ノートを製造する大栗紙工株式会社が公式Twitterで配信したライフハックに大きな反響が。梅雨を迎える前に、同社Twitterの担当者にお話を聞きました。

ノートを「冷凍」!?「知らなかった!」の声が多数

── Twitterに投稿した「濡れてしまったノートを復活させる方法」が話題になりました。梅雨の時期に備えて、ぜひその方法を教えてください。
 

担当者:まず、タオルなどで表面の水分をしっかり取ります。また、濡れた紙は破損しやすいので、ページはめくらないようにしてください。

 

ノートに泥水などの汚れがついている場合は、水の中で振り洗いをして汚れを落としておきます。汚れがついていると、乾いた後にカビや微生物がつきやすいんです。

 

コーヒーやしょうゆの汚れは、漂白剤を薄めた水で洗うときれいに落とせますよ。

 

次に、ノートをジップロックなど冷凍してもくっつかない厚手のフリーザーバッグに入れて、必ず口を開けたまま立てた状態で冷凍します。

 

密閉袋は口を開けた状態でノートを立てて冷凍庫へ入れる
密閉袋は口を開けた状態でノートを立てて冷凍室へ入れる
凍らせた後にプレスして自然乾燥させたノート
凍らせた後にプレスして自然乾燥させたノート

24時間後にノートを取り出したら軽く振って霜を取り、ペーパータオルで挟んで雑誌でプレスします。残った水分を雑誌に吸収させるのが目的です。雑誌が薄いときは、上に図鑑など重いものを置いてください。1~2日たって、乾いたら完成です。ノートは元の状態に復活します。

 

── 冷凍すると復活するのはなぜですか。

 

担当者:工業製品の紙って、パルプの繊維を平らに並べてギューッとプレスして作られているんです。つまり、繊維と繊維が整然と並んで手をつないでいる状態です。

 

ところが、パルプの繊維(セルロース)は水が大好きなので、水に濡れると繊維同士の手を放して、水と手を結んでしまうんです。この状態で急激に乾かすと、バラバラの並びのまま固まってしまいます。ドライヤーで乾かすと、紙が波打ってしまうのはこのためです。

 

「濡れた紙がシワになる理由(1/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(1/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(2/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(2/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(3/6P)」水に濡れた状態
「濡れた紙がシワになる理由(3/6P)」水に濡れた状態
「濡れた紙がシワになる理由(4/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(4/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(5/6P)」水がなくなった状態
「濡れた紙がシワになる理由(5/6P)」水がなくなった状態
「濡れた紙がシワになる理由(6/6P)」
「濡れた紙がシワになる理由(6/6P)」

── なるほど!わかりやすいです。

 

担当者:ドライヤーで乾かすと紙が波打ってしまうもうひとつの原因が、熱風の当たる場所によって乾き方に大きな差ができてしまうことなんです。冷凍すると、ゆっくりと均一に乾燥させることができます。

 

冷凍室内は、とても湿度が低い環境です。水分を含んだ紙も乾きますし(蒸発)、紙に含まれた水分が凍ったあとも乾燥は続きます(昇華)。

 

氷(固体)が水蒸気(気体)になって抜けていくのはイメージしづらいかもしれませんが、冷凍室に入れっぱなしの氷が小さくなったり、お肉がパサパサになるのと同じですね。

 

とはいえ、実は、冷凍室から出した時点では、まだ完全に乾いていません。いわば繊維がみんな、まだ水を抱えてぼやっとしている状態です。ここで図鑑など重い物で挟んで圧をかけることで、繊維が整然と並び直してくれるんです。

 

完全に水が抜けたら、繊維同士は隣の子とまた手をつなぎます。

 

──ドライヤーでいったん乾かしたものは同じように冷凍すれば復活するのでしょうか?

 

担当者:もう一度濡らして冷凍する方法を行えば、初めから冷凍した場合には劣りますが、復活はできます。再度濡らして冷凍する場合は、普通の水を使います。波打ちがひどい箇所は、キッチンなどで使う除菌用の高濃度アルコールスプレーで湿らせてから、アイロンをかけるという方法もあります。ドライヤーで硬くなったページは破損しやすいので注意してくださいね。

 

──「冷凍してもくっつかない厚手のフリーザーバッグ」に入れる理由はありますか?

 

担当者:素材がしっかりしているのでノートが立てやすいですし、袋とノートの間に空間ができやすく、凍っても表紙と袋がくっつきません。また、食品などからのニオイや汚れが移ることも防げますし、立てた状態で冷凍室の壁にくっつくことを防ぐこともできます。また、口を開けた状態にすることで湿度の低い冷凍室内にノートの水分が出ていきます。実験でもうまくいったので、このやり方を紹介しました。

 

── この方法は、ノート業界では常識なのでしょうか。

 

担当者:図書館や考古学の分野では、よく知られている方法です。傷んだ本や災害資料を復旧させるときにも使われます。私は学生時代に図書館司書課程を取ったときに知りました。それを思い出して、今回、ノートで実験してみたらうまくいきました。

 

ちょうど日本全国で大雨が降った4月の金曜日に、「ランドセルに入れていたおろしたてのノートを濡らしてしまうお子さんがいるんじゃないかな」と思って配信したら、意外にも「知らなかった!」という声が多くて驚きました。

 

── 教科書や絵本でも、同じ方法が使えるでしょうか。

 

担当者:ノート以外は専門外ですし、紙の素材にもよるので、あくまで自己責任でということになりますが、教科書のなかのページは、ノートと同じ方法でうまくいく場合が多いです。実際に大学生の方に「7000円の教科書が復活しました!」と喜んでいただきました。

 

ただ、表紙やツルツルしたページは濡れると紙同士がくっついて乾いても剥がせないので、乾かすときに間にコピー紙などを挟んで乾かしてみてください。

 

紙を重ねて製本してあるタイプの絵本は、凍らせるとパイ生地みたいに膨らんでしまいます。冷凍室には入れず、コピー紙を挟んで圧をかけて乾かすのがいいと思います。

 

── ノートに書いてある文字はどうなるのですか。

 

担当者:蛍光ペンは水で流れてしまうことがありますね。フリクションの場合は、冷凍すると消したはずの字が復活してしまうことがあるので要注意です。

 

凍らすことでフリクションの文字が復活してしまう!
凍らすことでフリクションの文字が復活してしまう!

意外に強いのがえんぴつです。濡らしても凍らせても圧をかけても大丈夫。さすがは年季の入った「紙のベストパートナー」ですよね。

 

PROFILE 大栗紙工株式会社

1930年の創業以来、90年にわたり年間2000万冊を超えるノートを製造している。発達障害当事者の声から生まれた、同社オリジナルの「mahora(まほら)ノート」は「目にやさしい」と好評。Twitter(@OGUNO_notebook)では、ノートにまつわるツイートを配信。

取材・文/林優子 画像提供/大栗紙工株式会社