お子さんと小島聖さん 撮影/黄瀬麻衣
自然に囲まれながらお子さんと 撮影/黄瀬麻衣

最近は郊外に家を設け、自然と親しみながら過ごしている小島聖さん。若いころの体験がきっかけで都会的な生活を見直したそうで、演技に対する考え方も年を重ねるほどに変わっていきました。

30代から山の近くで生活したいと

── 小島さんのインスタグラムからは、本格的な田舎暮らしの様子が伝わってきます。

 

小島さん:普段は東京で生活していますが、山の近くに家を持ちました。週末は都合がつく限り、そこで過ごしています。山が好きで、30代のころから山の近くで生活したいとずっと思っていました。

 

なかなか具体的にならないまま時間が過ぎていたのですが、コロナ渦で時間ができてよい縁があって、持つことになりました。

 

── 作物もいろいろ栽培していますね。

 

小島さん:畑がやりたいわけではなく、家を持つことになった地域に環境や土に特化した活動をしている知り合いがいて、種をいただいたのがきっかけです。去年の冬、うちの子どもにまくのをやらせたら、選別しないまま勢いよくバッとまいてしまって(笑)。でも、ビギナーズラックで、すごく実りました。

 

サラダにできるような葉っぱだったり、小さい大根だったり。すっかり楽しくなってしまって。ちゃんと自分たちの手で育つのだと感動しました。それで、調子にのって春も種をまいてみたら、さっぱり出てこないんです。知り合いに相談すると、土の養分が減っていると言われました。アドバイスどおりに肥料を混ぜてもう一回やりましたが、やはり出てきません(笑)。

 

── 難しいんですね。山には行けていますか?

 

小島さん:なかなか行けません。普段は住んでいないので、山の家に行くと掃除や草むしりなどの手入れに追われてしまいます。思い通りにはいきませんが、そういうことも含めて新しい生活を楽しんでいます。

 

ネパール旅行での小島聖さん
ネパール旅行で

ないものねだりで豊かにみえた

── 20代のころはアートやファッションなどスタイリッシュなものへの関心が強かったそうですが、どのようなきっかけで自然志向になったのですか?

 

小島さん:30歳のときネパールへ行き、トレッキングを体験したのですが、それがすごく楽しかったんです。世の中的にも、エコやロハスなどが話題になっていたころです。たとえば、どこかの家が停電になったら電気のつくひとつの家に集まってみんなでテレビをみたりとか。

 

こんな生活があるんだと興味を持ちました。キラキラしていない、スタイリッシュでもない。だけどそれまで知らなかった豊かさを目の前にしたときに、自分の生活ってどうなんだろう?と思ったのがきっかけです。

 

今振り返れば、自分がスタイリッシュと思う生活をしていたから、ないものねだりでネパールのような質素な生活が豊かにみえたのだと思います。スタイリッシュな暮らしを一度手放し、本格的なマクロビオティックを実践していた時期もありますが、だんだんもっと緩くていいんじゃないかという考えになりました。結局、自分がいるところに満足できないから、外のものが面白そうにみえるのかもしれません。

 

小島聖さん

演じることが楽しくなったのは20歳を過ぎてから

── 今が不満というより、新しいものに対する好奇心やチャレンジ精神が旺盛なのではないでしょうか。小学生のころから芸能活動をしていますが、ご自身の意思でしたか?

 

小島さん:親の勧めで児童劇団に入ったので、自分の意思ではないです。最初のころは反抗心のようなものがあったのですが、児童劇団では週に何回かバレエや日本舞踊のレッスンがあって、それは楽しかったです。そのうち学校での居心地より、児童劇団で過ごす時間のほうが面白くなっていきました。

 

── お芝居そのものが楽しいという感覚ではなかった?

 

小島さん:中学生くらいまでは、それほど自発的ではありませんでした。高校が芸能活動にオープンな学校ではなかったので、学業を優先していました。仕事の頻度が中学生のころより減ったこともあり、たまに仕事に行くと楽しいと感じるようになりました。もうちょっとやってみたいという気持ちが芽生えて、大学に進学せずそのまま役者を続けることにしたんです。

 

本当に演じることが楽しくなったのは、20 歳を過ぎて初めて舞台のお仕事をしたときです。

 

── 舞台のどんなところが楽しかったのでしょう?

 

小島さん:映像の場合はメイン(主役)でなければ、作品において自分の出演シーンしか関わることがありません。部分的な参加であって、現場では全体を見られない。そこが少し寂しいというか、物たりない感じがしてしまうんです。舞台では最初、台本でしかなかったものが、役者、スタッフみんなの力が合わさり、だんだんと立体的な形になっていく。そのでき上がっていく過程を、間近で感じられるのが面白いなと思います。

 

── 山登りもそうですが、自分の体を使って体験することが好きなんでしょうね。

 

小島さん:そうですね。器用じゃないので、体で感じないと自分のなかに落とし込めないんです。これまでいろんな役をやらせていただきましたが、20代より30代、40代と年齢を重ねたほうが深く理解できる瞬間があるし、家のなかで情報を選び取るより、外に出て旅をしたほうがずっと大きなものを得られる。どんなことも経験値が可能性を広げてくれるのではないかと思います。

 

PROFILE 小島聖さん

こじま・ひじり。1976年、東京都生まれ。1989年にNHK大河ドラマで俳優デビュー。映画『あつもの』で第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。著書にエッセイ『野生のベリージャム』、2023年11月には舞台『ビロクシー・ブルース』への出演を控える。

取材・文/原田早知 写真提供/小島聖