大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、子どもの前でだらしない生活態度を見せる夫にモヤモヤする女性の相談にお答えします。
【Q】生活態度がだらしない夫。私の負担は増える一方…
生活習慣全般にだらしがない夫に毎日イライラしています。帰宅したら玄関の靴は揃えないし、靴下はそのへんにポーンと投げっぱなし。着替えたらクローゼットのドアは開けっぱなし。鼻を噛んだティッシュは机の上に置きっぱなし。何度注意しても直りません。
子どもたちもそんな夫の姿を見ているからか、似たような有り様です。結局私がみんなのあと始末をする羽目になり、イライラは募るばかりです。子どもの教育にもよくないので、「親がみずから手本となってほしい」と言っているのですが、まったく響きません。
このままではどんどん夫のことが嫌になります。どうしたらよいでしょうか?
暮らしのパターンを崩して気づかせる
相談者さんは「結局私がみんなのあと始末をする羽目になる」とおっしゃっていますが、これがイライラするんですよね。「私が散らかしたわけでもないのに、なんで私だけ片づけなきゃいけないの?」って思いますよね。これはこうした生活がパターン化していることに原因がありそうです。家族の中で「散らかしてもお母さんが片づけてくれるからいいや」というパターンが固定化されているのでしょう。
ではそのパターンを1回崩してみてはいかがでしょうか。丸まって転がっている旦那さんの靴下を、拾って伸ばして洗濯するのもイライラしますよね。ならば、発想を変えて、丸まったまま干せばいいんです。裏返しに脱いだ服もそのまま洗濯して、裏返しのまま畳んじゃえばいいんです。もっと言えば、転がした靴下は拾わずに「履く靴下がない!」と本人が困るまで放っておくのもアリだと思います。放置された鼻を噛んだティッシュは、旦那さんの食卓の席にどっさり置いてあげたらいいと思います。大人ですから、不便なら行動を変えていくはずです。
「それ以外はやりません」宣言
宣言するのもひとつの方法です。
「さすがに私1人でみんなの片づけするのは疲れちゃったよ。だから自分の片づけは、自分でやってね」と夫に宣言するのです。
たとえば洗濯については「洗濯かごに出されたものは洗濯します。それを干すこともします。でも洗濯物を洗濯かごに入れるという行為は自分でやってください」などと具体的に宣言します。曖昧にすると、ご主人も行動しづらいので、はっきりルールを決めます。子どもたちにも同様の宣言をしていいと思います。
相談者さんのパートナーはきっと甘えているんでしょうね。もしかすると、実家暮らしの間はお母さんがやってくれていたのかもしれません。
だからといって「お父さんみたいな人と結婚しちゃダメだよ」や「お父さんみたいな父親になっちゃダメだよ」と子どもに言うのはNGですよ。子どもにとって親は尊敬できる存在であったほうがよいからです。
伝わらないようなら「伝え方」を工夫する
それから、「『親がみずから手本となってほしい』と言っている」とのことですが、そもそも、何をもって『子どもの手本』というのかが分かっていないのかもしれません。
- 使ったティッシュはゴミ箱に捨てる
- 脱いだ靴下は伸ばしてから洗濯に出す
- 靴は玄関でそろえて脱ぐ
こうしたことは、「大人なら言わなくても分かっているはず」と思われがちですが、実は一つひとつ言わないと伝わらないケースもあります。「自分が片づけないことでパートナーが困っている」ということすら気づいていない可能性もあります。
というのも、ご相談内容からすると、片づけができない、何度言っても伝わらないというのは、ADHD(注意欠陥・多動症)などの発達障害の可能性もあり得るからです。本当にいくら言っても伝わらないようであれば、発達障害の有無にかかわらず、発達障害の療育でも用いる手法でもある、TO DOのチェックリストを作って、見えるところに貼ってみるといいかもしれません。
片づけのハードルを下げるための工夫を
また片づける場所や形態を工夫して片づけのハードルが下げると参加しやすくなりそうです。靴は玄関に置き場所を決めて印をつけておいてもいいかもしれません。洗濯物はリビングに洗濯かご、玄関に靴下を入れるための洗濯かごを置く、 “お父さん専用”と書いたゴミ箱を、よく座る場所の近くに置いておくのもいいですね。パートナーに“完璧”を求めるのが難しいようであれば、お互いが歩み寄れる方法を考え、家庭に合ったスタイルを見つけてみてください。
そして、ご主人の行動を観察してみてください。もしかしたら、100回中1回くらいは鼻を噛んだティッシュをゴミ箱に捨てているかもしれません(笑)。 もし望ましい行動を1回でもやっているところを目撃したら、「ありがとう」「ゴミ箱に捨ててくれたんだね」「くつ下片づけたんだね」などとさらっと言葉にしてみてください。きっと「次もやってみようかな」という気持ちにつながりやすくなりますよ。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!