今春、夫と3歳の長男とともに、タイに移住したエヴァ芸人の桜 稲垣早希さん。異国の子育てには不安もありましたが、タイでの子どもへの温かい目線に助けられたと語ります。(全4回中の1回)
「ロケみつ」企画を機に「日本以外の国で生活したい」
── 今年3月にご家族でタイに移住されました。生活はいかがですか?
稲垣さん:最初は「どうなるかな」という不安が大きかったんですけど、今住んでいる場所は日本人がたくさんいるエリアなので、日本で手に入るようなものと同じようなものが売っていたりして、想像よりもスムーズに生活できています。
── 以前から「海外に移住したい」という思いがあったんでしょうか。
稲垣さん:そうですね。「ロケみつ」という番組で、ヨーロッパを横断する企画がありまして。ヨーロッパって東南アジアよりも日本人が少ないんですが、それでも向こうの人のおうちにお邪魔したりとか、ご飯を振舞ってもらったりとかしてるときに「どんな場所でも当たり前に人は生活しているんだな」と実感したんです。考えてみたら、当たり前なんですけどね。
でも、そう思うと、日本だけで過ごすのがもったいない気がして。いつかは日本以外の国で生活してみたいなっていう、ぼやっとした夢がしてきまして。
── 今年実行に移したのには、何かタイミングがあったんですか?
稲垣さん:この春、息子が保育園から幼稚園に上がるタイミングだったというのが大きいですね。以前通っていた保育園が2歳児までの園だったので、日本にいてもどのみち幼稚園を探さないといけなかったんです。
小学校に入って友達ができてから引っ越し、となると息子からしても変化についていけないのかなと思ったのと、私自身が今年40歳を迎えて「人生半分ぐらい来たな」という感覚があったので、新しいことにチャレンジしたくなって決断しました。
── なぜタイを選んだのですか?
稲垣さん:正直、最初はマレーシアを予定していたんです。ヨーロッパを旅していたときに一番思ったのが、主食がパンじゃなくてご飯のところがいいな、と。ご飯って毎日のものなので、そこでつまずくと嫌だなと思って。
そういう意味で、東南アジアは距離的にも文化的にも、初めての移住には適しているなと思ったんですね。マレーシアは、インターの幼稚園がすごくいいところでも、やさしいお値段で受け入れてくれるというのを聞いたんです。
でも、マレーシアはコロナ禍でビザが凍結してしまって。「どうしようかな」と思って、お隣のタイのことを調べはじめたんです。それで、実際に昨年の5月にタイに来てみたら「めちゃめちゃいいやん!」って。ご飯は美味しいし、周りの人たちも優しいし。「ここに住みたいな」と思って、タイに決めました。
── 海外で息子さんの幼稚園を探すのは大変そうです。どうやって見つけたのでしょうか?
稲垣さん:うちの子はかなりマイペースなほうなので、のびのび育てたいなという思いが私と夫のなかでありました。いくつか見学に行き、性格的にも園の方針的にも合ってそうなところを選びました。
インターではなく、日本人幼稚園で、先生も日本人が数人いるようなところなんです。こちらも抵抗感少なく、本人も今のところ楽しんで通ってくれているようです。
わが子が電車のなかで泣いても「笑顔であやしてくれた」
── タイと日本で、子育てのしやすさで違いはありますか?
稲垣さん:いいなと思ったのは、旅行で来ているときから何度も思ったんですが、小さい子にすごく寛容だな、という。
例えば、電車のなかで子どもがワーッて大きな声出したら、日本だったら「シーッ!迷惑になるからね」とけっこう必死になだめないといけないじゃないですか。
── そうですよね。
稲垣さん:でも、タイでは、電車の中で同じように泣き出しても、周りの人がすごい笑顔であやしてくれるんです。それで「助かったな」っていう経験があって。タイの知人にそのことを伝えたら、「タイは子どもが好きな人が多い」って。
だから、タイに来てからは、子どもがワーッと泣き出しても、日本みたいにピリピリ、ドキドキするようなことはなくなりました。みんなが受け入れ態勢でてくれるのがすごくいいな、と。
── 羨ましいです。
稲垣さん:そうですよね。ただ、日本と比べて悪いところは、大気汚染の問題ですね。
タイは乾季があるんですが、その時期にPM2.5がひどくて。私が移住した3月はそのピークの時期で、マスクなしでは外に出られなかったです。
排気ガスも深刻で、日本みたいにいい車ばかりではなく、古いガソリンで走っているような車もあるんです。毎日気温も40度近くて暑いんですけど、道路沿いを歩くときはマスクをしないといけなくて。ベビーカーだと子どもの目線に排気ガスが来るような高さだったりするから、お出かけする時間も選んだりして気をつけています。
── 日中のお昼のお出かけは避けるような感じでしょうか?
