今年6月、ワークマンの社外取締役に就任した「サリーさん」こと濱屋理沙さん。上場企業で社外取締役にYouTuberがつくのは初めて。キャリアを切り開いてきた行動力の原点を聞きました。(全2回中の1回)

営業職からアナウンサーを目指すも挫折

── 登録者数4.7万人のキャンプ系YouTuber・ブロガーとしてご活躍のサリーさんですが、最初のキャリアはシステム営業だったとか。

 

サリーさん:そうですね。システム開発の営業職として2年ほど勤めました。そこで、展示会を担当したときに「大勢の人に難しいことをわかりやすく発信する仕事って面白そう!」と感じて。会社を退職し、派遣社員をしながらアナウンサーを目指してアナウンススクールに通いました。

 

ただ、就職活動は、なかなかうまくいかなくて。アナウンサーを目指すのはやめ、雑貨や洋服を個人で仕入れて、ネットショップを開くことにしたんです。経営学部出身なのもあって、「自分でビジネスしていきたい」という気持ちもありました。

 

── うまくいったんですか?

 

サリーさん:派遣社員のお給料と同じぐらいには稼げるようになりましたが、次第に競合が出てきて稼ぐのが難しくなってきたんです。

 

「新しいことを始めたい、できれば好きなことを仕事にしたい」と考えていたんですが、ちょうど当時はブログで稼ぐ手法が流行っていたんです。結婚・出産を経て、保育園に通う子どもが2人いたんですが、ブログなら家に在庫を抱える必要もなく、元手もかからない。自分のライフスタイルに近い形で仕事ができるんじゃないか、とスタートしたのが、キャンプブログ「ちょっとキャンプ行ってくる。」でした。

 

趣味のキャンプをブログに綴るように

── 小さい子どもを育てながら、新しい事業を始められるのには頭が下がります…!

 

サリーさん:私、ひとり目を出産したとき、ちょっと育児ノイローゼっぽくなってしまったんです。仕事をしている“お母さんじゃない時間”をちゃんとつくらないと、ダメになっちゃうなと思って。なので、自分に合う仕事を探していた部分はありますね。

ブログで紹介したワークマンの商品が完売!

── このブログでワークマンの商品、溶接工用の作業着を「キャンプに使える!」と発信したところ、商品が爆売れしました。そもそもワークマンとの出会いはどんな形だったのですか?

 

サリーさん:2018年10月、静岡に家族でキャンプに行った際、たまたまキャンプ場の近くにワークマンがあったので、軽い気持ちで寄ったんです。

 

そこで見つけたのが「綿カブリヤッケ」でした。溶接工の方向けのコットンでできたパーカーみたいなウェアなんですが、色みもベージュっぽくて、アースカラーにも合いそう。しかも、溶接工用なので焚き火の火の粉が飛んでも穴が開かない。「これは使えそうだ!」とさっそく購入してキャンプ場で着てみました。

 

で、その写真をすぐInstagramにあげたんです。すると、すごく反響があって!それからはもう宝探しのように、キャンプに使えるものを探すのにハマっていきました。

濱屋さんがブログで紹介したワークマンの「綿カブリヤッケ」

── 綿カブリヤッケはサリーさんのご紹介で完売したそうですね。

 

サリーさん:はい。まさかそんなに売れるとは、という感じでした。ブログもアクセス数がすごかったです。そこで「もっと使える商品を見つけて、世の中に知らせていきたいな」という気持ちになりました。

 

── アウトドアウェアって専門店で買うとすごく高いですよね。ワークマンの商品は、3000円くらいで買えるものが多く驚きました。

 

サリーさん:そうですよね。私も最初は人気のアウトドアブランドの、3~4万円するようなダウンを買ってたんです。でも、定価では買えないので、ネットオークションやリサイクルショップで中古のを買ったり。そういうことへの不満もすごくありました。

 

キャンプでは、おしゃれな格好をすると写真を撮るのも楽しくて、テンションがあがるんです。洋服の持つ力ってすごいな、とずっと感じていました。

「商品開発したい」とワークマンに直談判 

── その後ワークマンアンバサダーになったのも、サリーさんのほうからご提案だったとか。

 

サリーさん:そうですね。ホームページの問い合わせ欄から「ブロガーを開発に加えていただくといった企画があれば、ぜひ私もやりたいです」とメッセージしたんです。そのときは「社内に制度が整っていないので難しいです」と、丁重にお断りされてしまいました。

 

ただ、その数か月後、別の社員さんから「今度新店舗ができるので、遊びに来ませんか」とお誘いいただいて、ブログで店内レポートを上げたりしたんです。それからだんだん商品開発にもかかわるようになって。気づいたら「今日からあなたはアンバサダーです」と言われた感じでした(笑)。

 

── 商品開発はどんな形で進んだんでしょうか?

