学校生活のあらゆるルールを子どもたちが決める学校があります。先生と子どもが平等な1票を持つ「全校ミーティング」では、どんな意見が飛び交うのでしょうか?

 

熱気がすごい!全生徒と先生が集まる全校ミーティングの様子

「学校にスマホ」ルールを破ったらどうするか

「今日は取材の人が来ておられますが、ミーティングを見てもらってもいいと思う人は手を挙げてください」

 

小・中学生と教員、約200名が集まる「全校ミーティング」が始まると、議長を務める子どもがそう言いました。全員の挙手を確認した議長は「取材されてもいいということで、ミーティングを進めます」と進行します。

 

和歌山県橋本市、自然が豊かな山の中にある「きのくに子どもの村学園」。この学園の特徴は、あらゆるルールをみなで決めること。週1回の全校ミーティングでは、大人と子どもが平等な1票を持ちます。

 

「学校でスマホゲームをやってしまった」。この日は、ある中学生がそんな議題を提出しました。この学校には「ゲームを学校に持ってきたら大人に預ける」「ルールを破ると2か月スマホの持ちこみ禁止」というルールがあります。これも大人と子どもが話し合って決めたこと。

 

時間割には基本教科の授業がない!

「どうしてこの議題をみずから出そうと思ったの?」「11〜2月、隠れてゲームをやってしまった。ずっと罪悪感があって議題に出した」「彼が学校でゲームをしているのを見たことがある人はいる?」「見た人たちは声かけたことある?」

 

子どもや大人が挙手をして次々に発言し、なぜこのようなことが起こったか、今後どうしていくべきかを1時間以上かけて話し合います。大人が一方的に話し合いを進める様子はなく、ゆるやかに軌道修正する程度です。

「校則は多数決で決めない」全員が納得するまで話し合い

話し合いも終盤、「今回も、スマホの持ちこみを2か月禁止するということでいいですか?」と議長が投げかけます。

 

すると大人が「彼は、こんなかっこう悪いことを自分で議題に出したんだよね。偉いなあと思ったよ。うれしかった。今後どうすべきかわかっているはずだから、禁止期間をなしにするか、短縮してもいいと思う」と、新たな道筋を提示します。

 

それに対し、「罪悪感を持ってる彼にとっては、ちょっとくらい禁止期間があったほうが、気が楽になるんじゃない?本人の話が聞きたい」という意見も。当事者の生徒は「禁止期間があれば気が楽かも。持ってくる気になれない」と言います。この意見を踏まえて、議長により多数決がとられます。

 

「スマホ持ち込み禁止期間がなくてもいいと思う人は手を挙げてください。挙手している人は5人。では、禁止期間を設けたほうがいいと思う人は手を挙げてください。約190人ですね」

 

何かを決めるときは挙手で1票を投じますが、多数決ではありません。少数派からさらに意見を聞き、全員が納得するまで話し合います。最終的に、スマホ所持禁止期間は2か月ではなく、1週間になりました。

 

ミーティング中、「なんでルールを破ったの?」と、責めるような言葉は飛び交いませんでした。この学園ではふだんから、大人が「私も子どものころね…」と自分の失敗談を話します。日々、大人の失敗談を聞いている子どもたちは、自分の失敗を気軽に口に出せるようになっていくそう。学園全体に「失敗してしまったなら今後どうしていくべきか考えればいい」という考えが根づいています。

 

そして驚くべきは、中学生の議題に対して、小学校低学年の子どもまでが次々と意見を出すことでした。「低学年の子どもも物おじせず発言しますね」とある教員に尋ねると、こう答えてくれました。

 

「一人ひとりが大切にされているからだと思います。みんなが話を聞いてくれる、自分の意見に手を挙げてくれることで、認められた気持ちになるでしょう。責められたりバカにされたりすることはありません。たとえされても、『それは違うと思う』と別の子から声があがる場所なんですよね」

 

話し合う議題はミーティングボックスに入れて、誰もが提案可能。取り上げられるテーマは「ウクライナへの寄付」などの社会問題から学校生活のルール、「誰々が嫌なことを言ってくる」といった人間関係など、多岐にわたります。議題によっては、数週間かけて話し合うこともあるそうです。

転入生がもらしたひと言に「胸が詰まりました」

この学園では全校ミーティングのほかにも、子どもが「自己決定」をする機会があふれています。自分が所属するクラス選びから始まり、プロジェクト(体験学習)の学習計画、修学旅行の行き先、学校行事の立案まで。

 

自己決定権を与えられた子どもたちは、どうすれば毎日を楽しく過ごせるかを自分の頭で考え、日々行動するようになります。学園の創設者であり、学園長の堀真一郎さんはこう話します。

 

創設者であり学園長の堀真一郎さん

「5年生で転入してきた子が、『堀さん、私ね、この学校にいると、自分が自分でいられるの』と、ポロッと私に言ったことがありました。前の学校では自分の意思とは違う“自分”を演じなくてはいけなかったその子を想像して、胸が詰まりました。

 

私たちが想像するより、子どもは自分で考えて決断する力を持っています。たとえ失敗しそうでも大人は必要以上に口を出さず、子どもが自己決定できる環境を用意してあげることが大切です」

 

小・中学校時代に自己決定を繰り返す経験を積んだ子どもたちは、どのように成長していくのでしょうか。

 

「卒業生は本当にさまざま。小学校のときずっとタンポポの研究をしていた子は、環境系の大学を卒業して、なぜか花火を作る会社を立ち上げていた。中学時代から国境なき医師団やパレスチナ問題に興味を持っていた子は、アメリカの大学に進学して、イスラエルとパレスチナへも行き、さらにニューヨークの大学院に入りました。小中学生のうちに自分の興味関心があるものを見つけている子も多いです」

 

堀さんは、自校の子どもたちについてこう続けます。

 

「卒業していくときすごく自信に満ちた顔になっています。入学時は自分の意見を表に出すのが苦手な子でも、仲間たちと教え合って、苦労や失敗をしながら何かを成し遂げて、自信をつけていくんです。その姿を見るのがうれしいね」

 

取材・文・撮影/白石果林 画像提供/きのくに子どもの村学園