子どもたちが学校で発表をする機会が増えていますが、人前で話すことに抵抗感を抱く子は少なくありません。親は、発表が苦手な子に対してどのように働きかければよいのでしょうか。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生がアドバイスします。

【Q】「緊張してるのか…」授業で発表できません

小学6年生の男子の母です。息子は、人前で話すのがとても苦手。少人数のグループで話すのは問題ないのですが、クラス全員など大人数の前で発表することができません。もちろん、授業中に手を挙げることもしません。授業で当てられても何も言わないままだそうです。

 

前もって原稿を作っておいて、それを見ながら発表をするのはまだできるようですが、アドリブで発表ができないようです。うまく説明ができないと思って緊張しているのかな…と察していますが、本当のところはわかりません。

 

担任の先生からは、「徐々にできるようになるから」と励まされたそうですが、今の学校教育はみんなの前でプレゼンをする機会が本当に多いので、中学に上がっても大変では…と心配しています。どうにか小学生の間に克服して欲しいのですが…。親として、どのように働きかけ、アドバイスしてあげればいいでしょうか。

 

「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(1/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(1/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(2/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(2/7P)※3P以降は記事の最後に掲載しています

大人が「発表が難しい社会」をつくっている

日本人は自己主張が苦手だといわれています。とくにグローバル化が進むなか、プレゼンテーションスキルの不足から、ビジネスで負けてしまいがちな点は大きな課題として指摘されてきました。そのため、文科省も発表する力を育てようという方針を取っているのです。

 

しかし、いざ発表となると、緊張してしまったり、うまくできなかったりする子は少なくありません。ご相談者様のお子さんに限らず、困っている子は多いです。

 

まずは、自分の意思を人に伝えるには、主に3つのプロセスをクリアする必要があることを理解しておきましょう。

 

1つ目の段階としては、話したい内容があること。つまり、話す意思があるということです。2つ目は、声を出すことに対して一定の慣れがあること。自分の声が相手に届く体験をしていることが重要です。そして3つ目として、自分が発言することに対して「否定されるのではないか」「からかわれるのではないか」といったネガティブな思いを持たずに済むことが大切になります。

 

しかし、1つ目と2つ目がクリアできていたとしても、3つ目が壁になっていることがものすごく多いです。なぜなら、日本の学校や家庭の文化背景が、多様性を受け入れる環境になっていないからです。

 

例えば米国では、正解かどうかは関係なく、発言したことそのものをエンカレッジ(勇気づける・励ます)する文化があります。一方、日本は何か自分らしい発言をすると、先生や親から「面白いね」と個性を尊重されるよりも、訂正や否定をされることのほうがまだまだ多いのが現実でしょう。子ども同士の間でも、その集団のなかで「標準」とされていることから外れたときに、否定的な反応をされたり笑われたりする場面が多すぎるように思います。

 

著名人のプライベートでのトラブルを、メディアも視聴者もよってたかって叩くような社会ですから、子ども社会にもその体質が引き継がれるのは避けようもありません。

 

そうしたなかで堂々と発表できる子は、ある意味、我が強く、他人の反応を気にせず自分の感情を最優先できる「変わった子」とも言えるのでしょう。また、発表の内容をそつなく整えることができ、否定される機会が少ない優等生も発表は苦にならないでしょう。

 

ということは、つまり、多くの子にとっては発表する勇気はなかなか育つものではないということです。そういう環境を自分たちが生み出しているという自覚を、われわれ大人は持たなければいけません。

能力ではなく「環境」と「気質」に目を向けて

よって、発表がうまくいかない子がいた場合、本人の能力やスキルの問題へと話をすり替えるのではなく、「これまで大人はその子を応援してきたのだろうか」という視点に立つ必要があると思います。

 

ご相談者様も、そういった視点でこれまでの環境を振り返ってみてください。お子さんは就学前、みずから発した言葉をどれだけ応援してもらえたでしょうか。あるいは、どれくらい否定してしまう大人がいたでしょうか。

 

小学校低学年の頃は、お子さんが自分なりの意見を言おうとしたときに、それがどんな内容だったとしても「いいね」と受け止めてあげてきたでしょうか。学校では、大人たちが特定の子の発表を褒めるなど、無意識に多くの子が否定されてしまうような状況はなかったでしょうか。まずは、そういった背景に思いをめぐらせてほしいと思います。

 

そのうえで、お子さんの気質を見てあげてください。原稿を見ながらであれば発表できるということは、おそらく発表内容をしっかり完成させたいタイプではないかと思われます。そうした完璧主義の傾向がある子は、知的能力と表現意欲は十分に持っていたとしても、アドリブは苦手にする傾向があります。完成形を表現したい、ほころびがない状態にしたい、間違えたくない、といった心理が働くからです。

 

そう考えると、お子さんの場合は小学校のうちからアドリブで話せることを目標にする必要があるのだろうか?という視点に立てるのではないでしょうか。発表のための原稿準備ができて、その通りの発表ならできる。それで十分なのではないでしょうか。

 

むしろお子さんの気質を考えると、準備したとおりに発表できた成功体験を積み重ね、「自分はこれなら話せる」という得意分野をつくってあげることのほうがはるかに価値があると思います。

 

伝えたい思いとともに特定の分野について発言できるようになることを目指す。今はそれで十分です。成長に応じて話せる内容やジャンルが増えていけばいいと考え、まずはお子さんの好きな分野や得意な分野に目を向けてあげてください。

 

「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(3/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(3/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(4/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(4/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(5/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(5/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(6/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(6/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(7/7P)
「『授業で指されてもダンマリ』人前で話すのが苦手な息子が心配で」(7/7P)

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。最新著書は『子どもの頭のよさを引き出す親の言い換え辞典』。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!