2019年に日本で開催され人気に火がついた「ラグビーワールドカップ2019」から4年。今回のフランス大会は日本時間9月8日から熱戦の火ぶたが切られます。きっと楽しみにしている方も多いはず!前回大会で活躍した元日本代表、横浜キヤノンイーグルス所属のアマナキ・レレイ・マフィ(通称・ナキ)選手。その妻・あずささんがSNSで綴るナキさんとの賑やかな日常が話題となっています。あずささんにナキさんとの結婚までの経緯をお聞きしました。

 

2019年ワールドカップで日本代表に選ばれたナキ選手と妻のあずささん

心配で放っておけず留学先からとんぼ返り

── ナキさんとはどのようにして出会ったのですか?

 

あずささん:短大を卒業してフリーターをしていたときに、トンガ人とつきあっていた先輩がナキを紹介してくれたんです。ちょうどおつきあいをしている人がいない時期でしたが、海外留学が決まっていたこともあって、しばらくは友達として仲良くしていました。それが、実際に海外に出発する日が近づくにつれ、お互い会えなくなると思うと寂しくなってきて。

 

元ラグビー日本代表のアナマキ・レレイ・マフィ選手
試合中には見られないナキ選手の穏やかで優しい表情

── そこから交際に発展したのですね。

 

あずささん:実は私、予定どおり海外に行ったのですが1週間で帰ってきちゃったんです。当時22歳だったのですが、直感的に”今、この人を逃すのはもったいない“って思って。ナキは当時、日本に来て3年経つのに日本語が全然上手話せなくて、心配で仕方なくて。「ここで私が離れてしまったら、この人は死んでしまうんじゃ…」という思いが拭えず結局、帰国を決めました。それ以来、ずっと寮母さんをしている感じです(笑)。

 

── 日本語が話せないナキさんと、最初はどのようにコミュニケーションを?

 

あずささん:彼が大学生のころは、会話は日本語と英語の半々でした。日本語で話していても、メールは全部英語で。特に誤解があるといけない内容の場合は英語で伝えていましたね。今も、その名残で確実に伝えたい内容は英語で伝えます。

 

── 言語が同じでも行き違うことがあるくらいですもんね。

 

あずささん:そうですよね。私たち夫婦の喧嘩も、だいたいが言語の行き違いから起きるるんです。“こう言ったよ”と伝えても、“俺にはこう聞こえた”っていう。日本語の細かいニュアンスが伝わらなくて、むこうが勘違いする。そのせいでしょっちゅう喧嘩しています(笑)。

 

言葉の壁を乗り越えて愛を育んだ

── noteやインスタグラムの投稿にも、そんな日常が綴られていますね。あずささんの飾らない性格が垣間見えます。

 

あずささん:取材してもらうときも、側から見ていいことばかりにならないように気をつけていて。だってアスリートを支える奥さんって、すごい人たちが多いじゃないですか。私は資格とかも持ってないし、夫にマッサージを頼まれても断ることもあるし(笑)。でも奥さんのなかには家事も完璧な人が多くて、尊敬しちゃいますよ。

 

やっぱり“スポーツ選手の妻は、こうあるべき”っていう理想像を目指しているんだと思うんですよね。でも私は、全然違うタイプだから。

 

── 書くことをためらったりはされないのですか?

 

あずささん:私が“キッチンを片づけないで寝てしまう”って書いた文章を、育児中のママに読んでもらうことで、“明日もまた頑張ろう”って思ってもらえたらいいなって。アスリートの妻もひとりの人間。完璧に旦那さんを支えることなんて、できなくて当然だと思うんです。

両親も最初は結婚を反対も…人柄を知り応援してくれるように

── ナキさんと結婚することをご両親に伝えたときの反応はいかがでしたか?

 

あずささん:うちの両親は、彼に直接会うまでは不安だったみたいです。彼はプロになるのは決まっていたけれど大学生だったし、プロのラグビー選手がどのような生活をしているのかも両親はわかっていない状況で。ただナキに初めて会って彼の人柄に触れて以来、応援してくれるようになりました。

 

── お友達はどうでしたか?

