SNSで商品を紹介しヒットさせたことから商品開発にかかわるようになり、ついには社外取締役に就任した「サリーさん」こと濱屋理沙さん。ワークマンへの愛やいきさつについて聞きました。(全2回中の2回)
「社員ではなく社外取締役」の理由
── ワークマンアンバサダーとして多くのヒット商品の開発にかかわってきたサリーさんですが、今回社外取締役に立候補したのはどういった経緯だったのでしょうか。
サリーさん:これまでは月に2回程度、神奈川の家から上野の本社まで来て、新商品開発のアイデアのための会議に参加していました。
そうしたら、だんだんワークマンに対していろんな思いや、やってほしいことが生まれてきたんです。「もっとこんな商品が必要なんじゃないか」「トレンドに沿っているものを作っているのかな」とか。
ただ、私も生計を立てていかないといけないので、無償のアンバサダーとしては、やれることにも限界がある。もう少しワークマンに時間と労力をかけられる状況をつくりたいな、と思ったのが、社外取締役に立候補したきっかけでした。
── 素人考えですと、まずはワークマン社員を目指すのかな、と思ったのですが、なぜ社外取締役だったのでしょうか?
サリーさん:私も最初は社員になるか、加盟店の店長になるのはどうかな、と思ったんです。でも社員になると週5で出勤することになる。そうするとYouTubeやブログなど、これまでずっと伸ばしてきたものが途切れてしまうんじゃないか、と。
加盟店に入って夫と2人で、例えば「ワークマンアウトドア」といった新店舗を経営することも考えて、「初代店長にどうですか?」と社長に提案したこともあったんです。ただ、加盟店に入ると、アンバサダー活動ができなくなってしまう決まりがあって。
困ったな、と思っていたときに、以前読んだワークマンの土屋哲雄専務の書籍で「アンバサダーがいつか社外取締役になったら面白い」と書かれていたことを思い出したんです。
確かに社外取締役なら、会社と近いけれど会社員ではない。絶妙な立ち位置で、自分にとってはベストだと思いついたんです。
── 思いついてもそれを実現させるのがすごいです…!まずは誰に相談したんでしょうか?
サリーさん:まず、身近な広報部長に「こういうことを考えているんですが、誰に言ったらいいですかね」と聞きました。そうしたら、「専務に直接言ったほうがいいと思うよ」と言われて。専務に「10分、時間をください」とお願いしたんです。
提案資料を作って、「今、世の中では女性社外取締役が求められていますよね。私がなったらこういうメリットがあります」みたいな資料を作って、提案しに行きました。
その後、面接を経て、3か月後くらいには内定をいただけました。
「2900円で、いいものを作りましょう」
── サリーさんが、そこまでワークマンに関わりたいと思う理由は何なのでしょうか?
サリーさん:ワークマンがすごく好きなんですよね。多分、社員さんにも負けないくらい。
作業服の中からキャンプに使える服を見つけて、世の中に広めていった自負もあるなかで、会社に対してすごく愛着があるんです。
商品だけでなく、社員さんも素敵です。どの社員さんも、低価格にこだわった高品質で高機能なものを作りたいという思いを持っています。
例えば、(サリーさんが商品開発に関わったヒット商品)コットンキャンパーを作るときも、私は「3900円でいいから納得のいくおしゃれなものを作りましょう」って言ったんです。でも、社員さんは「いや、2900円で作れる、いいものを作りましょう」と。値段を抑えたうえで、いいものを提供するのが会社としての務めだという理念をお持ちで、そこが素敵だなと。
アンバサダー時代から多くの社員さんと関わっていますが、皆さんとても人柄がいい。仕事以外の話も気さくにできるんです。社員だから偉い、とか、逆にアンバサダーが宣伝してるから偉い、とかでもなく「最近いいキャンプ場を見つけたんすよ」「え、どこどこ」みたいなノリでフラットに話せたりして。
この方たちと一緒にお仕事をしたい、と思ったところもあります。
消費者目線を経営に生かしたい
── 社外取締役は経営を監視する役割もありますが、サリーさんから見たワークマンの課題は何でしょうか?
