フィギュアスケートでオリンピックに出場した八木沼純子さんは、現在、幼児から68歳までを指導する立場に。教えることで、人生の学びを得たそうです(全3回中の3回)。

 

50歳を過ぎてもこの美しさ!透明感が半端ない

46歳からの挑戦「手術をしたのは選手を教えるため」

選手、プロスケーター、スポーツキャスター・解説者を経て、2019年から明治神宮外苑アイススケート場でインストラクターとしてスケート指導をする八木沼さん。これまでも何度か誘いはあったものの、プロスケーターとの両立は難しく、踏みだせませんでした。

 

「自分が指導者になって子どもたちを教えられるのだろうかという不安もあり、なかなか決断できませんでした。でも、恩師からの誘いを受けて、アシスタントの立場として教えはじめたんです」

 

明治神宮外苑アイススケート場では、3歳児、幼児、ジュニア基礎、ジュニア上級、アダルトとクラスごとの常設スケート教室にわかれており、30分間のマンツーマンレッスン。レッスンごとに生徒が入れ替わる一方、インストラクターは長時間リンクに立ち続け、生徒につきっきりで指導します。

 

2019年から明治神宮外苑アイススケート場でインストラクターとしてスケートの指導をしている八木沼さん

じつは八木沼さんは小学校のころから外反母趾のため、長い時間靴を履き続けることができませんでした。選手やプロスケーター時代は出番以外は靴を脱いで、しのいでいました。ショーディレクターやインスタラクターになると靴を脱げません。もっといろんな分野に挑戦したい思いに加え、腰やすねにも痛みが出たため、2017年、意を決して両足の外反母趾手術を受けました。

 

「次の月からリハビリが始まり、術後に履くサポート靴での生活を2か月ほど過ごし、3か月半後にはリンクに戻ることができました。今でもケアは続いています。手術のおかげで、身体もずいぶん楽になりました。長く苦しんだ外反母趾から解放されたのもあり、インストラクターをやってみようと思えたんです」

教えるって大変「先生の苦労がやっとわかりました!」

以前、子どもたちを教えられるのかと不安を感じていた八木沼さんですが、現在は週6日レッスンを受け持っています。ジュニアの中で一番年上は高校生の生徒。思春期で難しい時期でもあります。

 

「生徒と目標設定をして1年間の練習計画を作るのですが、うまくいかないときも多いです。そんなときは自分で考えることを意識させて、一緒に考えて次につなげます。「どうしたい?」「これはどう思う?」と問いかけながら。本人が自分の思いを言葉に出すのが大切。こうしたプロセスをふむことで、私も選手の理解が深まり、思考がクリアになっていきます」

 

いっぽう、小さい子どもを教える時は徹底的に寄り添います。

 

「伝わりにくい場合は、とにかく繰り返しします。30分間同じ動きをしながら一緒に滑り続けたことも。私も5歳から福原先生に教えてもらいましたが、泣きながら抱えられて滑ってたなぁと思い出します。でも、最後は楽しくてたまらなかった。小さいころは、先生はずっとリンクにいるものだと信じていました(笑)。自分がインストラクターになり、先生の大変さがようやくわかりました」

 

八木沼さんを導いた福原先生は、78歳になったいまでもスケート靴を履いて、小さな子どもたちを教えているそうです。

68歳の女性にも指導「スケートは人生そのもの」

八木沼さんが教えるなかで最高齢は68歳の女性で、レッスンは1時間。

 

「さすがに1時間滑り続けると疲れるので、合間の休憩でどんな話をしようかなと考えます。いつも登山用のブランドを着用していらっしゃるので、山登りが趣味なのかな、とか。スケートの技術の向上も含め、楽しい時間にしてもらいたいです」

 

日本人選手の活躍をうけて、近年スケート愛好者の数が増え、その年代も広がっています。八木沼さんの担当ではありませんが、明治神宮外苑アイススケート場には80代の男性が週2回レッスンに訪れているそう。

 

「その方は、レッスンに来るのが生きがいだとおっしゃっています。国内のアダルト(28歳以上)の大会は20人規模で始まりましたが、現在は数百人規模にまで参加者が増えました。伊藤みどりさんは、今年ドイツで行われた国際アダルトフィギュアスケート競技会に出場されています」

 

5歳でスケートに出会い、関わり方を変えながらも、つねに八木沼さんの人生とともにあるスケート。かつては、“オリンピックの鎖”に苦しんだ時期もありましたが、スケートから得たものは数知れません。

 

「スケートから学んだことは、まず努力や忍耐力。私という人間を形づくるうえで大きな影響を与えました。試合では、ひとりで戦うための判断力や高揚感。人とのつながりも、スケートが運んできてくれました。そして、両親や恩師への感謝ですね。人生に必要なことをスケートリンクでいまだに勉強中です」

 

PROFILE 八木沼純子さん

東京都出身。1988年、世界ジュニア選手権2位、14歳でカルガリー五輪出場。18年間アイスショー「プリンスアイスワールド」に出演。スポーツキャスターとしてオリンピックの解説なども行う。明治神宮外苑アイススケート場でインストラクターとしても活動中。

 

取材・文/岡本聡子 画像・写真提供/八木沼純子、株式会社スポーツビズ