大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、義母に認知症の兆候が出ているけれど、夫の関心がなく受診に踏み出せないと悩む女性の相談にお答えします。

【Q】認知症の兆候がある義母…「受診して」と言いづらい

最近、近くで暮らす義母(83)に認知症ではないかと思われる言動が目立ち始めて、とても心配です。同じことを何回も話したり聞いたりしますし、以前より怒りっぽくなった気もします。夫に心配だと伝えても「そうか?年とったせいだろ」と取り合ってくれません。先日、「たんすに隠していたお金がない」と義母が騒ぎ、私を泥棒扱いしてきて気まずい空気に…。調べるとそれも認知症の症状のひとつでもあるようですが、もともと気が強くて頑固な義母に「病院に行ってください」とは言いづらくて困っています。義妹は海外に住んでおり、義父は亡くなっている状況です。どのように受診を促せばよいでしょうか。

 

頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(1/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(1/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(2/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(2/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(3/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(3/8P)※漫画の4P以降は本文の後に掲載しています

「健康チェックのついで」という流れで

認知症にしても、どんな病気でも早めの受診がすごく大事ですよね。ただ、認知症というと物忘れ外来や脳神経外科、脳神経内科などを受診することになると思うのですが、本人が受診の必要性を自覚していないのに、いきなり連れて行くと抵抗感が強いかもしれません。お母さんは「気が強くて頑固」ということですから、「物忘れ外来」の受診を提案すると、「私はそんなところには行かないよ」となりそうな気もします…。

 

おすすめの方法は「健康診断のついで」という体で連れて行くことです。体の健康チェックのついでに「脳の健康チェックも」という伝え方であれば、抵抗も少なくて済むのではないでしょうか。

 

可能であれば認知症を担当する医師に事前に会うか連絡を取り、事情を伝えておくとよいかもしれません。「物忘れが気になる」「認知症の疑いがある」ということを家族が事前に伝えておいて、医師から「脳の健康チェックもしておきましょうね」と伝えてもらうとお母さんも「はい、わかりました」となるかもしれません。

身近な人のエピソードは理解されやすい

また、身近な人のドキッとする話題を織り交ぜると、理解してもらいやすくなりそうです。たとえば次のような促し方はいかがでしょうか。

 

「ご近所さん、調子が悪いと思ったら脳に病気が見つかったんですって。早めに専門の先生に診てもらったおかげで、進行を遅らせられたって娘さんが言ってたんですよ。念のため、今度お母さんも脳の健康チェックにいきませんか」

 

またはさわやかな自己表現である「私」を主語にしたIメッセージで伝えてもよいでしょう。これはコミュニケーションの技法のひとつで、「私が心配している」という気持ちを伝えることで、自分の思いが相手に伝わりやすくなります。

 

「私はお母さんのことが心配なので、健康チェックに行きませんか」
「私はお母さんには長く元気でいてもらいたいと思っているから、一緒に健康チェックに行きませんか」

 

というニュアンスで伝えます。「私は」を主語にするだけで、やわらかく、かつはっきりと自分の考えや気持ちが伝わりますね。

ひとりで動かず、ご主人や義妹の協力も

でも、相談者さんひとりで動くのは大変だと思います。本当は実の息子であるご主人に真剣に考えてもらいたいところです。つい「なんで自分のお母さんのことなのに、ちゃんと向き合ってくれないの?」などと責めてしまいそうですが、そう言われると人は否定したくなるもの。「気にしすぎだって」とまた言い返されそうです。

 

でも言い方を工夫すれば、ご主人の心にも相談者さんの心配する気持ちが届きやすくなります。先ほど登場したIメッセージで次のようにご主人に伝えみてはいかがでしょうか。

 

「私はあなたにもお母さんのことを真剣に考えてほしいと思ってるの」

 

それでも難しいようなら、海外にいらっしゃる妹さんに相談し、「お母さん健診いってみたら?」と受診を勧めてもらうという方法も考えてみてください。お母さんのことをよく知る実の娘ですし、海外にいて距離もあるので、少し冷静な立場から助言してもらえる かもしれません。

 

こういう問題は認知症に限ったことではありません。心療内科に関わる症状も、相談者さんと同様に周囲が思い悩むことがあります。本人に自覚がないと、「どうして私が行かなきゃいけないの?」となりかねません。

 

気持ちの落ち込みというのは明確な指標がないのですが、睡眠不足や食欲減退というはっきりした症状が身近な人に続いていたら、ぜひIメッセージを使って受診を促してみてくださいね。

 

頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(4/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(4/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(5/8P)
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頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(6/8P)
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頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(7/8P)
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頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(8/8P)
頑固な義母に認知症の兆候が…うまく受診を促す方法を知りたい【心理士に聞く】(8/8P)

 

PROFILE 八木経弥さん

やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。

取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!