日本初の赤ちゃん向け番組「いないいないばあっ!」でワンワン役を演じるチョーさん。27年間、赤ちゃんとパパ、ママたちと向き合うなかで感じたこととは。
ワンワンは年々存在感を増していった
──「いないいないばあっ!」は日本最初の赤ちゃん向け番組だそうですね。何か苦労されたことはありますか?
チョーさん:僕自身はそんなに苦労したことはないです。最初、ワンワンは番組のにぎやかし的な存在でした。スタート当時は、しっかりした女の子が番組の進行をひっぱってくれて、ワンワンはそのうしろでワイワイ言いながらついて行くみたいな感じでした。歌も、女の子とキャラクターがかわいく歌ってくれるところに合いの手を入れるみたいな。それがだんだんとワンワンも一緒に歌って踊るようになり、いまにいたります。
── 27年間、同じキャラクターを演じるおもしろさはどんなところですか?
チョーさん:感情を自由に出せ、どんどん世界が広がっていくところがおもしろいですね。ワンワンって、キャラクター設定が厳密に決まっているわけではなく、すごく自由です。一応、5歳とはいわれていますが、それも絶対的な設定ではないです。
あるときはパパのようになったり、ママのようにもなります。お兄ちゃんになったり。ときには赤ちゃんっぽいときや、おじいちゃん風なときもあって。だから、よく「長年続けて飽きませんか?」と聞かれますが、まったく飽きないんです。
── 旅人風の「旅がらすワン太郎」、スーパーマン風に変身した「スーパーワン」など、ワンワンから派生したキャラクターもたくさんいますね。
チョーさん:番組を続けていくうちに、「こういうのやりたいね」とアイデアが生まれます。それをスタッフと話しながらキャラクターが広がってきた感じです。たとえば、「スーパーワン」はこういうことできるよね、「旅がらすワン太郎」はこんなこともするかもと、いろんなコーナーができるんです。
ワンワンの手から生まれた「パクパクさんとパクこさん」も僕のアイデアです。赤ちゃんがグズっているときに「ほら、ママのお手てを見て。指で歩いているよ、これがお顔だよ」と手で遊ぶと喜ぶじゃないですか。それが誕生のきっかけです。新しいことをやりたいとインスピレーションが生まれたときは、スタッフに相談します。すると、一緒に考えてくれます。それが楽しいし、すごく幸せだなと思いますね。
最初のころはワンワンから派生するキャラクターもどんどん生み出し、新しいことに積極的に取り組みたいと思っていました。
でも、最近になって、自分の引き出しにないキャラクターを生み出そうとしても、ムリが生じると気づきました。だから、自分らしく自然にしたほうがいいと思うように。ワンワンを演じているのではなく、もはや自分がワンワン化している感じがします。
── 子どもにはわからないだろうと思われる、ワンワンの時事的なコメントが大人に受け、SNSのトレンドに入ることがあります。こうした状況はどう思われますか?
チョーさん:SNSのことはまったくわからないんです。僕、まだガラケーだから(笑)。もちろん、妻や周囲の人はスマホを使っているので「トレンドに入っていたよ」と人づてに聞くことはあります。ワンワンを愛してくださる方がたくさんいるといちばん肌で実感するのは、イベントですね。お子さんだけでなくて、お父さんやお母さんも盛り上がってくれますから。
周囲の目を気にする親に「もっとゆるくていい」と伝えたい
── 27年間、赤ちゃんや親御さんたちを見続けてきて、変わったなと思うことはありますか?
チョーさん:お子さんはまったく変わらないと思います。ただ、親御さんは「ゆるさ」がなくなってきている気がします。それをいちばん感じるのは『ワンワンわんだーらんど』などのステージ公演やイベントで、実際にお客様とお会いするときですね。
公演中に赤ちゃんが泣くと、最近の親御さんはすぐに会場の外に出てあやしに行くんです。そんなに気をつかわなくてもいいのに…と思うんですが、迷惑にならないようにと気にされているんですね。
以前なら会場全体に「お互いさま、赤ちゃんが泣くくらい気にしない」雰囲気がありました。いまはSNSの発達で、周囲からあれこれ言われないように先回りしてマナーなどをすごく気にしているように感じます。もちろん、そのこと自体は悪いことではないかもしれませんが、「もうちょっとのんびりいこうよ」とも思います。だからせめて、イベントに来てくれた方には、ワンワンに会って楽しんでもらいたいです。
── コロナ禍でイベントも開催できず、大変な時期もあったと思います。コロナの前と後で変わったことはありますか?
チョーさん:人と接することができないことに慣れなくて、窮屈でした。イベント自体もなくなった時期もありましたし。でも、コロナ禍の状況に慣れてイベントも少しずつ増えてきたら、「どうしたらこの状況で皆さんに楽しんでいただけるか」と、だんだん思うようになりました。
これまでイベントではお客様に声援を送ってもらったり、一緒に歌ったり、声を出してもらって盛り上げていたんです。でも、コロナ禍以降は手を振るとか、一緒に振り付けを踊るふうに変わってきました。お客様も「声を出さなくても楽しめる」とわかっているようです。コロナ禍だからこその盛り上げ方が生まれたんですね。だから今後も、どういう状況になっても、みんなで楽しめる方法は考えたいですね。
取材・文/齋田多恵 写真提供/NHK