頭痛、吐き気、めまい…月経は女性にとって大きな影響を与えることも。その回数は生涯で400回ともいわれています。「症状改善のために知られていないことがある」と泌尿器科医が話す内容とは。
月経によって5割の女性は「仕事の効率が下がる」
これまでデリケートゾーンと表現していた部位を、最近は「フェムゾーン」とよぶようになり、専用のソープや保湿剤も登場。腟と外陰はデリケートな秘するところではなく、目で見て、触って、洗って、保湿して、自分自身で守るところと意識の変化が起きています。フェムゾーンケアについて、泌尿器科・膣美容専門の関口由紀先生に聞きました。
—— フェムゾーンとは具体的にどこを指すのでしょうか。
関口先生:女性の腟と外陰をフェムゾーンとよびます。ホルモンバランスと密接に関係する外性器と呼ばれる部分で内性器である子宮・卵巣への通り道です。妊娠・出産といったライフイベントはもちろん、生涯の健康や美容にも影響する大切な場所です。
月経回数は出産数が減少したため生涯400回前後になった女性が多く、その結果、PMSとよばれる月経前症候群や月経随伴症状が悪化する女性も増え、仕事のパフォーマンスがとても低下する女性が増えました。また、50代以降の女性の2人に1人がGSM(閉経による性器尿路症候群)を抱えるようになり、最近、注目されています。
妊娠・出産が減り、月経回数が増え、寿命も伸びたため、フェムゾーンの機能をよりたくさん使うことになり、以前よりフェムゾーンに負荷がかかっています。人生100年時代に突入するにあたり、フェムゾーンをケアすることでQOL(生活の質)を長く保ち、大切な自分の身体と心を慈しむことが重要になってきます。
—— 一生のあいだに400回も生理があるなんて聞いただけで憂うつになりました。少しでも負担を軽減するために、どんなフェムゾーンのケアがありますか。
関口先生:基本は洗浄と保湿です。通常は1日1~2回、つまり入浴時の洗浄だけで充分で、入浴後にボディ用の乳液・クリーム・オイル等で保湿します。
生理時や軟便時・性交後は、トイレでウォシュレットを使い清潔を保つのもいいでしょう。ただ、排尿のたびにフェムゾーンを洗うのは、洗いすぎです。皮膚表面のバリアー機能を妨げてしまうからです。ちなみに、排尿直後の尿は無菌なんですよ。
透明もしくは薄い白のおりものも、洗い流す必要はありません。おりものは自浄作用のため、ショーツ内がおりもので少し湿り気を帯びた状態が正常です。
おりものシートの使いすぎは「皮膚炎」を引き起こす
—— そうなんですか!下着がよごれるのがイヤでつねにおりものシートを利用されている女性も多いのではないでしょうか。
関口先生:そうですね。24時間365日おりものシートをつけて過度に清潔を保つことによって「接触性皮膚炎」をおこし、フェムゾーンがかゆいと訴える人もいます。若くても食生活の偏りで、肌あれがフェムゾーンにも現れたり、ピルの副作用で女性ホルモンが低下したことでGSM様のかゆみが出たりする人もいます。
—— 更年期障害でフェムゾーンに症状がでることもありますか?
関口先生:更年期は閉経の前後5年をさし、45〜55歳の間でめまいやホットフラッシュなどの自律神経失調症状と、イライラや落ち込みなどの精神神経症状である更年期障害に悩む人が多いです。
これらの更年期障害の症状は閉経後3年くらいから改善傾向にあります。そのかわり、ポスト更年期の症状が出てきます。具体的には、生活習慣病や骨粗しょう症、そしてフェムゾーンの違和感・乾燥やトラブルです。しかし、フェムゾーンの皮膚が弱くて敏感な女性のなかには、更年期や30〜40代のプレ更年期から、女性ホルモンのアップダウンによるフェムゾーントラブルが起こる人もいます。
—— 顔や腕、脚だけでなくフェムゾーンも乾燥しはじめるわけですか…。
関口先生:それが悪化した状態が冒頭にもお話ししたGSMです。女性ホルモンの低下で、外陰部の粘膜や皮下組織が薄くなってトラブルがさらに増えます。乾燥に加えて、フェムゾーンの痛みや乾燥、頻尿、尿漏れ、性交痛もGSMにふくまれます。
ですので、皮膚の弱い人や50歳以降の女性は、とくにフェムゾーンのセルフケアをおこなったほうがいいでしょう。
健康維持にはフェムゾーンを意識することから
—— そこで基本となってくるのが洗浄と保湿なんですね。
関口先生:生理の出血も排出直後は無菌ですが、自分で排出をコントロールできないことが問題です。ショーツの中で排出すると約1時間後には菌の繁殖が始まり、数時間で皮膚の刺激や炎症の原因なります。
便は出た直後に大腸菌を含んでいますが、生理の出血に比べると排泄をコントロールできます。しかし、便の性状をコントロールするのは難しく、軟便の場合は肛門周囲の皮膚に便がついて刺激となり、炎症の原因となります。
そのため、生理の出血と軟便についてはウォシュレットで洗浄したほうが清潔を保てます。食べ物や口のなか、胃の調子などは皆さん気を使うんですが、フェムゾーンについては無関心になりがちです。私たちにとって、食事だけでなく排泄も生きるための重要な行為です。
肝臓・腎臓とならんでフェムゾーンは「物言わぬ臓器」でもあるんですよ。痛いとか、かゆいとか、症状が出て初めて関心を持つ人が多いですが、そうでない限り、とくに気に留めることなく毎日、排尿や排便をしています。そうではなく、トラブルが起こる前に排泄やフェムゾーンにもこだわってほしいと思います。
—— たしかに。文句も言わずに毎日働いてくれるフェムゾーンについて考えたり、いたわったりする機会はこれまでなかったかもしれません。
関口先生:スペインやイタリア・南米などのラテン系の人たちにとって、フェムゾーンは「第2の顔」と言われ、顔と同様に日々のケアを怠りません。お手入れしなければ将来、尿漏れなどの排泄トラブルや、腟まわりの乾燥や痛みなどQOLを低下させる症状を起こしてしまうかもしれません。
フェムゾーンの機能をできるだけ長く維持するため、フェムゾーンケアの習慣はとても大切です。日本でも「見えないところをきれいにする」美徳は昔からあります。まだ大丈夫と先延ばしせずに、早くからフェムゾーンケアを始めましょう。
PROFILE 関口由紀先生
医療法人LEADING GIRLS女性医療クリニックLUNAグループ理事長、株式会社フェムゾーンラボ社長、 横浜市立大学大学院医学部客員教授。TOTOの社内プロジェクト「ビデプラス」に専門家として協力。
取材・文/清宮あやこ 画像提供/TOTO
※ウォシュレットはTOTO株式会社の登録商標です