「ジャマだな」と舌打ちをされたり、蹴られたり。障がいや病気の子どもが使う子ども用車いすは、周囲から誤解されることも多いようです。当事者の女性に話を聞きました(全3回中の1回)。

 

そっくり!ベビーカーと見分けがつかない「子ども用車いす」

知らない人から「ベビーカー」と間違われトラブルに

── 本田さんはまだ知名度の低い「子ども用車いす」の啓発活動をされています。「子ども用車いす」はどんなものか教えてください。

 

本田さん:子ども用車いす(福祉バギー、バギー型車いす)は、障がいや病気などのため、ひとりでは移動できない子どもが使用する車いすのことです。体幹が弱く、自力で座れない子どもでも乗れるように、背もたれが倒れ、ベッドのようにフラットな状態になるものもあります。

 

子どもが自分で操作するのは難しいため、介助者が押して動かすのが前提で、メーカーによって重さはさまざま。とはいえ、車いす自体が軽量でも、子どもの障がいによっては呼吸器などの医療器具を積むため、非常に重い場合が多いんです。

 

見た目はベビーカーそっくりです。わざと似せているわけではなく、子どもの状態や必要な機能をつけた結果、同じような外見になったようです。残念ながら見た目が似ていることや、子ども用車いすを知らない人が多いために誤解を受けるなど、トラブルの原因になりがちです。

 

「萌々花が生まれなかったら、日常生活に不便を感じる人がいることに気づきませんでした」と、本田さん

── 本田さんの娘さんも子ども用車いすを利用されているそうですね。たとえばどんなトラブルを経験されましたか?

 

本田さん:2012年に生まれた長女・萌々花(ももか)は、国が指定する難病のひとつ「ウエスト症候群」と生後6か月で診断され、肢体不自由・精神発達遅延があります。そのため、ずっと子ども用車いすを使用しています。

 

いちばん大変だったのは、娘が3歳くらいのときです。一般的にはひとりで歩ける年齢ですが、娘は歩けないので車いすに乗っています。すると、「こんなに大きい子をベビーカーに乗せるなんて、甘やかしすぎよ」と知らない人にお説教を受けたことがありました。

 

また、定期的に大きな病院に通院するのですが、電車で行く必要があり、しかも診察内容によっては時間が朝早いことも。ちょうどラッシュ時間に重なって「邪魔だな、混んでいるときにベビーカーで電車に乗るなよ」と言わんばかりに舌打ちされ、車いすを蹴られたこともあります。

 

── 通院は必要不可欠な外出なのに、こうした対応をされるのはとてもつらいですね。

 

本田さん:子どもが2~3歳のころは、親も精神的に苦しいんです。まず、わが子に障がいがあると受け入れるには時間がかかります。また、子どもの病状も悪い場合が多く、たくさんの病院や施設に通って神経をすり減らす毎日です。

 

こうしたなかで、子ども用車いすで外出すると、周囲から冷たい態度をとられ、心が折れることも…。娘と同じ病気を抱える子どものお母さんたちと病院で顔を合わせると、「また嫌なことを言われた」と泣いている人も少なくありませんでした。

5か月の娘が突然発作「ウエスト症候群」と宣告されて

── 娘さんの病気が発覚した経緯を教えてください。

 

本田さん:娘は生まれてから、順調に育っていました。ところが、生後5か月の終わりくらいのある朝、授乳するために顔を見たら、白目をむいて意識を失って泡を吹いていました。しかも、全身けいれんを起こしていて…。驚いて救急車を呼ぶと総合病院に搬送され、即入院に。そこで脳波の検査などもしたのですが、はっきりした原因がわかりませんでした。

 

容体がよくならないので、さらに規模の大きな医療センターに転院しました。その間も娘の具合は悪化し、いろんな発作を起こすように。急に動きがピタッと止まり、顔色も唇もザーッと黒くなり、ふーっと急に息を吹き返すことも。最初の発作から1か月半後くらいに「ウエスト症候群(点頭てんかん)」と「難治性てんかん(焦点発作)」の2種類のてんかんと診断されました。

 

生後5か月で初めて救急搬送された日の様子

ウエスト症候群は、生後3〜11か月ころに発症し、原因がまだわからないことも多い疾患です。発作はモロー反射に似ていて気づかれにくいものの脳へのダメージは深刻で、この疾患にかかると約9割の人になんらかの障がいが残るといわれています。つまり、娘は「おそらく障がい者になるだろう」と告知されたわけです。想像もしなかったことだったので、「まさかうちの子が?」と、ものすごくショックでした。

障がいがあっても暮らしやすい社会にしたい

── とてもつらい状況でしたね。現実を受け止めるのも大変な状況のなか、子ども用車いすの周知活動に取り組もうと思ったのはなぜでしょうか。

 

本田さん:子どものためになることをしたかったからです。もともと私は、キャラ弁やかわいい洋服を手作りするなど、家庭的なことはあまり自信がないタイプ。でも、ずっと仕事をして新規事業の立ち上げなどにも関わってきたので、その経験を生かし、わが子が暮らしやすくなるための活動をしたいと考えました。

 

娘と外出して思ったのは、子ども用車いすにまつわるトラブルの多くは、その存在が周知されていないから起こるのでは?ということです。たとえば、大人の車いすユーザーの場合、電車に乗る際はタラップを出してもらえ、商業施設などのエスカレーターでも専用のスロープを使用できます。

 

でも、子ども用車いすはベビーカーと間違えられ、「お母さんが抱っこしてください」と言われてしまいます。障がいや病気で動けない子どもは、腰や首が座っていない場合も多いです。重い子ども用車いすをたたみ、片手で抱えながら、不安定な身体の子どもを抱っこするのは至難のわざ。公共交通機関や施設側も子ども用車いすの存在を知らないため、結果的に介助が必要な人を排除することになり、おたがいデメリットしかありませんでした。

 

天神橋筋商店街に貼られた子ども用車いすの啓発ポスター

── たしかに子ども用車いすの存在が知られていないから起こる、すれ違いですね。

 

本田さん:でも、こうしたすれ違いは状況を説明し、理解してもらえば解決するはずです。私自身、娘が障がいを抱えたことで、こんなに不便でつらい思いをしている人がいるんだとはじめて知りました。少しでも多くの人に子ども用車いすの存在を知ってもらうため、2015年「一般社団法人mina family」を立ち上げました。

 

最近になってようやく、子ども用車いすの存在は認知され始めてきたように思います。でも、車いすを利用する子どもたちやそのお母さんが不便を感じず、日常生活を送れているかというと、まだその域にまで達していない気がします。少しずつでも、障がいや病気を抱える子どもたちが暮らしやすい社会にしていくのが私の目標です。

 

PROFILE 本田香織さん

2012年生まれの長女が生後6か月で難病の「ウエスト症候群」と診断される。肢体不自由・精神発達遅延のある娘のため、2015年「一般社団法人 mina family」を立ち上げ、子ども用車いすを多くの人に知ってもらうための活動、病気や障がいをもつ子どもとその家族へのサポート活動を行っている。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/本田香織