 

あずささん:ナキを紹介してくれた先輩は“本当によかったね”って言ってくれています。でも先輩もトンガ人とつきあっていたことがあるし、ナキのことも昔からよく知っているので、私に“よく頑張っているよね”って言うんですよ(笑)。

 

── 大変さをご存じなのですね(笑)。プロ選手と結婚することに対して、不安はありませんでしたか。

 

あずささん:もちろんありました。今年のリーグワンのようにケガがつきものなので(2023年1月28日、埼玉パナソニックワイルドナイツ戦にて負傷)、心身ともに疲れたりもします。

 

でも数年前に、ナキがオーストラリアやイギリスでプレーする機会があって、そのときに知り合った海外のアスリートの奥さんたちからたくさんのことを学んだんです。

 

── 例えば、どのようなことでしょうか。

 

あずささん:海外のアスリートの奥さんは、“私”を大事にしている人が多い印象をもちました。

 

私、それまでは本当に一心同体で、夫が落ち込んだら自分も落ち込んでいました。ナキの上に私が乗っかっているくらいの勢いだったんです。私のなかでは、日本ではプロ選手の奥さんは“夫のために生きる”っていうスタンスが美しいって思われている気がして。だから、海外のアスリート妻たちのスタンスを目の当たりにして衝撃を受けました。

「見たいものを見て食べたいものを食べる」でいいんだ!

── 特に印象的だったエピソードはありますか?

 

あずささん:みんな子どももいて忙しそうなのですが、“私は私”というスタンスでやりたいことをやっているんです。自分が見たいものを見るし、自分が食べたいものを食べる。当時の私は、そういう部分が欠落していました。ナキが食べたいものを優先していたし、ナキが休みたいときに自分も休む。自分は二の次だったんです。

 

── 日本には「縁の下の力持ち」や「内助の功」という言葉があるくらいですしね。

 

あずささん:そういう意味で、カルチャーショックを受けました。でもそこで学んだことを生かして、自分のスタンスも少しずつ変えるようになりました。

 

私もひとりの人間だし、ナキを支えるべきではあるけれど一心同体であるべきというのは違う。“自分を優先してもいい”っていう考え方があるって知っただけで、ちょっと救われました。

 

── 海外での子育てはいかがでしたか?

 

あずささん:オーストラリアに行ったときには、まだ子どもは1人だったのでずっと自宅で育児をしていました。メルボルンは子育てがしやすかったですね。

 

それに驚いたのは、『スーパーラグビー』(オーストラリア、ニュージーランド、フィジーの3か国から12のプロチームが参加する大会)では、チームの家族にファミリールームがあったこと。ベビーシッターもいて子どもたちも自由に動き回れて、“お母さんは試合を観ててください”っていう雰囲気なんです。

 

── 今年のリーグワンでは、あずささんがお子さん3人を抱えての観戦について『note』で発信されたことがきっかけとなり、決勝戦で託児サービスが実施されましたね。

 

あずささん:あれは本当に嬉しかったです。私がきっかけというわけでもないと思いますが、リーグワンの運営に関わる方々がずっと考えていてくれたのだと思います。たしか預かれるのが10家族だったので、SNS上では“少ない”という声も目にしました。でも私からしたらすごく頑張っているって感じましたね。

 

今回の件では、いろいろなチームの方からも意見をいただきました。キャノンはすぐに動いてくれてありがたかったです。これがいろんなチームに広がっていったら、子ども連れでもラグビー観戦がしやすくなるんじゃないかな。今後に期待したいです。

 

PROFILE マフィ・あずささん

京都生まれ京都育ち。横浜キヤノンイーグルス所属のアマナキ・レレイ・マフィ選手と結婚後、3児の子育てに奮闘中。noteやインスタグラム(@amanakileleimafi)でラグビー選手の夫との生活について積極的に発信している。

 

取材・文/池守りぜね 写真提供/マフィ・あずさ