テレビ東京社員兼漫画家として活動する真船佳奈さん。「出産は尻穴ドリル」「いつのまにか“母乳信仰”に」。そんなリアルな出産を描いた漫画『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』が話題です。「出産は周りと比べなくていい」と彼女が語る理由とは。(全3回中の1回)

語られてこなかった出産の現実「残したかった」

── テレビ東京の社員として働きながら漫画家としても活動している真船さんですが、テレビ東京では今どんなお仕事を担当しているのですか?

 

真船さん:今年4月末に育休から復職したのですが、プロモーション部という新しい部署に異動しました。名前の通り、テレビ東京の番組プロモーションを担当する部署で、番組の宣伝計画を考えたり、TikTokやInstagramなどのSNSの運用を担当しています。

 

── 元テレ東プロデューサーの佐久間宣行さんの目に留まり、漫画家デビューのきっかけにもなった『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』で描かれていたようなAD時代と比べて、今の忙しさはどうでしょう。

 

真船さん:今は基本的に時短勤務です。繁忙期はフルタイムになりますが、そのときは実家の母やシッターさんを頼んだり、夫と育児を分担したりしています。

 

── 仕事と育児を両立しながら漫画を描くのは大変そうです…。『頼りになるのはスマホだけ?!』にはすごくリアルな出産・産後が描かれていますが、産後すぐに描き始めたのでしょうか?

 

真船さん:産後すぐは漫画を描く状況にはなれなくて、時々SNS上にマンガをアップしていたくらいでした。ただ、妊娠初期のころから、「出産の記録を残したい」「絶対に漫画にしてたくさんの人に読んでもらいたい」と思っていたので、当時の様子をスマホで細かくメモを取ってたんです。

 

たとえば、出産が終わって分娩台に乗ってるときも、「何時何分に陣痛促進剤を入れて、どういうことが起きた」とか、「お医者さんが何て話したか」とか全部メモしていました。それで、子どものことを誰かに見てもらえるような状況になってから、メモをもとにワーッと漫画を描いたんです。なので、メモを取ったときの勢いをそのまま漫画にぶつけられました。

 

『頼りになるのはスマホだけ』(はちみつコミックエッセイ)より
『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』(株式会社オーバーラップ)より

── 陣痛の感覚って産後は忘れますよね。今回の漫画の「尻穴ドリル」という表現で「こんな感じだった!」と思いだしました(笑)。

 

真船さん:みんな忘れちゃうんですよね。赤ちゃんはかわいいし、新生児育児に突入すると、お世話が大変でそれどころじゃない。

 

そもそも妊娠・出産の話って、出産前の人が怖がっちゃったりするから、あんまり話されず、ベールに隠されている部分があるじゃないですか。私も産前に、出産を終えた友人に「どうだった?」って聞いたら、「後で答え合わせしよう。今伝えたら怖がるでしょ」って言われて。

 

でも、私は知りたかったんですよね。事前に病院から、陣痛がどう変わっていくのかなど一応説明はあったんですが、全然ピンと来なかったんです。なので、この漫画は「ひとりの出産のリアルな記録」として残しておこうと、執念で描きました。

「努力しなかったから母乳が出ないんだ」と追い詰められ

── 産後思うように母乳が出ず、“母乳信仰”で苦しんだお話にも共感しました。

 

真船さん:むしろ産前は「ミルクで育児するために産後すぐ薬で母乳を止める」という人の話を聞いて「私もそれぐらいでいいかも」ぐらいに思っていたんです。でも、不思議なんですが、スマホとかでいろいろな情報を目にするうちに、いつの間にか「母乳じゃなきゃダメ」という考えに変わっていって。

 

「母乳は乳幼児突然死症候群の確率が低いです」「初乳には栄養がたくさん含まれています」とか…。粉ミルクのパッケージにも「赤ちゃんにとって母乳が最良です」と書いてあって。そういう情報に触れていくうち、だれに何を言われるでもなく、だんだん「あれ?ミルクをあげることって、どうなんだろう…」って思い始めたんです。