サリーさん:経営の監視は、もちろん大事な仕事です。ただ、社外取締役には、公認会計士の先生や弁護士の先生もいらっしゃる。
なので、役割分担ではないですが、私も最低限のガバナンスの監視はしたうえで、消費者目線、主婦目線、キャンパー目線での助言を重点的にやっていこうと思っています。
今後は、細かい商品の開発というより、経営的な視点から商品全体に対するアドバイスをしたいです。
例えば「ワークマンシニア」のような、高齢者向けの店舗をつくってみても面白いんじゃないか、といった話をしたり。
私には今、70代の母がいるんですけれども、意外とシニアが買える洋服屋さんって少ないんです。年を重ねるとシンプルなものより柄物や派手な色のほうが顔映えがする。でも、安くていい店がないと聞いて。
あとは、ネット通販の仕組みですね。今ワークマンの通販は、商品が自宅ではなく店舗に届く仕組み。フランチャイズなので、ネット通販によって店舗が儲からなくなるのは確かに問題なんですが、今の時代、消費者としてはやっぱり自宅に届けてもらえたほうが便利ですよね。
店舗を守りつつ、消費者目線をどう反映するかが課題かなと思っています。
── サリーさんがワークマンの社外取締役になるというニュースが出たときに「女性向けもいいけど、従来の作業服開発もちゃんとやってほしい」といった、既存ファンからのコメントがありました。どう向き合いますか?
サリーさん:一般の男性客からしたら、突然ナゾの女性YouTuberが社外取締役になったと聞いたら「もう俺たちのワークマンじゃなくなっちゃうのかな」と思われてしまうのは仕方のないことだと思うんです。
だけど、元々私は作業服として使われるような服を、着こなしによっては女性も着られるよ、というところからワークマンを好きになったので。
決して作業服を軽視しているわけじゃないですし、カジュアル路線でいく、というわけではないんです。そういうことを伝えたくて、1本ですが「作業服5選」というYouTubeもアップしました。
作業のプロのお客さんが売り上げの半分以上を占めている部分でもありますので、私自身も、プロの方向けの発信も考えていきたいです。
7年間ワンオペしながら週末キャンプ生活
── 今後はYouTubeも続けつつ、社外取締役のお仕事もするとのこと。プライベートでは、小3と小6の子を持つお母さんでもあり、お忙しそうですが、育児や家事との両立はどうしているのでしょうか?
サリーさん:まず、家事は夫と「お互いに得意な家事をしよう」としっかり分担をしています。私は洗濯が得意なんですが、料理があんまり得意じゃないんです。逆に、夫は料理が大好きなので、食事作りはお願いすることが多いです。
あとはもう、完璧を求めない。多少汚れていても人は死なないので(笑)。
子どもとは、帰宅後は以前ほど構えなくなってしまったので、その分、毎週末、キャンプできるだけ一緒に遊ぶようにしています。キャンプ場でボードゲームをしたり、キャンプの前後に公園や遊園地に行ったり。先日も、ちょうどキャンプ帰りにプールに寄ってきたんです!
── 素敵ですね。旦那さんとは、元々助け合える関係だったのですか?
サリーさん:そうですね。元々対等というか、お互いが大変なほうをフォローする感じです。
夫がすごく忙しい時期は、私がほとんど仕事をせずに、全部家事や育児をやっていました。夫は7年近く単身赴任していたので、その時期は私がワンオペで家事や育児をやっていたんです。
実は、ようやく去年から一緒に暮らせるようになったので、非常に助かっています。
── え、7年間、ワンオペで毎週末キャンプをしながら、育児と仕事を…?
サリーさん:そうなんです。夫は千葉勤務だったんですが、夜勤がある仕事なので、神奈川の自宅に帰ってこられないんですよ。
ただ、電車に乗れば1時間半とかで帰宅できるので、週末は夫が単身赴任先から帰ってきて、みんなでキャンプに行って終わったら解散、みたいな生活でした。
── 今後ワークマンの社外取締役としてはどの程度出社するご予定なんですか?
サリーさん:今は週に2、3日のペースで出社しています。取締役会だけ出席する、というやり方もありますが、せっかくこの立場になったからにはいろいろ関わりたいので、まめに顔を出そうと思っています。
会社内部のことに関してはまだよく知らないので、できる限り会議にも出席して、コミュニケーションをとっていきたいです。
PROFILE サリーさん
ブロガー・YouTuber。本名・濱屋理沙さん。アウトドア用品を紹介するYouTubeチャンネル「サリーチャンネル」が人気で、登録者数は4.7万人。2023年6月からワークマン社外取締役就任。
取材・文/市岡ひかり 画像提供/濱屋理沙