まもなく2学期が始まります。とくに新1年生のいる親御さんは、子どもが小学校に通いなれたと思ったら夏休みに入り、2学期を前に不安な方もいるでしょう。そこで、昨年まで公立小学校で10年間、校長を務めた田畑栄一さんに小さいお子さんとの向き合い方について話を聞きました。

 

元校長の提言「小学生になっても親がやるといい2つの習慣」1つ目は読み聞かせをすること

「習いごとが長続きしない」ことを親はどう見るべきか

幼稚園や保育園から小学校に上がるときは、親子にとって、大きな環境の変化があります。親御さんのなかには、『学校の勉強についていけるかな…』『友だちはできるかしら』と、悩む人もいるかもしれません。

 

「それよりも、親は『子どもが好きなことをみつける手伝いをする心の余裕を持つ』ことが大事です。教育の現場で感じたのは、勉強ができるようになっても、自分が何をやりたいのかはわからない子どもが意外と多く見られることです。

 

勉強はもちろん大事ですが、“子どもが何に向いているのか”を自分で選択させ、自己決定させていくことがとても重要です。この考え方は、学校だけではなく親御さんにも必要だと思います。

 

たとえば、習い事をさせても長続きしなくてやめてしまう場合。継続性のなさに怒ったり、落胆したりする親御さんもいるかもしれません。でも、子どもにとっては最高の探求なはずです。

 

『この習い事は合わなかった』『何が楽しくて向いているかな?』と考えられるからです。やりたいことを見つけるために、いろんな経験をさせるのが大事で、一つひとつに落ち込まず、笑顔で見守ることが大切です」

 

学校や習い事は親御さんからしたら、「できる・できない」で評価しがちなところもあり、「できる子」であってほしいと思うかもしれません。しかし、その考えは子どもを苦しめるのではないかと田畑さんは言います。

 

「条件つきの愛は、子どもを苦しめます。生まれてくれた存在そのものに感謝することです。子どもが生まれたことで、親にしてもらったのですから。どんなに優秀な大学を出て就職しても、会社で人間関係をつくれずにうまくいかない場合もあります。

 

だからこそ、小学校の段階ではコミュニケーション力や自制心や協調性といった、非認知能力を養うほうが大事。勉強や運動のできをまわりと比べる必要はありません。比較は可能性を潰します。その子なりの魅力は一人ひとり違うもので、親はそれを信じるのです。

 

仮に小学1年生の1学期に文字がうまく書けなくても、絵が描けなくても心配はいりません。子ども自身が『まずいな』と思えば、自分で学び始めますから。大人ができることは、待ってあげることです」

「今日は何があったの?」と親が聞いてはいけない訳

子どもが小学校に入学したてのころ、親御さんは家庭でどのようなことに気をつけておくべきでしょうか。

 

「お子さんの“心理的安全基地”になってほしいなと思います。学校は集団生活なので、どうしても人間関係でトラブルが起こります。そんな日に、親が『今日は何があったの?』『テストはどうだった?』と、問い詰めたり、確認したりする口調で様子を把握しようとすると、子どもは学校でのことを話さなくなってしまうもの。だから、笑顔で『何でも話してね』という雰囲気をつくり、子どもから話しやすい関係を築いてほしいですね。

 

そこで大事なのは、子どもが話したことに対して説教をしないこと。仮に子どもが失敗したことやお友だちともめたなどの話を聞くと、『きちんとしてほしい』気持ちが先立つかもしれませんが、追い詰める言い方はしないでほしいです。

 

お風呂でも、寝る前でもいい。子どもの話を聞いて、『そうなんだね』『(今日も)頑張ったね』『大変だったね』と抱きしめるだけでいいんです。すると、子どもは自分の中で整理を始めます。「次はどうしようかな」「こうすればうまくいくかな」などと考え始めます。ここが自律への第一歩として大切なのです。

 

子どもは親御さんが味方だと感じると、怖いものはありません。励みになり、エネルギーにもなります。そうやって心理的安全基地をつくると、子どもは何をやっても伸びるようになります。

 

逆に、それがない子どもはどこかに不安があって、学校でのトラブルにも耐えられなくなる。だから、まずは親御さん自身が、子どもを穏やかに受け入れられる気持ちや余裕を持つことが大事だと思います。笑顔が一番です」

小学校低学年でも「絵本の読み聞かせ」は大きな学びに

明るい顔をしている日、暗い顔をしている日、子どもも日によって表情が違うのが当たり前。どこか元気がなさそうなとき、具体的にどんな声かけの言葉があったらいいのか聞いてみました。

 

「子どもながらに親が忙しい様子はわかっているから、『何かあったの?』『どうしたの?』と聞かれると、マイナス的なことは言いにくいんです。子どもは親に心配をかけたくないからです。親のほうから『お話聞くよ』くらいの声かけでいいと思います。かける言葉も大切ですが、抱きしめたり手をつないだり、スキンシップも小さい子どもにとって、安心感をつくることです」

 

声かけや雰囲気づくり、スキンシップのほか、子どもの心理的安全基地をつくるために親御さんにやってほしいこととして田畑さんが挙げるのが、『絵本の読み聞かせ』です。

 

「小学生になっても?とためらわず、絵本をたくさん読んであげてください。その時間は子どもからすれば、親御さんを独占できるため、心も安定するし、親子関係も築かれます。読み聞かせは耳から入ってくるので、自然とイメージが広がり、語彙も増えるし、思考力、想像力もつきます。いいことだらけです」

 

小学校を『好きなことを見つけられる場所』にするため、校長の職を退いたいまも全国の校長先生や親御さんに話し続ける田畑さん。この思いを全国に拡げ、いじめや不登校を生まない、温かい学校があふれる日本の未来を描いています。

 

PROFILE 田畑 栄一さん

元・埼玉県越谷市立新方小学校長。小中学校教諭、埼玉県の指導主事を経て、2013年より小学校の校長を務めた。2015年からいじめ・不登校問題の解決に向けた取組として「教育漫才」の実践をはじめ、数々のメディアに取り上げられる。2017年には第66回読売教育賞優秀賞を受賞。現在は笑いのプロと教育の専門家が集まる「一般社団法人Lauqhter(ラクター)」に所属し、講演活動や研修講師のほか、教育に関する執筆活動を行う。

 

取材・文/萌映(もえ)