「仕事に集中できる」とカフェイン錠剤を1か月半も服用。1日止めただけで身体が鉛のようになり…。そんな苦しい経験をTwitterで発信すると、思いもよらないことが起こりました(全2回中の2回)。

 

実話・三森さんがカフェイン依存症になった時の様子を描いた漫画

カフェイン錠剤を45日服用「止めたら急に睡魔が…」

中1のときに両親が別居し、うつ症状に襲われた挙句、ゲーム依存症に陥った三森みささん。大好きな絵に出合い、家を出たことでゲームからは離れられましたが、その後も親子関係のひずみから生じた心の空白やトラウマに苦しみ、買い物や塩分などへの依存を繰り返しました。

 

「“カフェイン依存症”もそのひとつです。絵の仕事と飲食店勤務のかけもちで忙しくなり、乗りきるためにネットでカフェイン錠剤を購入したのがきっかけでした。1錠でカフェイン200ミリグラム(通常のコーヒー3〜4杯分)が摂れて、集中力と仕事の効率が驚くほどアップしたんです」

 

1か月半の連続服用。錠剤なしでは生活がまわせなくなり「ヤバい」と、三森さんは自覚します。カフェイン錠剤を抜いた日、強烈な眠気で起き上がれなくなる離脱症状にも。

 

『だらしない夫じゃなくて依存症でした』(三森みさ作)より抜粋

「過去の依存症の経験から学び、精神状態も安定していたのに依存してしまうなんて、かなりへこみました。せっかくだから、漫画の練習や仕事の営業もかねて、この経験をエッセイ漫画にして、Twitterで公開してみたんです」

 

2018年、このカフェイン依存症エッセイ漫画は、「自分もそうです!」「こんな依存症があるなんて知らなかった」と大反響を呼び、Yahoo!ニュースなどでも取り上げられて数万リツイートされました。すると、それまで200人程度だったTwitterフォロワーが一気に5000人まで増加。やがて思いもよらなかった展開へ。

厚労省から依頼!「初めて依存症を勉強しました」

Twitterでの漫画公開後すぐに、厚生労働省から「依存症啓発漫画を描いてほしい」と依頼を受けたのです。軽い気持ちで引き受けた三森さんは、依存症について勉強を始めました。

 

「その時はじめて、“依存症は病気であり、回復できる”と知りました。それまでは、まわりに知られたらどんな目で見られるのか不安でたまりませんでした」

 

やがて啓発漫画のため専門家と打ち合わせを行い、アルコール依存やギャンブル依存の当事者・家族が参加する自助グループを取材し、考え方が変わりました。

 

「依存症の自助グループで会った人はみんな、ちゃんとした服装のふつうの人。もっと“やさぐれてる”イメージを持っていたので、ギャップにびっくりしました。じつは、ふつうの人たちが気づかずに依存症になっていくものなんだって」

 

依存症啓発講演会の取材を受ける三森さん

刊行された『だらしない夫じゃなくて依存症でした』はアルコール依存症の夫とその回復に寄り添う妻の話です。ふだんは優しいけれど依存症を認めない夫、つい世話を焼いてしまう妻、やがて職場で飲酒がバレて強制入院へ…。飲酒量が増え、酔っぱらって暴言を吐き、後で泣きながら後悔する描写は真に迫っています。

 

三森さんのこれまでの人生経験から、当事者と家族の気持ちが痛いほど伝わる内容に仕上がり、「泣きながら読みました」「病院のスタッフみんなで読んでます」など、たくさんの感想が寄せられました。

 

「私自身は、ハマると怖いのでお酒もたばこも手を出していません。でもじつは、元カレがアルコール依存症だったんですよ。大学時代のバイトで、お酒を飲む人の生態を見た経験も生かせました」

“ふつうの人”が知らないうちに依存症になる

三森さんは中学時代、ゲーム依存症を経験。母親は別居中で家から出ていき、父親は怒るだけで依存症をとめようとしませんでした。誰もとめてくれず、ひとりで苦しんだ三森さんはゲーム依存症による体調悪化がきっかけで、ゲームから離れることができました。

 

「家族からの助けが得られないと悟り、自分のやったことは自分が全部引き受けるしかないと早い段階で気づきました。私の場合は、結果的に自力でゲーム依存症から抜け出せましたが、本当は親に寄り添ってほしかった」

 

じつは、家族が依存をやめさせようと説教したり、世話を焼きすぎるとかえって依存が強まるケースも。家族との人間関係が悪化し、コミュニケーション自体が新たなストレスになり、依存が進行する悪循環です。

 

「一般的に、依存症になるリスクを高めるものとして、ストレスや逆境が多い環境、依存開始年齢の低さ、遺伝子的な要因、依存を生みだしやすい産業・社会構造などさまざまな問題が関係しています。本人は適量を楽しんでいるつもりでも、学業や仕事、周囲に悪影響を及ぼし、自分でコントロールできない段階はすでに依存症です。その前段階の軽い依存症の人たちも多いんです」

 

依存症経験や過去を発信したためか、リアルで会った人から「三森さんは、思ったよりふつうですね」と言わることがあるそうです。

 

「そういえば、お会いするまでは私もアルコール依存症などの人たちを特殊な目で見ていましたね。改めてふつうの人が依存症になると実感しました」

 

三森さんの描く依存症啓発漫画は、依存症の苦しさだけでなく、患者が抱える根深い闇にも触れています。三森さん自身も、両親の別居・離婚、宗教三世としての悩みや父親からの虐待などからうつ症状に襲われ、さまざまな依存症に苦しみました。20代の数年間をかけてアダルト・チルドレンの自助グループやトラウマ療法に参加し、ようやく過去との決着がついたそうです。

 

「かつて依存症を経験しまくった私が描いた漫画が、本人やまわりの人たちが依存症に気づくきっかけになれば嬉しいです。依存症は、なによりも本人が治したいという意思をもつのが一番。まわりはあせらず世話を焼きすぎず、本人の意思や力を信じてあげてください」

 

PROFILE 三森みささん

イラストレーター、デザイナー、漫画家。1992年生まれ、関西出身。高校で美術・デザインを、大学で染色を学ぶ。厚労省監修の依存症啓発漫画『だらしない夫じゃなくて依存症でした』(ウェブ上で12話中8話まで無料公開)や『母のお酒をやめさせたい』を出版。依存症啓発・予防講演会も実施。

 

取材・文/岡本聡子 画像・写真提供/三森みさ