 

『頼りになるのはスマホだけ』(はちみつコミックエッセイ)より
『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』(株式会社オーバーラップ)より

さらに母乳って「努力システム」みたいになっているところがありませんか?赤ちゃんに乳を1日何回も吸わせることで、おっぱいがやっと軌道にのって、母乳育児ができるようになる。

 

ただ私は、産後2日間、夜間は子どもをナースステーションに預けていたんです。今考えると、全然悪いことじゃないんですけど。でも、その2日間で母乳の出が遅れてしまった、という負い目があって。

 

「他のお母さんは寝ずに頑張っておっぱいをあげていたから出ているのに、私は努力しなかったから出ないんだ。ここから巻き返さなきゃ」という気持ちになってしまって…。

 

── それは苦しかったですね…。

 

真船さん:でも説明がつかないですね。自分がいつから母乳信仰になったのか。

 

── 私も産前は、母乳は産んだら普通に出るものかと思っていました。

 

真船さん:そうですよね。全然出ないし、出ないと赤ちゃんはめっちゃ泣くし…。「なんだ、このシステムのバグって」って思いました。

産後のつらさ「人と比べなくていい」

── 漫画では、産院退院後、産後ケア施設を利用されたお話も描かれていました。ケア施設の存在は知っていても「大変なお産だった人が使う施設だから」と利用を躊躇する人もいます。

 

真船さん:出産って、他人と比較をしてしまう人が多いと思うんです。でも「私は無痛分娩だったから出産の痛みを語る立場にない」「十数時間陣痛に耐えた人よりは軽かったから、『大変』って言ってはいけない」みたいに思う必要はまったくなくて。

 

つらいものはつらいし、痛いものは痛い。それは個人が決めていいことで、自分の身体の状態を自分で判断していかないと、どんどん精神的に追い詰められてドロ沼にハマってしまう。

 

誰でもSNSを出して、いろんな人に頼っていい。実際に困ったときに使える支援サービス・預け先など、漫画にはさまざまな情報を盛り込みました。

 

『頼りになるのはスマホだけ』(はちみつコミックエッセイ)より
『令和妊婦、孤高のさけび!頼りになるのはスマホだけ?!』(株式会社オーバーラップ)より

── 漫画の中でも、妊娠中は周囲から「体調が悪くて当たり前」と何度も言われることで、不調を訴える気持ちがなえてしまうことが指摘されていました。

 

真船さん:妊娠って、妊娠初期からいきなりつわりが始まりますが、そこから「お母さんになるんだからしょうがないよね」がスタートする気がしていて。

 

私の場合、妊娠中は息切れや便秘などマイナートラブルがほぼ毎日あって、妊婦検診で「やっと相談できる」と思っていても、お医者さんからは「ある程度はしょうがないよ。お母さんなるんだから頑張らなきゃね」と言われてしまって。

 

お医者さんが悪いわけじゃないんですけど、妊娠や出産では、あまりにそういうことがあふれていて。だから「みんな耐えているんだから」と周囲と比較して、だんだん自分の気持ちが言えなくなっちゃうのかな、って。

 

── わかります…!

 

真船さん:それに加えて、妊娠中は生ものが食べられなかったり、お酒も飲めなかったりと、やれることがどんどん少なくなる。一方、夫は、以前と変わらないペースで過ごしているように見えるので、そこから夫婦のすれ違いが始まるのかな、と思いますよね。

 

PROFILE 真船佳奈さん

テレビ東京局員兼漫画家。2017年、AD時代の経験談をまとめた『オンエアできない! 女ADまふねこ(23)、テレビ番組作ってます』で漫画家デビュー。平日はテレビ局員、休日は漫画家として活動。

 

取材・文/市岡ひかり 画像提供/真船佳奈