稲垣さん:大気汚染を計測するアプリがあるんですけど、それを見て数値が高かったら「今日は家で遊ぼうね」とか。幼稚園も大気の状態を測定器で測って、外で遊んでいい時間を決めてくれてるみたいです。そのアプリで見たら日本はもうめちゃくちゃ綺麗な状態なので「日本ってすごい空気良かったんやな」って思いました。
── そのほか、生活のことで何か困っていることはありますか?
稲垣さん:食事はお寿司とか生もの大好きなんですけど、暑い国なのでなかなか手を出す勇気が出ないですね。日本のお寿司チェーン店もあるので、そういうところは安心なんですが、屋台で生ものを売っていたりするんですね。
── 屋台で生もの!熱帯ですよね…?
稲垣さん:そうなんです。ええー!?と思って。タイの人は普通に買って食べてはるんですけど、タイに住んでいる日本人に聞いたら「今の季節はやめたほうがいいよ」とアドバイスを受けて。実際、私と主人も、屋台のもので何回かお腹を下したりしたこともあって…。
── 大変ですね…。
稲垣さん:美味しいんですけど、まだ息子には食べさせられないですね。
── 日本人の方から話を聞く、ということですが、ママ友づきあいもあるんですか?
稲垣さん:幼稚園がまだ始まったばかりなので、ママ友は全然できてないんですけど、先輩の「アジア住みます芸人」の方や吉本の社員さんでタイが長い人にスーパーについてきてもらって、どういう買い方がお得だとか「これいいよ」「これは買わないほうがいいよ」と細かく教えてもらったり。
あとは、SNSでタイに住んでいる日本人の方がたくさんコメントをくれるので、知りたい情報を投げかけたらすぐに返答もらえて、助けてもらってます。
偏食の息子の好物「納豆が1パック400円で…」
── 育児の悩みはありますか?
稲垣さん:子どもが野菜を食べてくれないっていうのが、一番の悩みです。並んでいる野菜も、日本と全然違っていたりもするので…。
前はけっこう食べてくれていたんですよ。離乳食から食欲はあるほうだったので、卵焼きの中に入れたら緑の野菜でも食べてくれていたんですけど、最近は本当に緑の野菜をもう全然食べてくれなくて。欠片でも、手でつまんで他のお皿に移すような感じです。
先日も野菜ジュースにすれば飲んでくれるようになったので、ジューサーを買って、それで野菜ジュースを作って、「これ飲んだらラムネあげるから」みたいな(笑)。
タイでは、セロリも日本のものと形が違ったりとか、リンゴもいろんな種類があったり。
当たり前なんですが、スーパーの表記も、タイ語と英語なので理解も難しいですし「ドラゴンフルーツは果たしてどんな影響があるんだろう」とかイチから調べないとわかんないので、大人が食べる野菜を取るのもけっこう必死なんですが…。それ以上に、食べてくれない子に慣れない野菜をどう摂取させるかに悩んでいますね。
── 大変ですね…。調味料で味つけしようにも、日本のものは高そうですし。
稲垣さん:そうですね。ドン・キホーテがあるのでそこでだいたい揃うんですが、日本のものはめちゃくちゃ高いですね。息子唯一栄養が取れるのが納豆で、毎日のように「とりあえず納豆食べとき」みたいな感じで食べさせているんです。
ただ、納豆も1パック400円ぐらいなんですよ…。
── 高い…!
稲垣さん:そうなんです。安く手に入るところはどこなのか、タイの人に聞いたりしてやっています。
── 子ども用のグッズとかも、探すのが大変そうですね。
稲垣さん:幼稚園が4月から始まったんですけど、グッズ探しだけは苦労しました。
暑い国なのでずっとプールがあるんですけど、ゴム付きのタオルがどこに売っているのかわからなくて。InstagramとかYouTubeのコメントで「売ってるところ、知りませんか」って皆さんに聞いて教えてもらったりとかしてます。
PROFILE 桜 稲垣早希さん
1983年生まれ。『新世紀エヴァンゲリオン』惣流・アスカ・ラングレーのモノマネをベースにした「エヴァ漫才」でブレイク。2023年2月に家族3人でタイに移住し、現地での生活をYouTubeなどで伝えている。
取材・文/市岡ひかり 写真提供/桜 稲垣早希