お祭り支援会社「オマツリジャパン」の舵取りをする加藤優子さん(36歳)。コロナで次々と中止する各地のお祭りを救うために、挑んだ試みとは(全2回中の2回)。
社員を増やしたなかでコロナ禍に…「祭りが開かれない」
── コロナ禍では、ほとんどのお祭りが中止になったと思います。お祭り支援を事業の中核にする御社への影響は?
加藤さん:コロナが流行り出したころは、「すぐにおさまるだろう」と楽観的でした。コロナ前に事業計画をつくっていたため、当社も社員を増やしていたんです。ところが事態は深刻で、お祭りは次々と中止になり、数千万円分の仕事がなくなってしまい…。あと数か月で倒産するかもしれないという危機におちいったこともあります。
経営の危機だけでなく、私をはじめ、社員の気持ちも落ちこみました。みんな、お祭りを盛り上げたくて入社したのに、そのお祭りが開かれないわけですから。なにかできることはないかと模索し、「オンライン夏祭り」を企画しました。
── オンライン夏祭りとは、どんなものだったのですか?
加藤さん:阿波踊り、エイサー、盆踊りなど全国のお祭り団体とタイアップし、リモートで踊りを楽しめるイベントを開きました。踊り方を教えてもらえるコーナーや、浴衣の選び方コーナー、ご当地ガールズ(ご当地観光地大使)がその土地の観光地を紹介するコーナーなどをつくりました。専門家を招いて街の未来を考えるコーナーなど、硬軟おりまぜて企画を立てました。
これらはすべて無料で配信しました。利益はほとんどなかったのですが、社員全員、何かお祭りのためになることをしたくて必死でした。それに「お祭りは一度やめると復活させるのはむずかしい」といわれています。だから、お祭りを存続させたい気持ちも大きかったです。
──「お祭りを復活させるのはむずかしい」というのはどういう意味でしょうか?
加藤さん:毎年続けていたら、この時期に打合せをする、誰がどんな仕事を担当すると流れが自然とできていきます。でも、一度やめてしまうと蓄積されたノウハウが残りません。人を集めるにしても、いちから説得しないといけないんです。それに、お祭りがなくなると、それに付随する伝統文化も途絶えてしまうことに。だから、オンラインという新しい形でお祭りを続ける方法を模索しました。
── 新しい取り組みであるオンライン夏祭りを開催するにあたり、どんな苦労がありましたか?
加藤さん:すべてが初めてだったので、どんなコンテンツを配信したらいいか、どうやって配信環境を整えるかも手さぐりでした。踊りを中継する際も視聴者が飽きないよう、カメラは数台用意し、引いた映像、寄った映像、全体の映像を撮影し、切り替えながら配信しました。
── 実際に開催してみて、どんな反応がありましたか?
加藤さん:反響は大きく、WEBのPV数は約3万4000と予想をはるかに上回る方に楽しんでいただけました。地方のお祭りを日本中の人に知ってもらう機会にもなったと思います。私自身、ちょうど出産直後だったので、自由に外出ができないタイミングでした。だから、家でお祭りの雰囲気を味わえるのはいいなと実感もしましたね。お祭りの新しい可能性を見出せた気がします。
私の推し「茨城県・悪態まつり」が待ち遠しい
── コロナ禍を経て、変わったことはありますか?
加藤さん:「お祭りを盛り上げたい」気持ちは変わっていません。会社としてはコロナ対策や感染予防対策など、新しい仕事は増えました。また、多くの人がお祭り文化の保存の重要性に気づき、映像で残そうとする動きも出てきました。
コロナ禍以前から、地方自治体ではお祭りをはじめとする地方文化を観光資源として活用しようとする動きがあったんです。当社では、各地域のお祭りをたくさんの人に伝え、楽しんでもらうためのお手伝いをしています。コロナ禍にオンライン夏祭りを実施したことで、全国の人に知ってもらえることがわかりました。この経験で得たノウハウを活用し、昨年は、全国30件のお祭りの公式ライブ配信も手がけました。
── コロナ禍が落ち着いて、今年はたくさんのお祭りが開催されそうですね。
加藤さん:私もワクワクしています。大きなお祭りが注目されがちですが、日本には「奇祭」といわれる変わったお祭りも少なくありません。
たとえば、私が大好きなのが茨城県笠間市で行われる「悪態まつり」です。これは冬に行われるのですが、山頂にある神社に向かう天狗に、見物客が悪態をつきまくるんです。悪態というとネガティブなイメージがありますが、参加してみると、すごく平和で笑いに満ちた楽しいお祭りなんですよ。車が通るだけで「おい、車来てるぞ、お前ら気をつけろよ、この野郎」みたいな(笑)。みんな、大声を出してうっぷん晴らしをしているんです。
── それは楽しそうですね。参加したくなります。
加藤さん:身近なところでも知られていないだけで、お祭りはたくさん開催されています。それこそ、神社の数だけあるのではないかと思います。ぜひ皆さんに足を運んでもらい、お祭りの楽しさを味わってほしいです。それが地域の活性化やお祭り支援の第一歩になると思います。
PROFILE 加藤優子さん
株式会社オマツリジャパン代表取締役。震災直後の青森ねぶた祭りに行った際、地元の人が心の底から楽しんでいる様子を見てお祭りの持つ力に気づく。同時に多くのお祭りが課題を抱えていることを知り、2014年起業。2児の母。
取材・文/齋田多恵 写真提供/株式会社オマツリジャパン