「まるで自分だけ我慢しているかのような態度」とご相談内容にありました。「そんな態度しないでよ!」と、思わず怒りたくもなるでしょうが、ここは賢い伝え方をしてみませんか。どんな態度でどんな気持ちになるのかをI(わたし)を主語にして伝えてみると、相手の心に響きやすくなるかもしれません。
「チッて舌打ちされると、わたしはすごくつらい気持ちになるの」
「ハァってため息つかれると、わたしまでズーンとした気持ちになるんだよね」
など、具体的なご主人の態度を示して、それによって「わたし」がこんな気持ちになるんだよ、ということをさわやかな自己表現であるI(アイ)メッセージで伝えます。
ため息や舌打ち=反論することさえ疲れている!?
ご主人はこれまでの積み重ねで、ため息や舌打ちという手段に出ているのだと思います。相談者さんの「まだ畳まないで」「まだ泡ついてるよ」などの声かけを、ご主人は文句や小言と受け止めてきたのでしょう。文句に対して「そんなこと言うなよ」「ちゃんとやってるよ」と反論するのにも疲れている状態と推測されます。結婚20年ということですから、「また文句言われてるよ」の「チッ」だと思いますし、「それを言われると疲れることくらい察しろよ」の「ハァ」なのでしょう。言い方を変えれば「察してほしい」のだと思います。
あまり男女で特徴を分けるのはよくないですが、男性は言葉数が少ない傾向にあります。しゃべることで発散する人も多いですが、逆に黙って頭の中で考えているほうが負担が少なくストレス度が低いという人もいます。言葉で言い返すより、ため息や舌打ちのほうがご主人にとってはストレスが少ないのかも…。気持ちの解消の仕方が、夫婦で違うということも認識しておいたほうがいいかもしれません。
会話のきっかけづくりに!夫婦で美術館や映画館へ
ご夫婦の「会話がない日々が続いている」というのは気になります。コミュニケーションは大切です。お子さんが巣立ってから子育ての話題がなくなり、会話のネタが見つからないのかもしれませんね。でも結婚当初から会話がなかったわけではないと思います。元々はどんな会話をしていましたか。共通の趣味はありませんでしたか。家の中だと家事のやり方が気になって険悪になってしまうかもしれないので、たまには2人で外出し、デートしてみてはいかがでしょうか。
いきなりカフェやレストランへ行くと、お互い向き合うことになるので会話のプレッシャーがあります。何かを見に行く、体験にしに行く、という目的地がおすすめです。なので、美術館や映画館、神社仏閣など、しゃべらなくてもお互いが楽しめるような行き先を選ぶとよいでしょう。そのあと一緒に鑑賞した作品の感想を言い合えば、会話はスムーズに盛り上がりそうです。初デートと一緒ですね(笑)。
ペットを飼うのもいいですよ。住宅事情にもよると思いますが、ペットの話題が増えますし、散歩の時間も共有できます。それから家事の“気になるライン”が崩れるかもしれません。きれいに保っていられなくなるからです。
「ちょっとした家事は手伝ってくれる」ということですから、それはそれでブラボー!だと考え、お互い歩み寄れる環境づくりをしてみてはいかがでしょうか。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!