大人が抱えやすいモヤモヤについて、臨床心理士の八木経弥さんにお話を伺いました。今回は、受験不合格を「母親のせい」と責める義母に悩む女性の相談にお答えします。
【Q】義母に「子どもの進学は母親のせい」と…
子どもが中学受験をしてこの春から私立の中学に進学することになりました。残念ながら、第一志望は不合格だったのですが、進学先の学校の説明会に伺い、とても素敵な学校ということがわかりました。子どもにも合っている気がして、結果的によかったのかなと今は満足しています。
しかし、進学先が決まったことを義母に報告したら「レベルが低い学校で残念。子どもの進学は母親のせいよ」と遠回しに言われてしまいました。以前から、「子どもの頭の良し悪しは母親で決まる」「子どもの教育は母親次第」というのが義母の持論で、言葉の端々からそれは感じ取っていました。
自分の息子(夫)をいい学校に進学させたという自負が義母にはあるのだと思います。ある程度想像はしていましたが、私も子どもも否定された気がして、やはりとてもショックでした。義母の言葉が胸に突き刺さり、心の整理がつきません。アドバイスをお願いします。
中学受験=母親次第は勘違い!母親は別の人間
「母親のせい」なんて言われたら、誰だって腹が立ちますよね。「そんなあなたはどれだけの人間なんですか!」と啖呵を切ってしまいたいところですが、これからもつき合いが続く身内…なかなかそうもいかないのでモヤモヤしますね。
中学受験は第一志望が叶わなかったとのことですが、「子どもにも合っている気がして、結果的によかったのかなと今は満足しています」と語れる相談者さんは、ほどよい距離感でお子さんといい関係性を築いているのだと思います。きっと受験のことだけでなく、普段からいろいろ話し合えているのでしょう。相談者さんは進学先を「素敵な学校」ととらえていて、とてもいい親子関係だと感じます。
ようやく心も晴れ晴れしたところに、旦那さんのお母さんが水を差してきましたね。お母さんは「子ども=私(母親)」という感覚をもってしまっている のではないでしょうか。だから「子どもの成果=私の成果」と思い込んでしまう。子どもの努力で進学したのに、「私がいい学校へ進学させた」と勘違いして、それを誇りに生きてきたのかもしれません。
子どもは母親とは別の人間です。「中学受験=母親次第」と思い込んでいると、希望が叶わなかったときに、親が子どもより落ち込んでしまうケースも少なくありません。これは子どもにとっていちばんツラいことです。
クセが強い義母の言葉 真正面から受け止めないで
お母さんは「こうでなければならない」という考え方のクセが強いタイプのようですね。「子どもの教育は母親次第」なんて生きている時代が違いますよね。でも年齢が年齢なだけに、考え方は変わらないと考えたほうが得策です。クセが強めのお母さんの言葉は、真正面から受け取らないほうがよいでしょう。
「それを言われると私はツラいです」と、ストレートに自分の気持ちを伝える必要があるかもしれません。もし感情が隠せそうなら「学校のレベルって、何を指しておっしゃっているんですか」ととぼけた風にチクリとしてみても…。でもこれはちょっと難易度が高いかもしれません。
そもそも旦那さんがどう思っているのか、というところが気になります。奥さんと子どものことを実母が否定していることになりますから、いい感情は抱かないはず。夫婦の関係性によっては夫にお母さんの愚痴を言いづらいかもしれませんが、「わたし、お母さんからこんなこと言われてツラいんだよね」と胸の内を明かしてはどうでしょうか。お母さんとの距離感を考え直す機会にもなります。
投函しない手紙を書いて気持ちを吐き出して
不満を“吐き出す”という作業は心にとってとても大切です。旦那さんに聞いてもらうのも良いですが、それが無理そうな場合は、紙に書いて吐き出す方法もあります。
ひとつおもしろい方法があります。それは「お母さん宛てに投函しない手紙を書く」という吐き出し方です。ポストには出さないけれど気持ちを書き綴ります。これは「ロールレタリング」という心理療法のひとつです。書くことで自分の気持ちが整理できます。
それに加えて、「手紙の相手になったつもりで自分宛ての返事を書く」という方法もあるのですが、ちょっと高度ですね。でも相手になりきって自分への手紙を書くことで、相手の気持ちを発見できることがあります。
ここまでやらなくても、相談者さんは自分のモヤモヤを抱え込まずにいることが大切です。相手に気持ちをストレートに伝える/夫に話を聞いてもらう/投函しない手紙を書く、など自分に合った方法で、モヤモヤを少しでも軽くしてくださいね。
PROFILE 八木経弥さん
やぎ・えみ。臨床心理士/公認心理師。心療内科や児童相談所、スクールカウンセラーなどの勤務経験のもと、開業カウンセラーとしても活動中。仕事では心理学を活用した育児の方法などを伝えている。2人の娘の母。
取材・文/大楽眞衣子 イラスト/まゆか!