「ちょっと体調が悪いから、少し休んでから会社に行こう」と思ったとします。欠勤扱いにはしたくないから、1時間分の有給を使って。これって、ありなの?なしなの?有給についての疑問をベリーベスト法律事務所・松井剛弁護士にぶつけてみました。

 

有給で「給与が減るかどうか」は会社の給与計算の方法で変わってくる!

「繁忙期」に有給をとるのは問題ではないけど…

── コロナもおちつき、夏は旅行でも、と考える人も多いでしょう。有給はいつでもとれると考えがちですが、業界や会社によって「この時期は有給をとれない」という制約はあるのでしょうか?

 

松井さん:そもそも「有給休暇は会社の許可をもらわなければ使えない」というのは、間違いです。労働者から有給休暇の申し出があれば、会社は受け入れざるをえません。ただ、繁忙期などどうしても難しい時期には、会社が有給休暇をずらしてとるよう労働者に申し出る“時季変更権”は認められています。

 

これも、会社側が替わりの人を探したり、シフトや仕事内容を調整するなど、できる限りの努力を行ったうえで使える権利です。実際は、その業界や会社の暗黙のルールとして「この時期に有給はムリ」と各自が有給申請を自制するケースが多いようです。

 

基本的な考え方として雇用契約は、労働者が使用者(企業)の労働に従事し、使用者がその労働に対して報酬を支払うことを約束するものであり、労働者と使用者は対等な立場です。さらに労働者は、労働保険や社会保険の加入や有給休暇の取得、使用者からの一方的な解雇には一定の制約があるなど、労働法上の保護を受けることができる仕組みです。

「1時間の遅刻」を有給にあてることはできる?

── もともと、有給休暇は労働者の権利ですものね。働く側からすると、もっと柔軟に有給制度を使えれば便利です。たとえば「今朝1時間遅刻したからその分を有給にしてもらいたい」はいかがでしょう?

 

松井さん:それは当然認められません。有給とは、本来「丸一日休暇をとる」ための制度ですから。もっとも、最近は「時間有給」の制度をとりいれる企業も増えています。

 

制度を会社側が悪用すれば、有給本来の「丸一日休暇をとる」目的を果たせない可能性があることから、あらかじめ会社と従業員の間で話し合って、労使協定などで定められていれば制度化できます。また、有給休暇は事前の申請が原則であり、事後に申請があったとしても、会社はそれに応じる義務はありませんので、その意味でも難しいと思います。

有給を使うと「給与が減る」例を公開

── 有給に関する疑問では、「有給を使うと、受け取る給与額が減った」という話を耳にしました。実際の出勤と同じようにカウントされるはずなのにおかしくありませんか?

 

松井さん:給与が減ることはありえます。通常とおりの日額給与で計算するか、平均賃金で計算するか、有給分の賃金計算方法によるからです。平均賃金は、直前3か月の給与を暦日で割ります。暦日計算では土日祝日も含むため、通常どおりの日額給与より少なくなります。

 

たとえば、月額25万円の人がいたとします。通常とおりの賃金計算では、出勤日数の25日で割ると日額1万円。平均賃金で計算すると、3か月分75万円を暦日90日で割るため、日額約8300円になります。どちらの計算方法を使うかを就業規則で決めておけば問題ありません。

退職時に残った有給はどうする?どうなる?

── 有給を使いきれない人も多いそうです。とくに退職時の有給の扱いについて教えてください。

 

松井さん:実際、退職時の有給に関する相談は多いです。具体的には3月末退職予定で、25日間の有給が残っている。2月末を最終出勤日にして、3月は有給消化にあてたい。これは問題ありません。会社側は業務引継ぎなどもあるのでそれは困るというかもしれませんが、法律上、退職は2週間前に申し出ればよいのです。2週間の予告期間があれば、会社は受け入れざるをえません。

 

── 年度替わりの12月末や3月末に退職する場合、繁忙期と重なり有給取得が難しいとも考えられますが…。

 

松井さん:繁忙期に重なることは考えられます。先ほど、有給の時季変更権について触れましたが、退職時には時季変更権は使えません。なぜなら、退職してしまうため、有給を後ろ倒しに移動することができないからです。そのため、会社は退職前の有給取得を認めるしかありません。

 

── 退職のため、有給の時期を後ろにずらせないケースはどうすればよいのでしょうか?

 

松井さん:労働者が自己都合で退職をしようとする場合には、退職日を有給休暇を消化し切れる日以後にすれば問題ないので、その問題は発生しないと思います。会社からの働きかけで退職をする場合には、まずは退職日を先延ばしするよう交渉すべきだと思いますし、そこで折合いがつかない場合には、消化しきれない有給休暇を買い取るよう会社に求めることが考えられます。

 

ただし、会社に有給休暇を買い取る義務があるわけではないので、そこは交渉次第になるでしょう。

 

PROFILE 松井剛さん

弁護士(ベリーベスト法律事務所)。労働問題を得意とし、誠実な人柄と親身でわかりやすい説明に定評がある。依頼者の希望に沿った解決を導くべく日々研鑽を積んでいる。メディア出演多数。

 

取材・文/岡本聡子 ※画像はイメージです