中学受験の受験者数が増加するいっぽうで、「中学受験をやめる」という選択をする家庭も増えているようです。今回は、勉強があまり好きではなく中学受験をやめた娘さんの「今後の学習」について悩む親御さんに、教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生がアドバイスします。

【Q】中学受験を断念。公立中学進学に向けてどんな勉強が必要?

小学4年生の女の子を育てています。中学受験に向けて塾に通わせていたのですが、あまり勉強が得意ではなく、本人もこれ以上受験勉強を続けたくない様子だったので、受験は諦めて公立中学に進学することにしました。

 

今やっている家庭学習は学校の宿題だけです。中学受験をした兄がいるのですが、兄の4年生のときと比べたら娘の勉強量があまりにも少ないと思ってしまいます。

 

公立中学校入学まであと約2年。中学を見据えてもっと勉強させたほうがいいのでは…と思ってしまうのですが、勉強があまり好きではない娘に何をやらせたら良いのか悩んでいます。ぜひアドバイスお願いします。

 

「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(1/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(1/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(2/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(2/7P)※漫画の3P以降は本文の後に掲載しています

中学受験の学習量は異常「学ぶ喜び」を育もう

娘さんの勉強量について、中学受験をしたお兄さんと比較して「少ない」とおっしゃいますが、そもそも中学受験の学習量が異常なのです。そこに、合格に向けて技術的な指導が入るため、幼少期から長期的な視点で学習力を育ててこられた一部の子を除けば、どうしても「やらせる学習」が中心となっています。小学生の時点から過剰な学習量を子どもに押しつける傾向は、日本だけでなく、韓国や中国でも見られるように、東アジア特有の教育観です。欧米などその他地域の教育観からは、理解されにくいものであることを、まずは理解してください。

 

本来、学びとは能動的なもの。みずから学びたいという思いを育んであげることが、成長していくうえでの重要なベースになります。そのため、「何をやらせるか」ではなく、「どのように勉強を好きにさせてあげるか」を最優先にすることが大人の務めです。少なくとも、勉強への抵抗感を抱いてしまう状態には追い込まないようにしましょう。

 

「学ぶことが好き」とは、学ぶ喜びを知っていることだといえます。知らないことを「知る喜び」「わかる喜び」「知識が増えていく喜び」「知識を使う喜び」などが挙げられます。そのほか、クラスの子や下学年の子にわからないことを教えてあげて喜ばれるなど、「知識を使って誰かの役に立つ喜び」も学ぶ喜びに含まれるでしょう。

 

しかし、こうした喜びをすべて味わわせる必要はありません。娘さんが好きなものや得意な分野において「学ぶって楽しいな」と感じられる体験を育てていきましょう。

 

そのためにも、娘さんがどういう学び方や体験の仕方が好きか、つまり「学習タイプ」を理解する必要があります。きょうだいでも学習タイプは異なりますので、娘さんの個性や特性をよく見てあげてください。

 

また、学ぶ喜びを育む場は、家庭、学校、地域社会という3軸があることを忘れないでください。たとえば、学校での学びが楽しくないようであれば、家庭学習を工夫したり、習い事や地域での活動を分厚くしたりすればいいわけです。

 

3つの場所のどこかで学べればよいという視点を持ち、本人が好むであろう分野の学びの機会を持たせてあげてほしいです。そして、本人が手応えを感じるためにも、好きなことに取り組んでいる最中に「楽しそうにやってるね」「集中力が全然違う!すごいね」といった声がけをしてあげてください。

教育が変わった今「家庭に求められているサポート」

こうした環境設定が整ったうえで、教科学習において親御さんがとくに気をつけておいていただきたいのが、英語です。学習指導要領の改訂によって小学校でも英語が教科化されましたが、学校任せにしていると大変なことになります。

 

小学校では英語を楽しむことに主眼が置かれ、英単語を覚えることは重視されませんが、中学校では「小学校で扱った英単語は覚えているもの」として授業が進みます。文部科学省の制度設計に問題があるためこうした破綻が起き、英語嫌いのお子さんが増えているのですが、残念ながらこの状況はすぐには変わらないでしょう。

 

そのため、英語を嫌いにさせないよう努めつつ、英単語の学習を家庭でサポートしてあげましょう。場合によっては、英会話の教室などで補うことも検討したほうがよいかもしれません。

 

算数も「考える力」が重視され、教科書の練習問題が昔より少なくなっています。計算力などに不安があるようならドリルを補ってあげる、考えることが好きなら中学受験用の問題で難問チャレンジを楽しませてあげるといったサポートをしてあげましょう。

 

国語も作文や発表に重きが置かれるようになっています。幸い、作文の「書き方」や、発表をサポートするうえで親御さんに必要な「聞く技術」が書かれた本はたくさんありますので、必要に応じて親御さんがまず学び、お子さんを支えてあげるとよいでしょう。

 

こうしたサポートをするには、親御さんが小学校の教科書を読むことも大切です。昔と違って今は思考力が問われる教育に変わっていることが実感できると思いますし、娘さんに必要な図鑑や辞書、教科書ワークやドリルなどの補助教材も選びやすくなるはずです。

 

このように、親御さんがやったほうがいいことはたくさんありますが、全部やろうと思ったら時間もエネルギーもたりません。お子さんの学習タイプやご家庭の方針に合わせて何を優先したいかを絞り込み、無理せず現実的にやれることに取り組んでください。

 

「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(3/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(3/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(4/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(4/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(5/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(5/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(6/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(6/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(7/7P)
「『勉強が苦手』中学受験を断念した小4の娘に今必要な家庭学習」(7/7P)

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!