M-1王者の笑い飯・哲夫さんは、2014年から低料金で通える小中高生向けの補習塾を始めました。自身は関西の名門大出身。「学び」って何なのか、哲夫さんの語りに耳を傾けます。

 

いまも面影が!哲夫さんの小学校時代

小学4年生の子から贈られた作文に泣けた

── 2014年から格安補習塾を経営していますが、いまでもたまに哲夫さんご自身が塾に顔を出すことがあるそうですね。

 

哲夫さん:時間ができたらなるべく塾に行って、子どもたちと話をしてます。いろんな子がいておもろいなぁと思いますし、ほんまに嬉しいこと言ってくれる子もいてね…。

 

去年、小学4年生の女の子が、僕に作文をくれたんですよ。宿題でもなく、頼んだわけでもないのに自発的に。『笑いの処方箋』という題名で、「コロナ禍、医療従事者の努力に感謝しています。友だちと会えなくなって笑うことが減りましたが、テレビに出て笑わせてくれる芸人さんは私たちに笑いの処方箋を出してくれています。ありがとう」という内容でした。

 

── うわぁ、心に響きますね。でも、なかには対応が難しいお子さんもいるのではないかと…。

 

哲夫さん:いろいろですね、先生につねにケンカをしかける女の子とか(笑)。学校で暴れていたらしい男の子もいたので、「ちょっと外出て話しよっか」って公園に連れ出したこともあります。「どないしてん?他に発散するとこ、ないんか?悩みでもあるんか?」って男同士の話をしました。でも、小さな“やんちゃ”はしても、大きくグレたり手がつけられないってことはありません。

塾を子どもがワクワクできる居場所にしたい

── 哲夫さんたちは“先生”を超えて、お兄さんみたいです。

 

哲夫さん:そういうところは意識してます。家と学校だけだと、親子ともに煮詰まることもある。第3の居場所になって、家庭以外で人間関係やしつけ含めた子育てを地域で手伝えれば。

 

── 通っているのはどんなお子さんたちですか?

 

哲夫さん:近所の子を中心に、いまは小1から中3まで40人くらいいます。受験用の塾とかけもちしてる子もいたり、いろいろです。

 

── 塾での子どもたちの様子は?

 

哲夫さん:小学生は19時まで、中学生は21時半まで、多い子は週3回来てます。ちょっとした夜遊び感覚というか、夜に、家ではなくて外で集まるなんてワクワクという楽しみもあるようです。

 

芸人が先生。面白いたとえやトークで子どもたちを飽きさせない

それぞれが教科書やドリルを持ち寄って、芸人の先生にわからないところを教えてもらう形式なので、子どもたちもよくしゃべります。クイズ形式で問題出すと、「はいはいっ!…あ、わかりません」と、挙手しておきながら答え浮かばないやつが必ずおるんですけど(笑)、競争だと燃えますし、忍耐力や集中力も養えます。で、芸人ならではのおもしろいたとえで説明する。休み時間は、クイズ出したりしてワイワイやってます。

 

── 経営されている「寺子屋こやや」は、哲夫さんの理想を実現してますか?

 

哲夫さん:理想に近いです。僕が小学校のとき、近所のおばあちゃんが月謝3000円で教えてくれる塾に通っていて、すごくよかったんです。「寺子屋こやや」の月謝も5000円~1万5000円と格安で、誰もが気軽に通える塾としてやっています。

 

いまでは卒業した子が大学生になって、戻ってきて塾でバイトしてくれたりして嬉しいです。看護学校に通ってる子もいます。

「賢い子やなぁ」祖母のひと言が学びの原点に 

── 卒業生が戻ってきてくれるのは嬉しいですね。通っている子どもを見て、気づいたことは?

 

哲夫さん:子ども自身がおもしろいと思えたら強いですね。熱中して、ばーーーっとのめりこむし、勉強も塾も好きになる。そのためには、好奇心を刺激する教え方や、ちゃんとほめるのは大事。

 

思い起こせば、僕も熱中した経験からたくさん学びました。おばあちゃんが中古でもらってきてくれたブロックには説明書がついてなかったので、想像で作りまくりました。それを「かしこい子やなぁ」と、おばあちゃんがほめてくれるからどんどん作る(笑)。ひとつのことに熱中して極めた経験は、想像力、忍耐や工夫など、その後に活きてるなぁと実感します。

 

奈良県随一の進学校・奈良高校時代の哲夫さん

──「かしこい子やなぁ」はやる気出ますね。哲夫さんは、奈良県随一の進学校・奈良高校から、名門・関西学院大学に進学しました。

 

哲夫さん:奈良高校に受かったときは、母の職場に電話かけて報告するくらい嬉しかったです。高校のときは夏期講習だけ塾に行って、浪人時代は予備校に行きました。ほんまは京都大学目指して一浪してたんですけど、おかげさまで関西学院大学の仕事もさせてもらいましたし、ずっと関心のあった哲学の勉強もできてよかったです。

 

── 哲夫さんは高学歴ですが、芸人の世界って学歴不問ですよね。逆に学歴があってやりにくいってことはなかったですか?

 

哲夫さん:学歴は邪魔にはならなかったですし、大学関連の仕事をいただいたり、プラス面のほうが大きいですね。僕が芸人になった2000年頃は、京都大学出身のロザン・宇治原さんくらいでしたが、最近は有名大学・国公立大学出身の後輩も増えています。大学で哲学を学んだのが、仏教の本を書く下地になりました。教職課程で勉強をして、現在、教育というやりたいことにつながる経験ができたので、大学を経由して芸人になって、結果良かったです。

 

PROFILE 笑い飯 哲夫さん

2000年に西田幸治さんとお笑いコンビ「笑い飯」結成。2010年にM-1グランプリ優勝。2014年からは小・中学生向けの学習塾「寺子屋こやや」のオーナーも務める。仏教に関する書籍を6冊執筆。『ブッダの一生‐カネも妻も子も手放して仏教をつくったスゴい人‐』(ワニブックス)好評発売中。2020年より相愛大学人文学部客員教授。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/笑い飯 哲夫、吉本興業株式会社、寺子屋こやや