46歳で出産しただいたひかるさん。38歳から不妊治療を開始するものの、40代で2度のがんが発覚。闘病を乗り越えて出産に至った経緯を語ってくれました。(全4回中の2回)

妊娠の期待に胸を膨らませたら

── 2016年に1回目のがんが見つかってから3年後。2019年に2回目のがんが発覚しました。当時の状況について教えてください。

 

だいたさん: 2019年3月に、年に1回受けていた定期健診で右胸に4ミリの小さなしこりが見つかり、がんの再発が発覚しました。普通、同じところにがんが再発することは確率的に低いらしいのですが、私の場合はまったく同じ箇所でした。2016年に見つかった最初のがんで右胸を全摘出し、リンパも取ったのに再発して手術。マグロにたとえると、中落ちまで削り取られるような感じでしたね。地獄に限界はないのかなと思い、かなり落ち込みました。

 

ただ、がんを患うのは2回目なので、逆に落ち着いているところもありました。がんの手術を受ける際、夫に「いぼを取るような感じかな」って言ったら、夫も「歯石を取るようなもんだよ」といってくれたんです。夫との会話で、がんは虫歯のようなもの。再発したら治療すればいい。手術できること自体が幸せだなと思えるようになってきました。

乳がんで闘病生活中のだいたひかるさん
乳がんで闘病生活をしていた時のだいたひかるさん

── 2回目の手術のあと、がんの遺伝子検査を受けたそうですね。

 

だいたさん:2020年4月、手術から1年が経過した頃に、がんの遺伝子検査が保険適用になったことを知りました。もし遺伝性のがんだった場合、再発を防ぐためにも手術していない左胸や子宮も取り除こうと思っていたところ、遺伝性ではないことが判明。子宮を残せるなら、不妊治療を再開したいと思う気持ちが強くなってきたんです。

 

2016年には、がんが発覚する前に不妊治療の一環として受精卵の採取をクリニックで行い、ひとつの受精卵を凍結保管していました。毎年、クリニックから受精卵の凍結の継続に関する確認はがきが届きますが、そのタイミングでがんの遺伝子検査結果が判明。乳がん治療は続けていましたが、乳がん治療をストップして不妊治療に取り組みたいと思うようになったのです。

不妊治療かがん治療か

お宮参りに行くだいたひかるさんご家族
だいたひかるさんのお宮参りにて。夫婦の穏やかな笑顔がこぼれる

── 不妊治療を再開するためには、がん治療を一時ストップする必要があるのでしょうか。

 

だいたさん:がんの治療を中断することで再発率が上がるといわれています。受精卵は、ラストひとつ。妊娠できる可能性は低いもののチャレンジしてみたいと、強く思ったんです。

 

年を重ねるにつれて、死んでもいいからやってみたいことって、なくなってくるんですよ。そんななかでもどうしてもやりたかったことが、凍結した受精卵を子宮に戻すこと。2016年、不妊治療のクリニックで採取した受精卵は、採取時から約3年以上も凍結されているため、常に冷たいまま冷凍保管されています。私は、少なくとも1回でもいいから、受精卵を温かい子宮のなかに戻してあげたかったんです。

 

── 旦那さんの反応はいかがでしたか?

 

だいたさん:最初、夫は私の体のことを心配して「不妊治療をしなくても、2人で楽しく生きていけばいいじゃないか」といってくれました。ただ、私が後悔しないためにも、一度だけチャレンジさせてほしいと伝えると、気持ちを受け止め不妊治療の再開に同意してくれました。

 

凍結していた受精卵を卵巣に戻したところ、奇跡的に妊娠することができました。妊娠継続率を調べてくれる病院で、私の場合は妊娠継続率が75%と高いほうでした。ただ、私は過去に2回流産していたし、45歳と高齢出産だったこともあり、無事に出産までたどり着けるのかずっと不安でした。

妊娠を諦めなくていい

── 2021年5月、ブログで妊娠を発表されました。その時まだ3週間でしたよね。

 

だいたさん:お祝いの言葉をたくさんいただきましたが、同時に、安定期に入ってから発表したほうがよかったのではという声もたくさんありました。たしかに、安定期に入るまではなにが起こるかわかりません。でも、私は、乳がんのときからブログを通じて応援してくれていた人たちにいち早く伝えたかったんです。それに、がんになったことで先のことよりも今を大事にしたいと思い、すぐに公表しました。

 

妊娠を継続する難しさもあるし、乳がんが再発するかもしれない。でも、妊娠はできるんだよっていうことを、私と同じようにがんで闘っている人たちに伝えたかったんです。2022年1月、無事息子が生まれ、今は元気にすくすく育っています。

 

PROFILE だいたひかるさん

お笑いタレント。2002年『R-1ぐらんぷり』の初代王者。2016年、2019年と2回のがんを乗り超え不妊治療の末、2022年に第1子出産。

 

取材・文/間野由利子