DXやロボティクスの進化が人の仕事を奪うのでは、という話題があります。その逆で、「ロボットと働く人の幸せな関係」を実現する現場がありました。舞台はファミレスです。

 

貴重なネコ型配膳ロボットのツーショット

インストラクターが現場とロボットをつなぐ役目

── 「ガスト」「しゃぶ葉」「バーミヤン」などを展開するすかいらーくグループのファミレスチェーンでは、可愛らしいネコ型の配膳ロボットが3000台も活躍中。ロボット専任インストラクターと呼ばれる人がいるそうですが、どういった役割を担うのでしょうか?ロボット導入責任者の花元浩昭さんに伺います。

 

花元さん:ロボットと現場の橋渡しを担うのが専任インストラクターの役割です。当社グループの業態や店舗にあわせた配膳ロボットの導入を実現すべく、従業員に対してさまざまな指導を行います。

 

たとえば、ロボットが有効に稼働するよう、テーブルなどの配置変えや動線を決めるなど環境整備を徹底する。ロボットの性能についてのレクチャーや使い方、操作トレーニングなども任務のひとつです。私はそのインストラクターを教育する立場になります。

 

── 現場のロボット活用をスムーズに進めるには、インストラクターの存在が欠かせないわけですね。とはいえ、機械なので操作が難しそうですが…。

 

花元さん:いたって簡単ですよ。配膳ロボットの本体は縦に長く、上部のパネルに猫の顔がデジタルで表示されます。本体の裏側にある食器を載せるスペースに注文を受けた料理を置き、テーブル番号をタッチするだけで操作は完了します。あとはロボットが自動的にお客様のテーブルに行き、到着したら「料理をお取りください」というAI音声アナウンスが流れる仕組みです。

 

最初は「自分がやったほうが早い」と懐疑的な声も

── なるほど、簡単ですね。ただそれは、ロボットが現場で受け入れられた場合のこと。ロボットに抵抗を感じる人はいませんでしたか?

 

花元さん:じつは私自身、ロボット活用は未知の世界でした。従業員にしてもロボットと協働する経験はないわけです。そのため、導入当初は少数ながら懐疑的な意見もありました。

 

── どんな声ですか?

 

花元さん:いちばん多かったのは、「ロボットに配膳を任せるよりも自分がやったほうが早い」という意見です。これは事実であり、わかったうえでロボット活用の有効性に気づいてもらわなければなりません。その役割もインスタラクターに課せられています。

 

── 現場をうまく導いていくことが必要なのですね。

 

花元さん:人とロボットの協働により、「配膳の時間をほかの業務に使える」「もっとやりたいサービスができる」ことを伝えるんです。

 

たとえば、ロボットが配膳する間、従業員は食器の片づけにあてたり、レジや接客、常連のお客様とのコミュニケーションなどにあてたりできます。

 

── そういったメリットを実感したら、意識は変わるわけですね。

 

花元さん:時間の経過とともに変わりましたね。結果、お客様をお待たせしなくてすむなど、サービスの品質を向上できます。ロボットは開店から閉店まで、1日13~14時間フル稼働できます。一度に大量の料理を運べるので、とくに女性や高齢スタッフの負担軽減につながります。

 

── ロボットを導入した目的は顧客満足度の向上と、働きやすい職場環境とのこと。まさに目的どおり。

 

花元さん:ガスト、バーミヤン、ジョナサンなど67店舗で行った顧客アンケートでは、ロボット導入に「満足」「大変満足」と回答した割合が9割に上りました。業務改善については、片づけの完了時間−35%、従業員の歩行数−42%、ランチピーク時の回転率+2%という数字も出ました(ガストの場合)。

ロボットきっかけで「顧客との会話が増えました」

── しかも、ネコ型配膳ロボットは声や表情が可愛らしく、お客様にも人気のようですね。

 

花元さん:とくにお子様には大人気です。猫ちゃん(ロボット)に会うために来店されるお子様も少なくありません。ある店舗でロボットがたまたま対応できず、従業員が配膳に行ったことがありました。すると注文を受けた料理を持ったまま、従業員が戻ってきたのです。事情を聞くと、お子様から「猫ロボがいい」と言われたとのことで、ロボットに配膳を任せました(笑)。

 

ロボットは従業員とお客様をつなぐ存在にもなっています。ロボットをきっかけに、従業員はお客様に話しかけやすくなり、会話の機会は増えていますね。お客様のほうでもロボットをきっかけに従業員に声をかけてくださるので、非常に良いコミュニケーションを図れています。

 

── ロボット導入効果は幅広いのですね。

 

花元さん:何より重要なのは現場で有効活用できる体制を整えることでしょう。業種や業態問わず、人とロボットの協働を実現するスキルは今後より求められると思います。

 

── 街中でも少しずつ見られるようになった働くロボットの存在。顧客としてサービスを受けるだけでなく、自分が働く業界でロボットと一緒にサービスを提供する日がくるのはそう遠くないのかもしれません。

 

取材・文/百瀬康司 画像提供/株式会社 すかいらーくホールディングス