花畑での追いかけっこに、教室でのプロテインの受け渡し。意外なシチュエーションと「マッチョ」の組み合わせが話題のフリー素材サイト「マッスルプラス」。仕掛け人のAKIHITOさん、誰のためにこのサイトを…?

一番反響があったのは「菜の花畑のマッチョ」

──「マッスルプラス」が生まれたいきさつを教えてください。

 

AKIHITOさん:「スマイルアカデミー」という会社でマッチョの事業をしておりまして、500名近くの全国のマッチョが所属・登録しています。筋肉紳士集団「ALLOUT」という集団を作って、筋肉を楽しんでもらう「マッスルカフェ」というイベントを開催したり、各種イベントにマッチョ人材を派遣したりしています。

 

そのための資料としてマッチョな写真をたくさん持っているので、「フリー素材として提供しよう」という話になりまして。「せっかくなら見る人に楽しんでいただけるような、面白いおかしい写真を厳選しよう」という、ほぼノリのような感じでスタートしました。

 

ちょうどイベントができなかったコロナ期間に「マッスルプラス」が話題になったこともあって、今ではほぼ毎月撮影をしています。

 

── 写真は何枚くらい公開されているのでしょうか。また、いちばん多くダウンロードされたのはどの画像ですか。

 

AKIHITOさん:公開中の写真が4000枚ほどあります。観光施設とタイアップしている写真もありますが、フリー素材なので収益はありません。本業であるパーソナルトレーニングジム事業やマッチョ人材派遣事業のPRにはつながっていると思います。

 

いちばん反響があったのは、「菜の花畑のマッチョ」シリーズですね。「菜の花畑でマッチョをつかまえて」という写真に、Twitterで「12万いいね」をいただきました。僕がダンボールの中に座っている「捨てマッチョ」も反響が大きかったです。

 

「菜の花畑のマッチョ」シリーズより「菜の花畑でマッチョをつかまえて」
「菜の花畑のマッチョ」シリーズより「菜の花畑でマッチョをつかまえて」
「捨てマッチョ」
「捨てマッチョ」

「遺跡のマッチョ」シリーズも話題になりました。撮影したのは姫路にある「太陽公園」で、世界の遺跡やお城が実際に歩けるサイズで再現されていて、映画のロケにも使われている場所です。1000体の実物大の兵馬俑は圧巻です。

 

「遺跡のマッチョ」シリーズから「古の戦士に馴れ馴れしいマッチョ」
「遺跡のマッチョ」シリーズから「古の戦士に馴れ馴れしいマッチョ」

写真はたぶん、実際に活用されてはいない(笑)

── 企画はAKIHITOさんが考えているのでしょうか。

 

AKIHITOさん:「マッスルプラス」の撮影に参加している8人のメンバーと一緒に企画を出し合っています。日常生活でも「ここで撮ったら面白そうだな」と常に考えていますね。

 

── 特に印象に残っている撮影はありますか。

 

AKIHITOさん:真夏や真冬の屋外撮影はきつかったですね。「茶畑のマッチョ」シリーズを撮影した福岡県八女市の茶畑は、地形がすり鉢状になっていて日陰がゼロなんです。夏場に6時間くらい撮影したのできつかったですね。宮崎県高原町の旅館で「釣り堀で釣られたマッチョ」を撮影したときは、2月にニジマスの釣り堀に入りました。寒いどころか、体中が痛かったです。

 

「茶畑のマッチョ」シリーズから「茶畑でマッチョをつかまえて」
「茶畑のマッチョ」シリーズから「茶畑でマッチョをつかまえて」

 

「釣り堀で釣られたマッチョ」
「釣り堀で釣られたマッチョ」

── 撮影はかなり過酷なんですね。

 

AKIHITOさん:筋肉を美しく見せることが目的なので、撮影中はかなり力を入れてポージングをしているんです。顔は笑顔でも、全身にはものすごい力が入っています。よく「空気イス」のポーズもとっていますが、これがめちゃくちゃ疲れるんですよ。

 

一日撮影したあとは、ボディビルの大会に出たあとのような疲労感があります。でも、「おもしろい写真が撮れるなら」という気持ちで楽しんでやっています。撮影風景もYouTubeにアップしていますが、かなりシュールでおもしろいと思います。

 

── ダウンロードされた写真は、どのように活用されているのでしょうか。

 

