出産や産後をリアルに描いた漫画『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』が話題となっている、テレ東社員兼漫画家の真船佳奈さん。夫婦仲が悪化する“産後クライシス”を経験してたどり着いた本音とは。(全3回中の2回)

“ママの愚痴大会”漫画にはしたくなかった

── これまでも真船さんは、社員兼漫画家として活動するなかで、旦那さん用パンツを自作するなど旦那さん溺愛エピソードをよく描いていましたよね。ただ、書籍『頼りになるのはスマホだけ?!』では、そんな仲でも夫婦関係が悪化してしまったエピソードが描かれています。

 

真船さん:そうですね。妻側が描くコミックエッセイは、どうしても主観がメインになってしまい、どちらか一方が悪者になってしまいがちです。

 

ただ、私は夫が嫌いだから喧嘩しているわけじゃなく、彼のことが大好きで。今までずっと私のことを理解してくれていたのに、子どもを産んでから急に気持ちがすれ違ってしまって。今までわかってくれていたぶん「なんでわかってくれないの?」と余計に失望してしまい、気持ちが爆発してしまったところもあるな、と思うんです。

 

世間のお母さんも夫のことが嫌いになったわけではなく、期待して頼りにしているからこそ、応えてもらえないことに失望して、産後クライシスって起こるのかな、と。

 

男性は男性で、自分の体が変化するわけじゃないから、奥さんの変化についていけない面は当然ある。ただ、妻側は目の前のことにいっぱいいっぱいで、うまくSOSを出せなくなってしまう。

 

男性も男性で自分勝手に生きたいわけではなく、親になりたいんだけど、その方法がわからないところもあるんだろうなと。なので、この本は、ママの“愚痴大会”みたいな漫画にはしたくなくて、男性にも、子どもがいない女性にも手に取ってもらい、産後の女性の変化を理解してもらえたらと思っています。

 

私のように夫が大好きで、夫に自分の顔をプリントしたパンツを作るような人でもすれ違いは起こるんだよ、と発信する意味があるかなと思っています(笑)。

 

── 漫画で描かれていた、ケースワーカーさんからの「ひとりで倒れるくらいなら、育児は共倒れのほうがマシじゃない?」というアドバイスが刺さりました。

 

『頼りになるのはスマホだけ』(はちみつコミックエッセイ)より
『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』(株式会社オーバーラップ)より

真船さん:そうですよね。今までは仕事も“助け合い”が基本でした。みんなで倒れたら終わりだから支え合っていこう、という。会社の中でそうやってきたので、夫とも「共倒れしないようにしよう」と、それだけをルールにしていたんです。

 

ただ、実際、産後私は心も体もボロボロになってしまったのですが、それを夫にうまく伝えられなくて。夫は夫で言われないとわからない部分もあっただろうし、特に私は母乳育児にこだわってたところもあったので、夫は「授乳は妻に任せよう」となってしまい…。

 

結果的に私ひとりで倒れてしまったんですが、本当は夫婦ふたりでボロボロになりながら、同じステージでこの状況を乗り越えたかった。仮にそれでダメだったとしても「ダメだったね」とふたりで言い合いたかったんだ、と気づいたんです。

頼れる環境をつくったことで夫との関係も好転

── その後、旦那さんとの関係は、育児や家事分担などを決めたのですか?

 

真船さん:それほどシステマチックに役割分担は決めてないんですが、「こうしてほしい」という気持ちは、お互いにどんどん言うようにしました。

 

それと、夫以外の人にも頼れる環境をつくれたことが、結果的に大きかったと思います。当時、夫は忙しい部署で時間的な制約もあって頼ることが難しかったので、私がワンオペにならない状況をつくるために、実母の家の近くに引っ越しました。

 

あとは、行政のサービスを活用してひとりになれる時間をつくったり、ママ友をつくって話ができる環境をつくったり。夫以外の仲間ができ、いろんな人に頼れる状況をつくれたので、私も余裕ができて、「なんで私だけ」となることが減ったと思います。

 

『頼りになるのはスマホだけ』(はちみつコミックエッセイ)より
『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』(株式会社オーバーラップ)より

今まで頼る相手が夫しかいなかったけど、助けてくれる人や制度と繋がることができて、結果的に夫との関係もうまくいくようになった、という感じですね。

 

その後、夫は部署が変わり時間に少し余裕ができたので、「毎朝保育園に送っていってね」など分担できるようになりました。今は土日のどちらかで漫画を描いているんですが、その間は夫が子どもを外に連れ出して、公園でしばらく遊んで買い物して帰ってきて、夕飯を作ってくれたりします。

 

あと私が「今日だけはどうしても飲みに行きたい」っていう日は、早めに家に帰って、子どもの寝かしつけまでやってくれます。もちろん夫の予定も尊重しています。自分の希望を伝えて「こうしてくれないか」と話し合えるようになったので、今はすごくいい関係だと思います。

 

── ちなみに旦那さんは、真船さんの漫画を読んで何と?「あの時こう思っていたんだ」みたいなことはあったのでしょうか?

 

真船さん:あ、テンポがいいって言ってましたよ(笑)。あと誤字脱字が多い、と。たいしていい感想はもらえませんでしたが、この本のタイトルは夫がつけてくれました。私たち家族の、“初めての共同制作の本”です!(笑)

 

PROFILE 真船佳奈さん

テレビ東京局員兼漫画家。2017年、AD時代の経験談をまとめた『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』で漫画家デビュー。平日はテレビ局員、休日は漫画家として活動。

 

取材・文/市岡ひかり 画像提供/真船佳奈