「最初は何もかもがうまくいかなくて」と話すのは、選手を引退して大学女子サッカーチームの監督に転身した大竹七未さん。独自の指導で強豪校へ導いた秘けつとは(全4回の2回)。
「トラップうまいな」原体験が指導の根っこに
── 27歳での引退後、さまざまな場所で指導経験をつみ、2010年、東京国際大学女子サッカー部新設とともに、初代監督に就任。チームの立ち上げから関わり、創部3年目で全国3位に。
大竹さん:結果を出すまでにはもっと時間がかかるものですが、創部3年目で全国3位は史上最速と言われました。でも、引退後に初めてチームのコーチを引き受けたときは教え方がわからなくて、すごく難しかったです。指導者ライセンスをとる勉強して、人を育てるってこういうことかと少しずつ学びました。自分でプレーをしてみせることは簡単ですが、指導者としては言葉で伝えなきゃいけないんだと。
── サッカーを言葉で伝える、は挑戦ですね。指導するうえで大切にしていることは?
大竹さん:「本人が気づかない良いところを見つける」のが、私は得意なほうです。本人が気づいていない選手の良いところを見つけて伝えると本人が自信を持ち、いいプレーにつながります。
私も現役時代に自分ではまったく得意だと思わなかったのに、監督から「トラップがすごく上手」と指摘を受けて、そのたったひと言で意識が変わった経験があるんです。ちょっとした雰囲気や表情から洞察するのが私特有の指導法です。
目標は監督の考えより学生に考えさせること
── 各自の良さを引き出す一方、チームづくりも監督の仕事です。ゼロからとなると大変だったのでは?
大竹さん:大学生の場合は、まず本気にさせるところから始めました。プロは選ばれた人たちなので最初から本気だけど、大学の部活はいろんな目的で入ってくる選手の集まり。でもサークルとは違うし、頑張るのが好きな子たちが集まっています。
彼女たちをまとめるために、それぞれどうなりたいか本人たちに目標を考えさせました。自分で「こうなりたい」と言ったら、やるしかないじゃないですか。監督が目標設定するチームもありますが、私は「自分が言ったんだからやろう!」というもっていき方をして、チームをつくりました。
── 目標を考えるうえで大切なことは?
大竹さん:チーム目標と個人目標を明確にすることです。チームをつくるときは、どこを目指すか、チームとしての目標を話しあってはっきりさせるのが大切。これは私がW杯に出場したとき、もっとチーム内で議論しあえばよかったと反省した経験からも感じています。個人レベルでも、「守備をこうしたい」「得点をあげたい」などたくさん目標が出てきますが、バラバラに枝分かれしてしまわないように、チーム目標と個人目標の両方をしっかり考えました。
── 大竹さんのチームづくりへの学生たちの反応は?
大竹さん:「大学日本一になりたい」と言われました。こらこら、高校で全国大会に出ていない子たちのチームなのに…。「高校日本一になった子たちも、みんな大学日本一になりたいんだよ?この差をどうやって埋めるの?」「そのためにはどれだけ努力をしなければならないか」と話をしました。
「努力とは何?3日やって終わりじゃない。今日は50、明日は100と波があるとトップには追いつけない、毎日コンスタントに100%の力で練習をやらないといけない」。こんなところから教えて、「上を目指すとは」「本気で努力するとは」から教えました。すごく時間がかかりましたし、練習が厳しいからみんなに“鬼”って呼ばれたことも(笑)。
── 監督の威厳を感じます。学生たちとって大竹さんは怖い存在だったのでしょうか?
大竹さん:グラウンドを離れたら、よくいじられていました。人前で双子の妹と自分を区別するために、みんなから自分のことを「なみ」と呼ばれていることがあり、学生からも「なみが~」ってモノマネされてました(笑)。
学生たちとはファッションやメイクの話をしたり、恋愛相談も受けました。ほかにも、「日焼け止めを塗ったほうがいいよ」「くつはそろえよう」「脚をひろげて座らない」など、日常の小さなことも話しました。もちろん、試合に出られない悩みなんかもよく聞きましたね。
サッカーを通して社会で通用する人間を育てたい
── いじられキャラなのに、グラウンドでは厳しい大竹監督ですか。
大竹さん:練習内容は厳しいと言われました。選手時代に自分が体験した練習は本当にきつくて、その内容をゆるめたものを大学で応用してメニューを組んでいたんですが…。
学生ができないことに対して怒ったことはありません。でも、集中していなかったり、トライしないプレーには厳しく言いましたよ。
── そうした積み重ねで、創部3年で全国3位の快挙を達成したんですね。
大竹さん:みんな「サッカーをやっててこんなにうれしいことはなかった!」と喜んでました。サッカーが上手くなるのも大切ですが、サッカーを通して努力したり頑張る方法が伝わって私もうれしかった。できなかったことができるようになる方法を知っていれば、社会に出てからもどこに行っても役立ちますから。
── たしかに、社会に出た後が大切ですね。
大竹さん:「うちの会社に来てほしい」と、言ってもらえる選手を育てたいと考えていましたね。それがサッカーに対する恩返しにもなります。女子サッカーをやっている学生は、元気で仕事もテキパキできて、コミュニケーション能力が高くて気配りもできるから、一緒に仕事したいって言われたい。
プレーを通して、仲間への思いやりなども身につきますが、挨拶や礼儀もうるさく言いました。「人と人との最初の出会いは挨拶から始まるんだよ。挨拶しないと怒られるからやるものではない。たとえば、あなたの目の前に挨拶する子としない子がいたら、どっちのタイプに好感がもてる?結局、挨拶ひとつで損するのは自分なんだよ、挨拶は自分のためでもあるんだよ」って。こういう「損得」に関わる話として伝えたら、学生たちにも響いたようで、みんな挨拶するようになりました。
言ったことをできるようになったら、すぐ「えらいー」とほめます。だって、自分で変わろうとして変わったわけじゃないですか。相手が努力したら、ちゃんとほめるのは大切です。
PROFILE 大竹七未さん
サッカー解説者・指導者。全日本選手権4連覇、日本女子リーグ3連覇など、フォワードとして活躍。Lリーグ(現WEリーグ)では最速で100得点を達成。日本代表のエースとして、五輪やW杯など、国際Aマッチに46試合に出場して30得点。2015年長男を出産。2022年、株式会社ティアラ・7を設立し、日焼け止め商品「N SHOOT」の開発や販売をてがける。
取材・文/岡本聡子 画像提供/大竹七未