テレビ東京社員兼漫画家として活動する真船佳奈さん。第一子出産を経て、今年4月に復職した彼女が描く、保活や育休復帰の実体験漫画が共感を呼んでいます。(全3回中の3回)

 

テレビ東京社員兼漫画家の真船佳奈さん
テレビ東京社員兼漫画家の真船佳奈さん

出産で「ひとりだけ宇宙に行ったような孤独を感じた」

── 今春、育休明けで復職されました。子育てをしながらテレビ局員としての仕事もして、毎日ブログに漫画もアップしていますね。今はどんな生活スケジュールで漫画を描いているのですか?

 

真船さん:土日のどちらかにまとめて書いています。「今日は1日漫画描くからね」と宣言して、その日は夫に子どもを見てもらって、1週間分まとめて描いています。あとは息子がいつも8時半には寝るので、その後に描くこともあります。

 

ただ、今は漫画の仕事をセーブしているんです。連載はやってなくて毎日1本ブログにアップすることだけをマストにしています。通勤時間を使ってSNSに漫画を投稿したり、漫画の画像加工をしたりしていますね。

 

テレビ東京プロモーション部で、番組PRに携わっている真船佳奈さん
テレビ東京プロモーション部で、番組PRに携わっている真船さん

── 慣らし保育など育休からの復帰を描いた漫画がリアルで共感できました。実際復職されていかがでしたか?

 

真船さん:私は今まで本当にお仕事が大好きで、漫画を描くのも大好き、っていう日々を送っていたんです。もちろん望んで子どもをつくったのですが、ただ子どもが生まれてからは、自分が宇宙に来てしまったような感覚で。私だけひとりぼっちの世界にいて、地上では私がいない時間が流れているような…。

 

かといって、子どもがいない友人に育児の愚痴を言ったり、今の気持ちを説明をできる自信もなくて。そもそもこういう弱音を吐くのってどうなんだろう、と周囲に悩みを言えず、孤独を感じていました。

 

真船佳奈さんの漫画作品
ブログには保活や育休復帰の苦労など実体験を描いた漫画が多数(真船さんのブログより)

真船さん:でも、復職してからは「あたるくんママ」ではなく「真船さん」と呼んでもらえて、自分個人の名前で評価を受けられるのがすごく嬉しくて。

 

子どもと触れ合う時間は減ってしまったけど、子どもとふたりで一日中家にいたときよりも笑顔で関わり合えているかなと思います。休日は「家族で息子の好きなところに行こう!」という気持ちにもなるし、私は復職してよかったタイプなのかもしれません。

家事は「死なない程度」割りきって子どもと遊ぶ

── とはいえ、育児との両立はご苦労も多いと思います。家事はどう乗りきっているのですか?

 

真船さん:家事は本当に全然やってないんです(笑)。まず、ご飯は作りません。子どもの分だけ週に1回まとめて作って冷凍しています。

 

大人は各自好きなものを買ってきます。だから、夫から「ご飯あるの?」って言われることもない。掃除も週1回しかやらない。散らかっていても、危なくない程度なら別にいいのかな、と。洗濯も洗濯乾燥機にかけっぱなしで、中に入っている服のニオイをかいで、洗濯済みかどうかを確認して着ています(笑)。

 

今は夫が忙しく、私も復職したてで、息子は目が離せない時期。だからとにかく「苦しくならないように乗りきる」。子どもがもう少し大きくなって次のステージに行ったら、そのときにまた家事のやり方を見直せればいいかな、と思っています。

 

── それは勇気が出るエピソードです。

 

真船さん:帰宅後子どもと一緒に過ごせる時間って、寝ている時間を除けば2、3時間とかしかない。土日もどちらかは仕事をしているので、家事する分は一緒に過ごす時間に充てたいな、と。

 

しかも私、家事が元々下手なので、頑張ってご飯を作ったところで総菜よりおいしくないんです(笑)。だから、割りきって子どもと遊ぼう、と。

 

──「家事はやらない」と割りきれるようになったのは、何かきっかけがあるのでしょうか?

