『阿佐ヶ谷アパートメント』(NHK)での独特な存在感から、注目度が高まっているタブレット純さん。歌手でありながら、ギターを持った漫談も行う芸人でもあります。大好きなお酒をはじめプライベートのことや、今後の目標をお聞きしました。
マヒナスターズを辞めたのに、芸人として再デビュー
── 小学生のころから昭和歌謡にハマり、好きが高じて憧れの「マヒナスターズ」に28歳で加入。素人同然での歌手活動に限界を感じ、一度歌手をあきらめて介護職に就かれたそうですが、再び歌手活動を再開されます。きっかけは何だったのでしょう?
純さん:そもそも僕がマヒナスターズに加入したきっかけは、リーダーがメンバーから見放されて誰もいなくなってしまったことでした。下積みもキャリアもない状態で不安を抱きつつ歌手活動を続けるなか、今度は急にリーダーが亡くなり、窮地に追いこまれたんです。
今の自分にできることをやろうと地方でスナックをまわっていたら、『SWITCH』(スイッチ・パブリッシング刊)に『昭和歌謡を歌う若者』として取り上げられて。それを見た歌手の渚ようこさんから「地方にいないで、もっと面白いことをやらなきゃ」と声をかけていただいたんです。それで次はライブハウスをまわりはじめました。
── そこで「ムード歌謡漫談」を披露して、芸人として注目されるようになったのですね。
純さん:はい。ライブハウスで歌っていたら、今度は『浅草 東洋館』に急に呼ばれて。出演者に欠員が出たということで、定期的に出演するようになりました。それがきっかけで事務所に所属して、オーディションを受けるように。トントン拍子とはいきませんでしたが、その流れでテレビに出演するようになり、急に芸人として認知されてきたんです。
── ちなみに「タブレット純」という芸名は、どのような経緯で?とてもインパクトがありますよね。
純さん:マヒナスターズに加入したときは「田渕純」と名乗っていたんです。田渕は母方の姓だったのですが、純は姓名判断でつけてもらいました。当時、歌手の芸名で劇場に出演ができなかったから、芸人のときはタブレットと名乗っていたんです。そこから「タブレット純」になりました。
すべてを忘れるために「酒は気絶するまで飲む」
── お酒が好きだということですが、たくさん飲むタイプですか?
純さん:最近は周囲にバレることが増えてきたので、あまり飲みに行っていないんです。酔っぱらって、見知らぬ誰かと一緒に飲んで楽しく騒いだりしていた時期もあるんですけど。今はひとりで飲むことが多いです。ファンの方には毎日飲んでいると思われているかもしれないけど、実際は飲まない日も増えました。
── 禁酒するようになったのですか?
純さん:ちょい飲みでは終わりたくないんですよね。正直、絶対に気絶したいタイプなんです(笑)。気絶というか、全部忘れてしまいたい。重い言い方になってしまうのですが、ある意味、消えてしまいたいのかもしれないです。消えるまで飲まないと意味がないと思うんですよ。
寝るのもすごく好きなのですが、意識が消えていく感じがいいんです。ちょい飲みだと、なんだか逆に寂しくなったりするので。とにかく中途半端に飲むのなら、もう飲まないという感じになっています(笑)。
念願だった歌中心のリサイタルが実現
── 今年の6月には、草月ホールでリサイタルが実現しました。ご自身のキャリアを振り返って、歌がいちばんやってみたいことだったのでしょうか。
純さん:基本的には、ギター漫談も歌ありきでやっていることで。歌がなければ、絶対に人前に立つことはしていないと思います。俳優になりたいとか、トークをやりたいとは思っていないので、周りから聞くに堪えないと言われたらやめようかなと(笑)。
── ファンの方は、純さんの歌を楽しみにしていると思います。
純さん:僕の場合は、元々自分に自信がないから、その自信の支柱である歌が欠けてしまったら人前に出ることすら無理。自分が出ている番組を観ることもないので、テレビに出ているといっても、自分としては「不確か」という感覚なんですよ。
── 自信がないとは意外です。でも、リサイタルでは、ドレスや着物姿など普段の衣装とは違う服装で堂々と登場されていましたね。
純さん:リサイタルの衣装は、自分で選んでいます。こういうのを着たら会場が盛り上がるだろうなっていうのを。でも私服にはそんなにこだわりはないんです。
── ファンの方は、どのような方が多いですか。
純さん:女性のファンの方が多いのですが、なかには、氷川きよしさんみたいに王子様キャラとしてみてくださっている人もいるようなんです。困ったことに(笑)。幻滅されると悪いなって感じています。ただ、少しテレビに出るようになったからといって、自分を変えたくはないから、変に隠れたり、変装して外に出たりはしないですね。普通にフラフラしています(笑)。
── 普通にフラフラ、ですか(笑)。そんな日常生活で困っていることはありますか?
純さん:僕、すごく忘れっぽい性格なんですよ。小学生のときは、忘れ物をしたら壁にある用紙にシールを貼られていたのですが、そこからはみ出して天井に届きそうになったくらい(笑)。キャンプでも、自分でいろんな道具を持ちこんだのに帰りは手ぶらで帰って来てしまったり(笑)。いまだに全部忘れ物は多いかもしれません。
── もしかしたら、何かにつねに夢中になっているから忘れちゃうのでしょうか。家事育児や日々の雑用に追われる身からすると、そんなふうに何かに夢中になれるのは羨ましいです。
純さん:僕自身は子どもがいないので、ママさんたちの忙しさは想像ができないのですが…。うちの親は誰かのファンになって追いかけるとかそういうタイプではなかったし。とにかく子育てのことしか考えていなかったのかも。でもそれは、もしかしたら好きなものが見つかっていなかったんじゃないかな?っていまは思うんです。もしも好きなものがあったら、どんなことがあっても時間を割いて見たり、調べたりするはず。寝る間際の5分10分でも、時間はつくれますから。
── 純さんご自身は、どうして昭和歌謡に夢中になれたと思いますか?
純さん:僕の場合は、自分のなかで好きなものが変わらなかった。それをずっと追いかけていたら、周りにそんな僕を面白がってくれる人が増えたという感じです。やっぱり子どものころに好きになったものは、変わらない。僕はノスタルジーな世界に生きている感じなので、新しいものが出てきてもそこまで興味がわかないんです。
── 好きなものがブレなかったのですね。最後に、今の純さんの目標は?
純さん:目標…具体的には難しいですね…。
知らない街をブラついたり、気になることを調べたり、目的もなくいい加減なことをしているときがいちばん楽しいし、人はいつか消えると思うと、基本的には「楽しかったな」っていう思い出をたくさんつくって、その思い出のなかで消えていくのが幸せなのかなって考えるんです。
そうすると、目標を達成することが、楽しい思い出に直結するかどうかはわからないな、って感じます。
── 昭和歌謡の世界とどこか似ている気がします。
純さん:そうですね。どこか儚いというか、思い出が凝縮されている人生の縮図みたいで。歌謡曲って、物語のように人生のなかでいちばん楽しかったり、切なかったりした出来事が断片的に集約されているんです。そこがいいなって思います。
PROFILE タブレット純さん
歌手・芸人。独特なスタイルの漫談で、数多くの劇場に登場。2023年には歌手として『銀河に抱かれて』をリリース。近年は『阿佐ヶ谷アパートメント』(NHK)や『大竹まこと ゴールデンラジオ!』(文化放送)などにも出演し、活躍の場を広げている。
取材・文/池守りぜね