日々使っていて心地がいいものを暮らしに取り入れているミニマリストのおふみさん。長いあいだ料理が億劫だったそうですが、調理器具を使いやすいものにアップデートしたことで食卓に革命が起きました。

調理器具のアップデートで「不快を手放す」

長年、料理が億劫でした。以前、会社員と執筆業という二足のわらじを履いていたころはとりわけ時間がなく、やめられる家事はどんどん手放していきました。いちばんに手放したのが料理でした。

 

とはいえ、料理だけがたったひとつの趣味だった時代もあるのです。

 

実家を離れてものすごく田舎でひとり暮らししていたころ。書店もベーカリーも果てしなく遠く、娯楽といえばスーパーとコンビニだけという街に住んでいたことがありました。

 

漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ・著)に載っているレシピを順番につくることだけが日々の楽しみ、という期間を何か月も過ごしたことも。

 

その後、残業が増えるにつれ、その趣味は実行不可能になり、気づけば料理はあと回しにする生活が何年も続いていました。

 

しかしウーバー、レトルト、総菜をくり返していると食べること自体が面倒になってきてしまいました。

 

生命維持上、食欲がなくなるのは危険。またかつてのように料理が楽しいと感じられるようになりたいなあと願ってきました。

 

そんな折、ふと調理器具の不快を手放してアップデートしてみようかと思い立ちました。

フライ返しを買い替えてみたら…

以前は頻繁に作っていただし巻き卵をさっぱり作らなくなっていたのですが、なぜなのか考えてみると、フライ返しを買い替えたことが原因でした。

 

実家から持ってきたプラスチックのフライ返しの先がひしゃげてきたので、満を持してスタイリッシュなステンレスのフライ返しに買い替えたのです。

 

見た目は大変スマート、しかし使い勝手が非常に悪かったのです。

 

値段も断然、後者のほうが高かったのですが、しなりがたりないのか、このフライ返しだと十中八九、だし巻き卵が破れてしまうのです。

 

そのうち面倒になって作ることがなくなってしまいました。毎日のお弁当に入れるくらい好物だったのに…。

 

実家から持ってきたあのフライ返しのような使い勝手のものに再び買い替えられたら、まただし巻き卵を作る日々が帰ってくるのではと思いました。

 

そして、近所のスーパーでなんてことない安いフライ返しを買いました。もちろんプラスチック製。

 

これで薄く伸ばした卵液を巻いていったところ…破れることなくきれいなだし巻き卵が完成しました。

 

「やっと出会えたね…」とフライ返しに語りかけてしまうほど納得の仕上がりでした。

 

それからは劇的にだし巻き卵をつくる頻度が上がりました。道具が変わると食卓に並ぶものが変わるのだ、と実感しました。フライ返しさまさまです。

愛おしい鍋で料理のやる気が復活

道具によって料理意欲が変わる体験としてもうひとつ、鍋を愛しすぎて料理のやる気が復活するという体験をしました。

 

10年以上使っていたステンレス鍋があったのですが、底面の焦げつきやすさが気になっていました。

 

たとえば、カレーのために具材を炒めてからそのまま煮込もうとするものの、炒めるターンで必ず焦げついてしまうのです。

 

そこで、焦げつきにくいものを調べてステンレス5層鍋を購入しました。ビタクラフトのコロラドシリーズの20cm両手鍋です。

 

全面多層鍋なので焦げつきにくく、驚くほど保温性が抜群です。

 

たとえば、ゆで時間5分のパスタは普通は沸騰したお湯で指定の時間ゆでる必要がありますが、この鍋なら沸騰したお湯にパスタを入れて再び沸騰したらふたをして火を止め、5分間放置するだけで予熱でゆで上がってしまうのです。

 

これには感激しました。ガス代が高騰する昨今、これだけでもかなり節約になりますよね。

 

そして、鏡面仕上げの鍋の造形が愛おしくて、「もっとこの鍋を使いたい!」という気持ちになるのです。

 

この鍋を愛しすぎて料理の頻度が上がりました。以前は面倒で家では一切揚げ物をしなかったのですが、保温力が高く少量の油でも揚げ物ができる鍋のおかげで、今では週一で揚げ物をするようになりました。

 

からあげ、とり天、ポテトフライ、長イモフライなどなどを気分に合わせて作っています。

 

揚げ物なんて自宅でするものじゃないとまで思うほどだったのに、嘘のように心理的ハードルが下がりました。

 

スーパーの総菜を買って帰るのもいいですが、揚げたて熱々の揚げ物を食べられると気分が上がります。

 

食べること自体が億劫になっていたのが、今では揚げ物のことを考えるとワクワクして、食べることにも興味が出てきました。

 

これは自分の中で大革命です。

 

たかが道具、されど道具。自分に合った道具に出会えると、暮らしが豊かになるのだとしみじみ実感しました。

 

文・イラスト/おふみ 構成/阿部祐子