「明日は台風予想、出勤できないかも…」天候を理由に、会社の指示なしに休むのはどうなのか?安全や環境をどう守ればいい?松井剛弁護士に教えてもらいました。

 

災害の際にどうなるかは就業規則を事前に確認しておくのが賢明

「台風や大雪」で通勤できないときの給与の扱いは

── 最近、台風を含む激しい雨風や大雪など通勤しづらい状況が増えています。悪天候でも、自己判断で遅刻や欠勤してもいいものなのでしょうか?

 

松井さん:天災・地変のように人力ではどうすることもできない力や事態を“不可抗力”と呼びます。台風や大雪で電車が止まるなどして出勤できないケースもあてはまります。この場合、会社は欠勤した日の給与を払う必要はありません。「不可抗力」であったとしても、従業員が“自己判断”で遅刻・欠勤した場合、会社は給与を支払わなくてよいのです。

 

── 大雪や台風をみこして、前日に会社から休業指示が出る話も聞きます。この場合も無給なのでしょうか?

 

松井さん:会社は従業員への安全配慮義務があります。災害が起きそうな悪天候下でムリに出勤させ、従業員がケガをしたら会社が損害賠償することにもなりかねません。そこで前日から、翌日の出勤について柔軟な対応を会社が認め、その日は休業手当を出すなどの対応をとる企業もあります。

 

── 地震に加え、台風や大雪の多い地域では大きな問題ですね。天災地変によるケガは労災保険の対象にならないと聞いたことがあります。

 

松井さん:原則として天災地変による災害は労災とは認定されません。ただし、仕事中に地震や津波により建物が倒壊する等、業務が原因で被災した場合は、労災補償の対象となります。同様の条件であれば通勤途上で被災した場合も、業務災害と同様に労災補償の対象となります。

 

例えば、災害が起きて職場の物品を運び出したり、同僚の救護のためにケガを負ってしまった、避難・出水・土砂崩れ・落雷など天災地変に際して被災する危険性の高い作業環境や作業場に労働や通勤せざるをえなくなり負傷した、などです。

 

── 通常時の通勤時の労災保険について質問ですが、会社に届け出た経路と違う経路で通勤して事故にあったら、保険の対象にならないのでしょうか?

 

松井さん:合理的な経路であれば、対象になります。とくに通勤の「経路を問われる」わけではありません。会社には、たとえばJR山手線を通勤経路として届け出して定期券もその区間で購入していたけれど、実際は地下鉄で通っていて事故にあったとしても、労災保険の対象になる可能性はあります。

    

── 通勤定期の話に関連すると、バスの定期券代を通勤手当として請求していたけれど、実際は購入せずに、徒歩で通勤するケースはどうなるのでしょうか?

 

松井さん:それは詐欺であり、通勤手当の不正受給になる可能性があります。

ハラスメントや残業代未払いへの対策はメモが有効

── 労働者の働く環境について、会社は安全などに配慮する義務があると先ほどうかがいました。働き方改革やパワハラ防止法の施行により、法律相談に変化はありますか?

 

松井さん:ハラスメント関連の相談は多いですね。しかし、残業代未払いなどの問題もまだ存在しています。解雇については、「いきなり解雇」のケースは減り、「やめてもらえないですか?」という形で入って、条件交渉に進むソフトな形が増えている気がします。

 

── ハラスメントや残業代未払いについて働く側の権利を守るために、私たちが日々できることあれば教えてください。

 

松井さん:録音・録画など「客観的な記録」を残しておくことをお勧めします。録音・録画する本人が同席していれば、相手の許可は不要です。自分がいない場所だと盗聴になりかねませんが。

 

── 「客観的な記録」は、他にどんなものが考えられますか?

 

松井さん:日付や内容を改ざんできないメモ・データが権利主張の武器になります。例えば、残業記録をつけた表を自分にメールやLINEで送る、手書きのメモを写真撮影する、いずれも日時が記録され、後から変更できません。

 

PROFILE 松井剛さん

弁護士(ベリーベスト法律事務所)。労働問題を得意とし、誠実な人柄と親身でわかりやすい説明に定評がある。依頼者の希望に沿った解決を導くべく日々研鑽を積んでいる。メディア出演多数。

 

取材・文/岡本聡子 ※画像はイメージです