2022年10月に「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、男性の育休取得が促されています。しかし、さら助産院の直井亜紀さんは「うまく活用できていない夫婦もいるのでは」と感じているそうです。
男性育休は「妻に寄り添うためのもの」
── 産後パパ育休が創設され、まもなく1年。今年7月の厚生労働省の調査では男性育休の取得率は過去最高の17%でした。
直井さん:男性の育休取得者が増えるのは素晴らしいことですよね。しかしその一方で、うまく活用できず混乱しているご夫婦にお会いする機会も増えています。パパが育休を取ることで悩んでいるママも多いんですよ。
育児休業というのは、名称こそ「育児」ですが、育児をするためだけの休業ではありません。産後の女性をいたわり、休息がとれるように看護するためのお休みでもあると私は思っています。「育児休業」というよりも「妻守り休業」ですよね。男性には、命を産み出した妻へのリスペクトを第一に、「観察しながらサポート」をしてほしいです。
「観察しながらサポート」することは、世界一ママを愛しているパパだからこそできること。どんなときに喜ぶのか、どんなことをしていると負担がかかるのか、身体のどこが疲れているのか、不安を感じるのはどんなときなのか…。妻をよく観察して、妻が喜ぶサポートをみつけ、産後の心身が回復するように寄り添ってあげてほしいと思います。
育休を取得したパパにママが悩んでしまうパターン
── さら助産院では、男性が育休を取得したご夫婦からの相談もあるそうですね。どのような傾向があると感じていますか?
直井さん:ママからよく聞くパパの育児のお悩みには、パターンがあるように感じています。たとえばこのように。
育児の一部分しかやってくれない
「赤ちゃんにミルクは飲ませるけれど、哺乳瓶は洗わない」「お風呂に赤ちゃんと一緒に入るけれど、服を脱がせたり、湯上りのお世話はしない」「赤ちゃんの抱っこは泣いていない時だけ」のように、赤ちゃん育児の「いいところ」をパパが独り占めしてしまうケース。育児には常にアシスタントがいるわけではありません。
細かいことまでいちいち確認してくる
「うんちしてるけど、オムツ替えてもいい?」「泣いてるけど、抱っこしたほうがいい?」のように、すべてをママに確認して指示を待つパパ。このように尋ねるということは「育児はそもそも女性がするもの」「手伝っている」という認識があるからではないでしょうか。育児はパパとママ2人が当事者であって、ママの指示がなくてもパパに判断してほしいですね。
困ったらすぐに丸投げしてくる
「俺が抱っこしても泣いちゃうから無理」「間違ったら怖いから無理」のように、ママより先に「無理」を主張するパパ。育児はパパもママも同時スタートなので、よくわからず不安を感じるのはママも同じです。パパが「無理」を先取りしてしまうと、ママは「私だって無理!」が言えなくなってしまう。ママが、パパに本音を言えない育児は心細いですよね。
男性育休により妻の負担が増えるケースも
── そうしたパターンは当てはまる場面が多そうですね。
直井さん:それから、「パパがせっかく育休を取ってくれたから」と、ママがお膳立てしているケースもよくあるんですよ。
たとえば、「母乳で育てたかったけれど、パパがミルクにしてほしいと言っているから断乳したい」とか、「パパが飲ませられるように母乳は搾乳して与えたい」という相談はとっても多いんです。また「育休中のパパが赤ちゃんを抱っこしていたいって言うから、家事は私がやっています」というママもいました。
さらに驚いたのは「パパが安心して育休をとれるよう、仕事に集中させてあげたい」という方です。男性育休を産後1か月から取る予定らしく、それまではママがパパのサポートをすると聞いてびっくりしました。
誰のための育休なのかを考えてほしいですよね。ママの負担が増えてしまう男性育休では、本末転倒ではないでしょうか。
ただ、男性も大変だなと思うことはよくあります。「男性も育休をとるように」「もっと育児をするように」という社会的メッセージが強まっても、まだまだ「家族を経済的に養うのは男性」という刷り込みがあるのが現状ですよね。
男性が育休をとることで、夫婦がこれからの役割を見直す機会になればいいなと思います。
「この人と結婚してよかった」とお互いが思いあえる男性育休に
── 産後のママに伝えたいメッセージはありますか。
直井さん:産後のママには「母親になったんだから頑張らなくては」と気負わないでほしいですね。「パパに任せるのは心配」「パパがするのは怖くて見ていられない」「育休中でも頼りにならない」というママは少なくないのですが、パパを過小評価するのはもったいないと思いませんか?
パパが主体的に育児する場面が増えれば、「なぜ今これをしているのか」「なぜ効率よくできないのか」と考え、観察する機会も増えます。そして次第に育児の見えない部分を想像する力も磨かれていくはずです。
男性育休が、「この人と結婚してよかった」とお互いが思いあえる機会になるといいですよね。10年後も20年後も仲が良い夫婦でいるための根っこは、産後にあると私は思っています。
PROFILE 直井亜紀さん
さら助産院院長。今までのべ5万人の産後女性のサポートをしながら、夫婦の相談にも寄り添い続けている。内閣府特命担当大臣表彰、母子保健奨励賞など受賞歴多数。「いのちの授業」などをテーマに、性やジェンダーについての講演を小中学生や保護者に行っている。著書に『思春期のわが子と話したい性のこと』(新星出版社)など。
取材・文/ゆきどっぐ イラスト/まゆか!