「若者に大人気!」ともてはやされ、現れては消えていくさまざまな流行りの食べ物たち。三世代同居、高齢者二人のわが家にも当然、その波はやってきます。
食欲があるのは「精神的に元気だから」
大きく年齢の離れた同居家族でよく問題になるのが、食生活の不一致です。あっさりしたものを好む高齢者に対して若い世代はガッツリしっかり食べたい、となると揉めごとになるのはよくわかります。
幸い、わが家の高齢者である義父母、食生活はまだまだ現役。若者向けのがっつりメニューも喜んで食べてくれますし、ボリュームのある揚げ物もペロリと平らげます。高校生の息子が好きで作るエスニック料理なども、果敢にチャレンジしては、気に入って「また作って!」とリクエストしたりする様子は、以前このコラムでも綴った通りです。
思うに、食欲というのはただ単に体が健康で空腹になるということだけではなくて、精神的にも元気で、新しいものに対する好奇心があってこそではないでしょうか。
よく義父母は「私たちは若い人と同じものを毎日食べているから元気でいられるのよ!」と言っていますが、そもそも若い人たちが食べる見慣れないものにチャレンジしてみたいと思う、その好奇心が心身ともに元気な証拠に違いありません。
また、料理を作る側としても、わざわざ2種類の献立を分けて作らなくてもいいというのは本当に助かります。いつまでもこのまま元気で…と願わずにはいられません。
弾力のある流行りのグミが噛みきれない!
しかし、それはそれとして「若者と同じものを食べたい」という意欲があることで、困った事態もあるのです。
あるとき、動画投稿サイトなどで爆発的に流行ったグミを私も一度食べてみたくなり、ネット通販で何個かまとめて購入しました。もっちりと弾力があり、卓球の球くらいの大きさのあるさまざまな種類のグミを、中学生の娘と一緒に盛り上がりながら食べていたら、義父が「それなに?ひとつちょうだい」と言ってくるのです。
「今流行ってるお菓子ですよ、どうぞ」と、何も考えずに手渡したはいいのですが、大きなモチモチのグミを噛み切ろうと四苦八苦している義父を見て、ハッと気づきました。
このお菓子、高齢者には危険すぎる…!
幸い、義父は80代になるまで虫歯が一本もないというのが自慢です。なんとかグミを噛み切って、よく噛んで飲みくだすことができたのですが、無事にその一連の動作を見届けるまでハラハラしたことといったらありません。
繰り返される義父母の挑戦
思い起こせば、これまでにも、流行りの食べ物にヒヤリとさせられたことが何度もありました。
タピオカミルクティーの最後に残ったタピオカを勢いよくストローで吸い上げては、喉に詰まりそうになったり…。
食べるラー油にハマったはいいものの、辛いタイプを試したらむせて、具が気管に入りそうになりさらにむせて…の悪循環になっていたり…。
マカロンを大きくひと口かじっては、生地が上あごにくっついて目を白黒させていたり…。また、ヤンニョムチキンを食べたときはザクザクの衣と辛いソースの相乗効果でむせ返ったり…。
ヒヤリとしたことは一度や二度ではありません。
義父母もそろそろ高齢者に厳しい食べ物については自衛してほしいと思うのですが、「まだまだ若い!」という自信のせいか、それとも目の前で珍しいものを食べているのを見て好奇心を抑えきれないのか、その都度チャレンジしては苦しい思いをしているのです。
最近、娘にねだられて買ったのはやはり動画サイトで人気の、長い紐状のグミ。それだけでも嫌な予感がするのですが、さらにそのグミには、見栄えと食感を面白くするために、色とりどりの細かなキャンディやラムネの粒がびっしりとくっついているのです。
娘が食べているのに興味を示した義母が、止める間もなく娘から少しちぎってもらったものを口に入れます。
そして案の定、「ゲホッゲホッ、これ、面白いけどゲホっ食べにくいわねゲホッゲホッ」。
細かなキャンディの粒に涙を浮かべながらむせかえる義母を見て、「いくら元気で好奇心旺盛といえど、高齢者にうかつに若者向けの流行の食べ物を食べさせてはいけない!」と、あらためて肝に銘じる同居嫁でした。
文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