 

サリーさん:どの程度関わるかは商品によってまちまちなのですが、最初に関わった「コットンキャンパー」は、デザイン画からどんな生地を使うか、ファスナーやボタンはどうするかなど、イチから関わりました。

 

大変ではあったんですが、自分の好きなものをイチから、しかも自分の好きなブランドで作れて、日本全国の店舗で販売してもらえる。アンバサダーは無償でしたが、それでもやりたい気持ちのほうが強かったです。

 

手頃な価格でおしゃれ心も満たしてくれる!サリーさんを虜にしたワークマンの「綿カブリヤッケ」

提案した夕方にはサンプル製作が動き出していた

── これまで30品近くの商品開発に関わったそうですが、印象的だったエピソードは?

 

サリーさん:初めてワークマンの本社に行ったときに、社員さんから雑談で「うちの商品で気になることはない?」と聞かれたんです。

 

私、綿カブリヤッケのファスナーが胸元までしかないことが気になっていて。着脱するときに、髪の毛がボサボサになったり、襟元にファンデーションがついてしまうんです。なので、「ファスナーが下まであって、綿素材で、もう少しおしゃれなカラーだといいですよね」って言ったんです。そうしたら、その日の夕方、社員さんから電話で「サンプル作ることになりました」って言われて。

 

── すごいスピード感ですね!

 

サリーさん:そうなんです!動きが早いんですよ。他のアパレルさんだと「次の次のシーズンまで商品は決まっているから、再来年かな~」って話になりがちなところ、ワークマンは「すぐサンプルを作るね」という。すごいなと思いました。

  

── サリーさんのご活動が「#ワークマン女子」という新業態店出店のきっかけにもなったそうですね。

 

サリーさん:女性が普段着としても着られるようなワークマンのレディースが欲しいというのはずっと感じていました。自分の思いが、新業態に繋がったのは純粋に嬉しいです。

原点は小学生時代「300円でねんどの作り方教えます」

── ご自身のキャリアを切り開く、その粘り強さやチャレンジ精神の原点はどこにあるのでしょうか。

 

サリーさん:子どものときから、やりたいと思ったことがあると本で調べる習慣があるんです。小さいころはインターネットがなかったので、図書館で本を何冊も借りてきて調べたり。それで、できそうなことがあればすぐ行動に移していました。

 

昔、粘土細工やビーズ作りが好きだったとき、図書館に行って手芸の本を何冊も借りてきて。で、できるようになると「これでお金稼げないかな?」と思ったりして。

 

小学校に「ねんどの作り方を教えます。参加料300円」とかポスターを張ったりしていました。

 

粘土もちゃんとしたものを使うと高いから、小麦粉を練ったのでいいや、とか(笑)。思いついたらすぐに行動してみる。そして、お金を稼ぐことに非常に貪欲な子どもでしたね。そこが原点なのかなと思います。

 

今やったら怒られそうですが(笑)。

 

── 今後やってみたいことはありますか?

 

サリーさん:やりたいことを考えても、世の中のほうが先に変わってしまうんですよね。最初は「アナウンサーになりたい」と思っていたのに、まさか数年後にYouTubeができて、それに自分が出るなんて想像もしてなかった。

 

先を見るより、ワークマンの社外取締役が新しい仕事として与えられた部分なので、まずはそこを頑張ろうと思います。

 

加えて、情報発信に関する勉強も続けていきたいです。そうすると、またチャンスがポンと来たときに、乗っかれるんじゃないかな、と。今は目の前のことを一つひとつやっていこうと思っています。

 

PROFILE サリーさん

ブロガー・YouTuber。本名・濱屋理沙さん。アウトドア用品を紹介するYouTubeチャンネル「サリーチャンネル」が人気で、登録者数は4.7万人。2023年6月からワークマン社外取締役就任。

 

取材・文/市岡ひかり 画像提供/濱屋理沙