 

真船さん:育児休暇中は「自宅にいるし、家事をやらなきゃいけないだろうな」と思っていたんです。でも、産後3か月くらいはご飯を作ろうと思っても、子どもと買い物に行くのがもうつらい。ネットでの買い物も、献立を考えるのも疲れてしまう。だんだん家事という“任務”を抱えることで、子どもの泣き声が「うるさい」と感じるようになったり、子どもに余裕を持って向き合えなくなってしまって。

 

それでピリピリするぐらいだったら、別に大人はカップラーメンを食べてても死なないし、みんながニコニコ「今日いい1日だったな」って終わったほうがいいなって思ったんです。夫も私が「今日もご飯作れなかった」と思いつめてイライラするのを見て「ご飯は本当に作らなくていい」と言ってくれて。

 

復職してからも余裕がなくて、寝かしつけまで秒で時間が過ぎていく感じなので、「子どもが大きくなるまでは、家事はいいや」と割りきれるようになりました。

なぜ紙ベース?子育て行政へのギモン

── ほかに育児をするうえで困ったことや驚いたことはありましたか?

 

真船さん:以前、漫画で「児童館にたどり着けない」という話題について描いたんです。自治体によって違いはあるらしいですが、児童館や行政のイベントって、基本案内が紙ベースなんですよね。一応ホームページはあるものの、大量の紙ベースのお知らせがPDFでアップされていて。そこから、一つひとつファイルを開いて必要な情報を探す、みたいな作業があって。

 

今子育て中のお母さんって、SNS全盛のデジタルネイティブ世代なのに、サービスを提供する行政側と齟齬があるな、と感じました。イベントの開催情報も、ママ友をつくって情報共有しないとたどり着けなかったんです。

 

── わかります。お知らせが児童館や役所に張り出されているだけ、というのもけっこうありますよね…。

 

真船さん:そうなんですよね!イベントの申し込みも現地まで行かないとできなかったり。産後、孤独に陥った人が育児について話したいと思っても、なかなかイベント参加までたどり着けない現状があると感じました。

 

行政サービスはあるのかもしれないのですが、当事者とつないでくれるものがない。そこがもっとつながったら、孤独を感じるお母さんが少なくなるんじゃないかなと思いました。

本業と副業の境目をなくしていきたい

── これから先のキャリアプランがあれば教えてください。

 

真船さん:今春プロモーション部に異動して、これまで私個人でSNSを運用してきた経験も生かせているので、すごく楽しくて。今後もプロモーションの仕事は続けていきたいなと思っています。

 

今後は本業と副業の境目をどんどんなくしていきたいです。今は本業のプロモーションのお仕事として、ドラマのレビュー漫画を書かせていただいたりもしているので、番組の番外編の漫画連載を担当するとか、プロモーションのための漫画を書いたりもしてみたいですね。

 

── 本業と副業の境目をなくす、というのは?

 

真船さん:会社員でありながらここまで堂々と漫画家として活動させていただけている環境が本当にありがたいなと思っていて。本業のほうにも還元できることが絶対あるはずだから、どっちも生かしていきたいと思っています。

 

本業で得た知識を自分の漫画にも生かせているところもありますし。漫画の販促でも、本業の知識が生きています。会社にも恩返ししていきたいし、「この会社にいてくれてよかった」と思われる仕事をしたいですね。

 

── 漫画家として独立は考えないのでしょうか?

 

真船さん:漫画はすごく好きなんですけど、漫画家1本でやっていこうとはあまり思わないんです。今、テレビ局員という割と珍しいお仕事ができて、常にエンタメを作る人たちのそばで、刺激を受けながら漫画を描けているので。

 

この環境から離れて漫画だけになったら、自分が何を書けるのか自信がないところもあります。今後も会社に属しながら、漫画を描いていきたいと思っています。

 

PROFILE 真船佳奈さん

テレビ東京局員兼漫画家。2017年、AD時代の経験談をまとめた『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』で漫画家デビュー。平日はテレビ局員、休日は漫画家として活動。

 

取材・文/市岡ひかり 画像提供/真船佳奈