結婚して長男誕生とともに長野に移住した井上晴美さん。その後、3人目の子の出産を機に熊本に移住しましたが、2016年に熊本地震にて被災。ひょんなことから友達家族と計10人で車やテント生活をすることに。しかし、多数の誹謗中傷が寄せられて…。(全4回中の4回)
子どもたちは畑にテント、大人たちは車で寝て
── 2016年4月に熊本の震災が発生、28時間以内に震度7の揺れが2回ありました。1回目の大きな揺れは夜21時を回っていましたが、当時の状況はいかがでしたか?
井上さん:私は台所にいて、子どもたちはベッドで寝ていたら、突然激しい揺れがおきました。ずっと揺れが続いているし、電気も消えて家の中が真っ暗になって。慌てて子どもたちを起こしました。
── ご自宅は無事でしたか?
井上さん:家の中がグチャグチャでしたが、家族の状況を確認して、近所に住む友達も心配になって電話をしてみたんです。そしたら友達の家もしっちゃかめっちゃかな感じで。友達の旦那さんが熊本市内に勤めていましたが、道路に亀裂が入り、道もあちこち封鎖になって渋滞で帰って来られないと言うんです。友達の家もうちの家族と一緒で、子どもが3人います。とても大変そうだったので、様子を見にいくことにしたんです。そこで、2回目の大きな揺れが起きました。友達の家も私の自宅も全壊して、ふた家族一緒に避難生活が始まりました。
── 避難所には行かれたのでしょうか?
井上さん:小さい子どもたちが6人もいたので。避難所だと大きな声を出したり、走り回っても迷惑になるかもしれない。子どもたちも我慢しなきゃいけないからストレスになるかと思って、畑にテントを張ることにしました。子どもたちはテントに、大人たちは車で寝ることにしたんです。ただ、地震が発生すると雨が続くのかな。畑にテントを張っていたので、地面が沼になってしまい、次第にここも無理だねとなって、一度その場所からも出ることになりました。
── 新たな避難場所を探して。
井上さん:そこで驚いたのが、畑から車で10分、20分走らせると、みんな普通に生活をしているんです。コンビニもスーパーも普通に営業しているし、ガソリンスタンドも開いてる。今まで自分たちがいた場所だけが、電気もガスも水道も止まってサバイバルしているような感じ。そこだけ時が止まっているような、隔離されているような気がして、え?何これ?って。どっちが現実世界かわからなくなるような、映画を観ているような感覚でした。
その後、ホテルを探しましたがどこも満室で空いておらず、最後の最後で小さな旅館が見つかって入れてもらうことに。私たちは10人で移動していたので、大部屋での生活が1か月くらい始まりました。
数えきれないくらいのコメントが
── 震災の様子をブログでも掲載されていましたが、誹謗中傷もあったとのこと。ブログにはどんなことを書いていたのでしょうか?
井上さん:旅館に入る前から、自分の状況をブログに書いていたんです。4月だったので気温が下がってきて寒いとか、焚き火の写真を載せたり、ヘリコプターが24時間上空を飛行していて眠れないとか、倒壊した家からものを探したり、そういった様子を写真と一緒にブログに載せていました。
── なぜ、誹謗中傷されたと思いますか?
井上さん:多分、みんなのためになってないってことだったんでしょうか。他の人は、どこどこに救援物資が届いているとか有意義な情報を発信していて、そういうのが合格だったのかもしれないです。
ただ、私は小さい子どもが3人いて、自分たち家族のことで精一杯でしたし、そもそも有意義な情報をお伝えするとか、そういった目的でブログをやってなかったので。今まで通り自分の現状をアップデートしていただけですが、自分が書いていることが被害者っぽいとか、役にたってないって思われたのじゃないでしょうか?
── 実際、被害にあわれていますし…。
井上さん:車上生活では電気が止まっていたので、車のエンジンを時々つけては、携帯の充電をしていました。ブログを書きこむときだけ電源を入れて一気に書いて、それ以外は電源もオフ。友達が心配して連絡をくれても、ずっと電源を切っているので連絡が取れないんですね。だから、誰がどんなコメントを書いてるかわからなかったし、私のところにもたくさんの取材が来ましたが、余裕がなくて何を書かれてもそれどころじゃないという感じでした。
ところが、ブログのコメントや記事に対して「誹謗中傷されています」という情報が私の耳に入ってきました。そこで携帯を見てみたら、数えきれないくらい誹謗中傷がありました。
誹謗中傷を機に心理学を学び
── ただでさえ、大変な状況のときに。
井上さん:ブログを見た人が、自分が求めているものでないと思えば見なければいいと思うんですけどね。あまりにも書きこみがひどかったのでブログをやめますって書きました。そしたら今度は今まで心配してブログを読んでくれていた人が「なんでやめるんだ」って。「そんなネガティブな反応に負けるな」って言ってくれて、新たに違う形で荒れたりして。
── 震災が起きたのが2016年ですが、2023年になった今、振り返ってどう思いますか?
井上さん:いろいろ学びましたね。SNSに関しては、今はInstagramがメインですが、嫌だなと思ったらスルーやブロックできるし、自分軸で発信するようになりました。自分が伝えたいことを伝えて、相手がどう受け止めるかは相手次第ですし。
また、心理学の勉強もしました。当時はすごく気持ちが落ち込んで、なんでこんなふうに考える人がいるんだろう、どういった心理なんだろうって気になったし、自分自身、心理学を学んでメンタルを強くしたいと思いました。
SNSの発達やコロナ禍を経て人とのリアルな関わりが減った現代ですが、人間には感情があり、そこはAIでも解決できない問題がある。奥深い心理学の勉強を通じて、いろいろな人とつながっていきたいと考えています。これからもまだまだ勉強していきたいですね。
PROFILE 井上晴美さん
1974年生まれ。熊本県出身。1991年16歳で芸能界入り、ドラマ・映画・舞台など数多くの作品に出演。2005年に結婚し、現在は3児の母。インスタグラム家族との日常をインスタグラム(@harumi_inoue_)でも発信中。
取材・文/松永怜