性教育が大事なのはわかっているけれど、子どもには話しづらい。そんなとき、親はどうすればいいのでしょうか。和光小学校で約20年、性教育を教えてきた北山ひと美先生にお聞きしました。

 

和光小学校2年生の性教育の授業
小学2年生の性教育の授業中、子どもたちとやりとりをする北山先生

「子どもと性の話がしにくい」理由がある

── 私自身、なかなか性教育を子どもに伝えられないままでいます。そんなとき、親としてどうすればいいでしょうか。

 

北山先生:例えば、月経が始まる頃の女の子に、「月経っていうのはね」と面と向かって話をしにくいですよね。

 

──「そんなこと知ってるよ」と嫌そうな顔をされたりします。

 

北山先生:そうでしょう?子どもはある程度の年齢になると、「親と性の話をしたくない」と思うようになります。だから、嫌そうな顔をするのは極めてまともな反応なんですよ。

 

親御さんは、自分の子どもの頃のことを思い出してみてください。「自分の親と性の話をした」という人はどのくらいいるのでしょうか。

 

和光小学校2年生に性教育の授業をする北山先生
小学2年生に性教育の授業をする北山先生

── そういえば、自分の親とそんな話はできなかったと思います。

 

北山先生:「家庭で性の話ができない」というのは当たり前のことなんです。なぜなら、両親の性行為によって自分が生まれたことは、ある程度の年齢になると知っているわけですから。子どもからすれば、そんなことを想像させる性の話には大きな抵抗感が生まれます。

 

ましてや異性の親御さんは、思春期以降、月経や射精があってからは、性に触れる話をするべきじゃない。子どもはもう親を異性として見るわけですから。

 

シングルマザーやシングルファザーの場合は、信頼できる親戚や学校の先生などと連携して、子どもが相談したいときに話を聞いてもらえる環境を整えておくと安心だと思います。

家庭で自然に性教育ができるコツ

── では、親が家庭でできる性教育ってどんなことなのでしょう?

 

北山先生:例えば、からだや性について正しい知識が学べそうな本をさりげなく自宅の本棚に並べておくのはどうでしょう。私も自分の子どもたちが思春期の頃、「こういう本を読んでみたらどう?」と渡したことがあります。特に反応はなかったのですが、しばらくして手に取った形跡があり、「あ、読んだのかな」って。親はそういうスタンスでいいのではないかと思います。

 

── 内容が信頼できる本をさりげなく目に入るところに置いてみるのはいいですね!

 

北山先生:WEBサイトでもいいものがあるので、まだ性教育への抵抗の低い小学校2年生くらいまでの間に親子で見るのもいいですね。

 

例えば、『Yahoo!きっず』の「ココカラ学園」というコンテンツがすごく人気です。ゲーム感覚で「からだの部位の名前」や「思春期のこころの変化」など正しい知識が身につけられるように工夫されています。

 

性教育の授業を熱心に聴く和光小学校の子どもたち
北山先生の性教育の話を熱心に聴く子どもたち

── 最近はネットから簡単に子どもに触れてほしくない性関連の情報や画像が見られるようになっていて、親としては不安が大きいです。

 

北山先生:そうですよね。性教育は「寝た子を起こすな」と言われることがありますが、子どもは寝てなんていませんから、いろいろな情報に触れていきます。そういったネットリテラシーの教育もしながら、学校では必要な教育をしていきたいというのが私たちの願いです。

「お風呂は何歳まで一緒に入れる?」への答え

── 子どもと何歳までお風呂に入っていいのか迷う親御さんもいると思います。

 

北山先生:明確に限定はできませんが、月経や射精があって以降は異性の親と一緒に入るべきではないと思います。二次性徴を迎えるということは大人のからだになる準備を始めているということで、からだのプライバシーはきちんと守るという感覚を身につけさせてあげたいですね。子どもの側も自分の親であっても異性として見るようになります。

 

── 子どもは身体が成長していても、3、4歳の感覚で親御さんと一緒に入る場合もあると思います。

 

北山先生:「うちの子がかわいくて」という親御さんもいます。でも、そうやってずるずるいくと、子どもは自分の裸や性器を「見られる」「触られる」「触らせられる」ことへのハードルが下がってしまいます。万が一、子どもが性被害に遭ったとき、そのことが「性被害」として認識できないことも起こりえます。

乳幼児期からできるお風呂習慣

── 子どもとお風呂を別にする時期を決める基準のようなものはありますか?

 

北山先生:まだ自分で身体を洗うのが難しい乳幼児期で、「ひとりだとまだ心配」という場合は一緒に入る必要があると思います。また小学校の低学年ぐらいまでは、お風呂にゆっくり入ってその日の出来事をお話しするなど、親子のコミュニケーションの時間にもなりますね。

 

和光小学校の校内の様子

ただ、子どものほうから「もうひとりで入る」と言うようになったら、そのタイミングです。親御さんはその言葉を聞き逃さないようにしてください。もし、聞こえないふりをして、「まだ一緒でいいよ」なんて言ってしまうと、次はもうない、思ったほうがいいでしょう。

 

また、1歳をすぎてひとりで立てるようになったら、スポンジに泡をつけて、胸と性器は自分で洗うように言ってみるといいですね。

 

もちろん、最初はとんでもないところを洗ったりします。でも、「あなたのからだの大事なところ(プライベートパーツ)は、たとえ親の私でも触らないよ」というメッセージを伝えることになります。

 

そうすると、子ども自身に「プライベートパーツは自分以外の誰かが触ったり洗ったりするところじゃないんだ」という感覚が身についていきます。これがまさに、からだへの見方や考え方を表す「からだ観」が育つ大事なプロセスなんですよ。和光小学校の性教育では保護者の方にも説明しますが、子ども自身にきちんと渡したい大事なメッセージです。

トイレの習慣も大事な性教育に

── ほかにも家庭でできそうな性教育はありますか?

 

北山先生:トイレもお風呂と同じように、子どもに伝えたい大切なことがあります。

 

トイレトレーニングが終わったころを目安に、子どもがトイレに入ったら「ドアを閉めるね」と、一度はドアを閉めます。そうすると、子どもは「ここはプライベートなところで、自分以外は誰も入っちゃいけない」と理解するようになります。

 

もちろん、お尻を拭くときは親御さんも入ることになりますが、オープンにしていい場所と、人に見せないプライベートな場所という感覚を少しずつ身につけていくことが大切です。ご家庭でも無理しない範囲できっかけをつくることはできるので、ぜひ実践してほしいですね。


取材・文/高梨真紀 撮影/河内 彩