AKIHITOさん:活用はされていないんじゃないでしょうか(笑)。「用途はないけど面白い」と言っていただきますね。知り合いが、会社の会議で配られた資料に僕の写真が乗っていて驚いたという話は聞いたことがあります。

 

いちばんちゃんと使ってくれているのは、イラストレーターや漫画家さんです。裸の男がこれだけいろんなポーズをしている素材集はなかなかないので、筋肉の動きを参考にされたり、写真のポーズを作画の参考にしたりしてくださっているみたいです。「デッサンの練習に使う」という人もいらっしゃいますね。

 

ほとんどの方は、見て楽しんでくださっているんだと思います。「疲れたらマッスルプラスを見にいく」と言ってくださる人もいて、そう思ってもらえたら本望ですね。

撮影のために1年中「いつでも脱げる体」づくりを

── 最近、カーリング選手の藤澤五月さんの筋肉美も話題になりました。なぜ人は筋肉に魅せられるのでしょうか。

 

AKIHITOさん:筋肉は誰しも持っているものですが、あれだけ鍛え上げて研ぎ澄ますことができたというところが注目されるんでしょうね。そこまでに至る努力やストイックさが、筋肉には表れますから。あとは、一般の方にとってはそこまで筋肉を鍛えている人は周りにいないので、希少性があるのかもしれませんね。僕の周りは筋肉だらけですが。

 

── マッチョな体を保つために、筋トレは毎日どれくらいされるのですか。

 

AKIHITOさん:僕の場合は、毎日1時間~1時間半くらいです。仕事もジムでしているので、デスクワークに疲れたら筋トレをするという感じです。感覚的には歯磨きをするのと同じですね。

 

大会に向けて、夏場はオンモード、冬場はオフモードに切り替えている人もいますが、僕は「マッスルプラス」の撮影のためにも1年中「いつでも脱げる体」をつくっています。一回体をしっかりつくれば、継続していくことは苦にならないです。好きでやっていますし、筋肉を衰えさせたくないですから。みんな楽しんでやっていると思いますよ。

未熟児で弱かった自分にとって、今では天職

── どのあたりが楽しいんでしょうか…。

 

AKIHITOさん:筋肉がちょっとずつ成長していくところですね。筋肉っていったん鍛えると1年に1キロぐらいしか増えないんですよ。見た目にも「胸板が厚くなってきた」などの変化が感じられると楽しいですね。

 

僕は筋トレで人生が変わりました。未熟児で産まれて小児喘息持ちで、小さい頃は弱くて細い自分にコンプレックスがありました。小学生のときに陸上競技を始めて、トレーニングをするようになったら体がどんどん変わっていったんです。体が変わると自信が持てるようになって、何事にもポジティブに臨めるようになりました。内向的だった性格も社交的になって、何をするにも楽しめるようになりました。

 

── 今のお仕事も、筋トレの成果ですね。

 

AKIHITOさん:いや、起業した当初は、普通の人材紹介業をしていたんです。筋トレはしていましたが、仕事につながるとは思っていませんでした。知り合いのトレーナーに誘われてボディメイクの大会に出たときに、「労力もコストもかけてこんなにかっこいい体をつくっても、それを生かせる場が大会に出るくらいしかないのはもったいないな」と感じたんです。「この人たちが活躍できる場をつくりたい」と思って、マッチョ事業を始めました。

 

僕は今の仕事が天職だと思っています。好きじゃないことにはここまで興味が持てないし、前のめりに取り組めないので、好きなことを仕事にできているのは恵まれていると思っています。何をするにも楽しんでやれていて、最高ですね。

 

──これからの目標は何ですか。

 

AKIHITOさん:大きな目標としては、日本のフィットネス人口を上げたいと考えています。「筋肉人口が増えればGDPが上がる」と僕はよく言っているんですけど、少子高齢社会でも、みんなが筋肉をつけて健康寿命を延ばして、年配になってもバリバリ働いてバリバリ遊ぶ人が増えれば、労働人口も消費も増えます。そのためにも、エンタメ性のある切り口で「自分も始めてみようかな」と思うきっかけになる活動ができればと思っています。

 

PROFILE AKIHITOさん

株式会社スマイルアカデミーCOO。早稲田大学を卒業後、株式会社リクルートHRマーケティング(現 株式会社リクルートジョブズ)に入社。2013年に同社で知り合った中込智喜さんと起業し「株式会社スマイルアカデミー」を設立。

取材・文/林優子 画像提供/AKIHITO