ゼリー部分が少ないトマトの断面が「気持ち悪い!?」とSNSで話題に。新潟県でトマトを栽培するSOGA FARMの曽我新一さんに話題のトマトについて聞きました。
冬の寒さに耐えて甘くなる「越冬トマト」の断面が話題に
── SOGA FARMさんがTwitterに投稿されたトマトの断面についての記事に大きな反響がありました。なぜこのような投稿を?
曽我さん:うちで作っている「越冬トマト」を購入したお客さまから、まれに「断面が気持ち悪いんですが、大丈夫ですか」と問い合わせをいただきます。越冬トマトは、一般的なトマトのように種のある部分がゼリー状に集まっていなくて、「霜降り」状に分散されています。あまり見慣れないせいか、こういう断面になるのは「遺伝子組み換えだからだ」とか「放射能の影響だ」とか、とんでもないデマを流す人もいるので、「悪いものではないですよ」ということをお伝えしたいと思ってTwitterで発信したら、「そういうことだったのか」と安心してもらえました。
── なぜこのような断面になるのですか。
曽我さん:よくわかっていないところもあるのですが、おもな原因は「品種」と「育て方」です。うちで育てているのは、「赤系」の「ファースト系」品種で、トマトの原種に近いといわれています。アメリカやヨーロッパでは「エアルームトマト」と呼ばれている品種です。日本では「桃太郎」などの「ピンク系」のトマトが多く出回っていて、「赤系」は珍しいんです。
この品種を秋から春にかけて栽培し、水分を最小限にして育てると、種部分が霜降り状になります。水を控えるのは、トマトにストレスを与えて糖度を高めるためです。これがいわゆる「フルーツトマト」ですね。フルーツトマトというのは品種ではなくて、寒い時期に糖度を上げて作ったトマトのことなんです。
寒い冬を超えて甘くなるので、「越冬トマト」と名づけました。一般的な「ピンク系」トマトに比べると3分の1くらいの大きさですが、果肉がみっちり入っていて、鉄球みたいに重いんですよ。まるでお肉のよう食べごたえがあります。
収穫してから1週間室内で保管して、酸味と甘味のバランスがちょうどよくなったら出荷します。販売するのは4月から6月で、毎年直売所とオンライン販売だけで完売してしまいます。
規格外のトマトがネーミングで人気に?
── 直売所では、「闇落ちとまと」という変わったトマトも人気だそうですね。
曽我さん:水分を制限してフルーツトマトを作る過程で、どうしても果肉の一部が黒くなってしまう「尻腐れ」というトマトができてしまいます。味は変わらないですし、むしろ生産者の間では「尻腐れトマトのほうが甘い」と言われているほどですが、見た目がグロテスクで販売できませんでした。
なんとか商品にできないかと「闇落ちとまと」と名づけたら、テレビやSNSで話題になり、こっちのほうが有名になってしまいました。「日本ネーミング大賞2022ルーキー部門」で最優秀賞をいただきました。
名前の由来は、『スター・ウォーズ』のアナキン・スカイウォーカーです。実力があるのに環境に恵まれず、闇落ちしてダース・ベイダーになってしまうところがフルーツトマトとそっくりだな、と(笑)。
「闇落ちとまとだけを買いたい」というお客さまもいるのですが、あくまで生理障害なのでねらって作れるものではないんです。直接見て、納得して買っていただける直売所での販売のみにさせてもらっています。販売時期は5〜6月のみです。
── これから、夏にかけてトマトがたくさん出回りますね。
曽我さん:フルーツトマトの季節はそろそろ終わりですが、量でいえば、トマトの旬はこれからです。夏場のトマトは水分を控えると育たないので、糖度は上げられないのですが、その分酸味があってみずみずしいのが特徴です。そのまま食べてももちろんおいしいですし、塩昆布とあえるのもおすすめです。めんつゆとの相性もいいですよ。
ただ、トマトに限らず畑で作られる野菜はみんなそうなのですが、表面に雑菌がついていることがあるので、よく洗って食べてください。特にトマトは、へたの部分に雑菌がつきやすいです。特にお弁当に入れると、密閉された空間で雑菌が増えやすいので、へたは取ったほうがいいですね。トマトをたくさん買ったときは、へたを取って水洗いしてから冷蔵庫で保管すると日持ちします。
トマトは冷凍もできます。解凍したら生では食べられないので、トマトソースやカレーなどの料理に使うといいと思います。凍ったまますりおろしてそうめんにかけると彩りもきれいですよ。夏らしいトマトの味を楽しんでほしいですね。
PROFILE 曽我新一さん
SOGA FARM(曽我農園)代表。新潟県でフルーツトマト「越冬トマト」を栽培している。Twitter(@pasmal0220)では、トマトの豆知識や生産者しか知らない情報などを発信している。
取材・文/林優子