「肌あれと便秘」には関係があるそうです。肩こりや疲労感にも影響する厄介な原因について、医師の工藤あきさんが解説。塗り薬に頼らない食生活の改善方法も聞きました。
化粧品や外用薬を塗っても肌トラブルが解決しない訳
── 肌のくすみが目立ったり、治ったはずの吹き出ものがまた現れたり…。これって肌のケアが十分ではないのでしょうか?
工藤先生:肌のケアももちろん大切ですが、肌のトラブルが繰り返されているとしたら、根本的な原因は、腸の不調にあるのかもしれません。腸の不調のなかでも、代表的なものが便秘。とくに女性では、「便秘と肌あれ」が深く関係しています。
私たちの食べた物は便となって排出されますが、便にはどんなものが含まれているか知っていますか?健康な便の約80%は水分で、残り20%の固形成分のうち、食べ物のカスは30%くらい。そして残りは生きたままの腸内細菌や、はがれ落ちた腸の粘膜です。
便秘によって、食べ物や腸の粘膜を何日もおなかの中にため込むと、だんだんと腐敗していき、腸の中に悪玉菌が増えて有害物質がたまります。有害物質が大腸の壁の毛細血管から吸収されて血液に含まれ、全身へと巡ってさまざまな不調を引き起こすのです。
── どんな不調が起こるのでしょうか?
工藤先生:おなかの張りや食欲低下、肩こりなどの血行不良、疲労感などがあります。さらに糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病にもつながる恐れもあります。
そして、有害物質が皮膚へ影響を及ぼすと、肌があれてザラザラしたり、くすみや吹き出物ができるといったトラブルが起こります。思春期の顔全体にできるニキビではなく、フェイスラインなどにできる、いわゆる「大人ニキビ」もそうですね。
腸内環境の悪化によって、こうした肌トラブルが起こることは、医学的にも検証されていて、便秘が改善されて腸内環境が整うと、お肌の調子も良くなる人が多いのも事実です。
便秘によって肌にダメージが出ているときは化粧品や外用薬でケアをしても、治りにくかったり、一時的に改善されても繰り返す可能性があります。だから、根本の原因となる便秘を改善して、腸内環境を整えることが大切なんです。
便が1日1回出ている人でも「便秘」の可能性がある
── そもそも、どのような症状があると便秘なのでしょうか?
工藤先生:医学的に、便秘とは「本来体外に排出すべき糞便(ふんべん)を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。1日に1回は便通があるのが健康な状態と思われている方も多いのですが、排便のひん度は個人差があり、毎日、便通がなければ便秘というわけではありません。
数日に1回しか便通がなくても、スムーズに排便できて、本人が苦痛を感じていないようであれば問題ありません。逆に、毎日便通があってもおなかが張って苦しかったり、排便が困難と感じていたりすれば、便秘と考えられます。
きのこ類と豆類「便秘にいい食物繊維」はどっち?
── 便秘を改善するには、どのような方法が有効なのでしょうか?
工藤先生: 水分をたっぷりとること、暴飲暴食を控えること、適度な運動習慣をつくること、食物繊維をとることなどがあります。食物繊維は、大腸の中で善玉菌を増やし整腸効果が期待できます。おもに、豆類や野菜、果物、いも類、穀物、海藻、きのこ類などに多く含まれています。
ただし、食物繊維を摂りすぎると、便秘が悪化してしまう場合もあります。食物繊維には、「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の2種類があります。便秘の人に注意が必要な不溶性食物繊維には、便のかさを増やして、大腸のぜんどう運動(腸が波打つように動いて便を送り出す)を促す働きがあります。
しかし、便秘の人はぜんどう運動の機能が低下しているため、不溶性食物繊維を摂りすぎてかさ増しされた便をうまく運びきれずに、大腸に便を長時間とどめてしまうことがあります。とどまった便は、水分を大腸に吸収されすぎた結果、固くなって、さらに便秘を悪化させてしまうのです。
── 不溶性食物繊維を多く含む食材には、どのようなものがあるのでしょうか?
工藤先生:ごぼう、にんじん、ほうれんそう、玄米、大麦、きのこ類などです。便秘の症状が重めの人は、これらの食材を摂りすぎないように注意しましょう。一気に摂りすぎずに自分のおなかの反応をみながら食べてください。
排便が困難で生活に支障が及ぶほどの便秘なら、一度医師に相談してみることをおすすめします。一方で、薬だけに頼るのではなく、便秘の治療には食生活の見直しが欠かせません。
私のクリニックの外来でも、食生活の改善を2か月続けた結果、慢性の便秘が治ってくるとともに、ニキビも減って肌がきれいになった患者さんがいました。慢性化した便秘は、改善までに時間がかかるかもしれませんが、食事や生活リズムを整えて、体の内側から変えていきましょう。
PROFILE 工藤あきさん
消化器内科医・美腸・美肌研究科。一般内科医として地域医療に貢献する傍ら、腸活×菌活を活かした美肌・エイジングケアにも尽力。テレビ、本、雑誌などメディア出演多数。2児の母。
取材・文/大浦綾子