日本で唯一の「ゾンビ学」を教える岡本健准教授。まさか自分がゾンビに関する授業を行うとは思ってなかったそう。学びとは何ぞや。その答えが准教授の人生に詰まっていました(全2回中の2回)。

 

シュールすぎる!岡本准教授がゾンビ顔でラーメンをほおばる姿

近畿大学で「ゾンビ学」を教えるようになった訳

大学時代にゾンビ映画にハマり、数百本は観てきた岡本健さん。もともと研究していたアニメ聖地巡礼に関する著書のなかで「ゾンビでも同様の研究をしてみたい」と書いたところ、「ゾンビ本を書きませんか」と、すぐに編集者から打診を受けました。

 

「ゾンビ本の準備を進めながら、試しに1コマ90分だけゾンビの講義を行ったら、予想以上に大ウケ。『これはいける!』と、同志社女子大学で『メディア社会学』、近畿大学では『現代文化論』のなかで、どちらも半期の15回分すべてをゾンビ分析にあてました」

 

2017年、映画、マンガ、小説、ゲームなど400以上のコンテンツを横断し、あらゆる角度からの分析に挑んだ『ゾンビ学』という本を刊行。いまは近畿大学で「ゾンビ学」を教えています。

 

「既成概念にとらわれず、自分が面白いと思えることを勉強したいと研究者になりました。それがたまたまアニメ聖地巡礼や、ゾンビだったんです」

 

横川ゾンビナイトのゾンビ感染所でメイクし、町を歩きながら現地調査する岡本さん

この世界初のゾンビ総合的学術研究書『ゾンビ学』は、シナリオの参考にしたいとクリエイターたちによく売れました。

 

「小学校の時の文集に、『将来の夢は映画監督か学校の先生』と書きました。だからこの本が映像やゲームを作る人たちの役にたって本当にうれしい。数えきれないほどのゾンビ映画を観てきてよかった!」

「つまらない」を「面白い」に変えるために伝えたかったこと

教員としての岡本さんは、ゾンビ学を通して学生たちに「学問の自由さや面白さ」を伝えたいそう。

 

「ふつうはゾンビなんて学問になるのか、って思いますよね。研究や卒論というと、つい真面目なテーマを選びがちです。でも僕自身がゾンビを学問として扱って世に問うことで、自分が心底のめりこめるテーマであれば、どんなことでも研究テーマになると学生たちに知ってほしいんです。大切なのは、“何を学ぶか”よりも、“どう学ぶか”。学び方、研究のしかたを身につければどんなテーマにも挑戦できますし、人生が豊かになります」

 

『こんな大学来たくなかった』『大学なんかつまらん』と言っていた学生が、『自由にテーマを決めていいんだ』『研究って面白い』と聞くと、目の色が変わっていくそう。「他人の意見ではなく、自分の情熱にしたがって、好きなことを追求する喜びに気づくと強い」と、岡本さんは言います。

 

このように岡本さんの授業をうけた学生は、個性豊かな卒論に取り組んでいます。なかには6万字の卒論を書き上げてきた学生も。

 

「ゴキブリがなぜ嫌われるのか?映画の中での扱いは?など、ゴキブリ文化論の研究をして、希望どおりマスコミに就職した女子学生がいました。他には、甲子園大好きなのにコロナで中止になり、悲しみのあまりスポーツ倫理学の観点から甲子園中止について研究論文を書いた男子学生もいましたね」

 

就職活動では“ガクチカ(学生のときに力を入れたもの)”を問われるのがつねですが、岡本さんの教え子は2年生のときから卒論に取り組み、自分の研究内容を追求する時間も議論する経験も多く、説得力のある話ができるため、就職活動ではプラスになっているそう。

コロナ禍で誕生したまさかのVTuber体験!

そんな岡本さんと学生にも、新型コロナウィルスの影響が。近畿大学は早い段階で校内立ち入り禁止となり、遠隔授業を開始。たまたま、オンライン授業を見返した岡本さんはあぜんとします。

 

「映像の質が悪すぎる!こんなのを家にこもって見るなんて、学生は絶対つらい。あわてて音響は改善しましたが、画面の端にはそのままの僕。いつも同じ僕の顔を見続けて楽しいのだろうか?当時は、スライド資料を投影しながら話者の顔は出しておくほうが、見る側の孤独感が抑えられると言われていたので、僕は顔を出し続けたかった。それなら見て楽しい気持ちになるキャラをアバターで作ろうと考えたんです」

 

そして、ゼミ学生に制作を依頼して生まれたのが「ゾンビ先生」。制作した女子学生はゲーム会社に就職しました。もともと岡本さんは、テレビ番組でVTuberと共演経験があり、社会への影響を研究したいと考えていたのです。

 

VTuberのゾンビ先生

「興味を持ってのめりこんだことが人生のテーマにつながっていくのが、とても面白いです。観光とアニメ聖地巡礼、ゾンビ映画とゾンビ学、自分がVTuberになってVTuberを分析する。趣味や興味が仕事につながる楽しさ。そのかわり、プライベートで旅行しても、ネットサーフィンしていても、つい仕事目線で見ちゃいますけど…」

 

ゾンビ先生は学生向け講義を広くYouTubeで公開。ゲーム実況も行うなど、活動領域を広げています。

 

「自分の興味を追求したら、小学校の文集に書いた『映画監督か、学校の先生になりたい』夢をほぼかなえられました。映画はまだ作っていませんが、自分の作った動画をみんなに観てもらっています。ほんま幸せです」

 

PROFILE 岡本 健さん

近畿大学総合社会学部/情報学研究所准教授。専門はゾンビ学、アニメ聖地巡礼、観光社会学、コンテンツツーリズム学、サブカルチャー、バーチャルYouTuber、ゲーム。VTuber“ゾンビ先生”として『ゾンビ大学』講義やゲーム実況も行う。

 

取材・文/岡本聡子 画像・写真提供/岡本健