10代から80代まで、三世代6人が同居しているわが家。80代義父は世代間の感覚差からたまに「いかがわしい」と、ものすごい勘違いをしてしまうことがあります。
「いかがわしい」内容が家族LINEに
「ねえ、こんなLINEが家族のグループに入ってるんだけど…」ある日の夜、義父が私に、なんとも気まずそうな表情でそっと話しかけてきました。見てみると、そこには仕事に行っている夫から帰宅予定のLINEメッセージが。
「観たかった映画のレイトショーを観てから帰るので遅くなります」とのこと。
これがどうかしましたか?と聞くと、「いや…だってそんな」と煮えきらない返事です。高校生じゃあるまいし、いい歳の大人が仕事終わりに映画を観て遅く帰ることが、何がそんなに気になるのかと私にはさっぱりわかりません。
「夫さんの好きな監督の新作が公開されたので、それ観てくるんじゃないですか」
「だって家族LINEにそんなこと言わなくても」
「帰り遅くなるから心配しないようにですよ」
「だって…子どもたちにも見えるのに…」
(…家族LINEグループだから当たり前だけど?)
お互いにまったく要領を得ないやり取りを繰り返してから、私はようやく義父の勘違いに気づきました。
「お義父さん、もしかしてレイトショーって何か、勘違いしてませんか?」
「レイトショーって、何かその…いかがわしい映画のことじゃないの?」
誤解が解けた私は、思わず爆笑してしまいました。
80代の義父にとってレイトショーとは、いわゆる成人男性向けの映画、その昔、場末の映画館で男性がこっそり観に行ったようなもののイメージだったのです。
現代でそれはないですよ、観たかったらいくらでもスマホで観られますし(これは余計なひと言でした)、単に上映時間が遅くてちょっとお得な値段で見られる普通の映画です、と説明するとようやく誤解が解けた義父は、「そうか、そういうことか、何かおかしいとは思ったんだけど…」と顔を真っ赤にして退散していきました。
孫娘の「不良少女みたいな文書」
そういえば義父は数年前にも、心配そうに私に話しかけてきたことがありました。「娘ちゃんが、なんだか大人向けなものを読んでいたんだけど、何か心当たりある?」と。
私にはまったく心当たりがありません。そもそも大人向けのものってなんですか?と聞くと、「なんだかいかがわしい内容の文章なんだよ…」と深刻そうな様子の義父。
当時小学校高学年だった娘ですが、道に落ちている成人向け雑誌でも拾ってきたのか?いや昭和の時代じゃあるまいし、そんなものこの近くで見かけたこともないしな…。
不思議に思いながらも一応、娘の学習机の周りを軽く見てみると、無造作に置かれた何枚かのコピー用紙が。
内容は確かに「私はとてもセクシー、でも、ボーイフレンドとは長続きしない」うんぬんと書かれています。
その紙を義父に見せて「もしかしてこれですか?」と聞くと、「そうそう!なんだか不良少女みたいなことがいっぱい書いてあるからどうしたのかと思って」と心底心配そうな義父。
その、義父いわく“不良少女文書”の正体はというと、娘が当時習っていたダンスの発表会で使う、ヒットチャートを賑わせた懐かしい洋楽の歌詞と、その和訳でした。
ダンスの先生が「踊るときは曲のイメージをきちんとイメージして表現しなければ」と言ったのを真面目に受け取った娘が、この歌詞の日本語訳の意味を知りたい!と言い出し、私がネットで検索して印刷してあげたものです。そう説明してもなお、「こんな大人っぽい内容の曲で踊るの…?」と義父は不安そうなので、「洋楽の歌詞なんてだいたいこんな感じですよ、もっと際どい内容の曲もたくさんあるし、まだ可愛いほうですよ」と雑な説明でなんとか納得してもらいました。
不良少女疑惑をかけられた娘も苦笑いして、「私そんなに信用ないかな?」とのこと。信用がないわけじゃないと思うけど、ジェネレーションギャップというのがどうしてもあるからね…と説明して事なきを得たのでした。
考えてみれば、最年長の義父と最年少の娘との年齢差は実に70歳以上です。
幅広い年代の感性による思いがけないギャップ、これからも発生し続けるに違いありません。次はどんな面白い事件が起きるのか、ちょっと楽しみな同居嫁なのでした。
文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