「自分の内側や心の奥底から感じているものを引き出したり、表現したりするのに時間がかかるタイプ」と語るのは、芸能活動10周年を迎える三戸なつめさん。モデルや女優、歌手に加え、絵本作家の顔を持つ三戸さんですが、アウトプットは苦手だと言います。表現力を磨くために実践していること、続編を構想中の絵本についてなど、お話を聞きました(全3回中の3回)。
表現の瞬発力だけでは心を失くしてしまう
── モデルや女優の仕事では、表情や演技など瞬発的に表現する能力が求められますし、イラストや絵本なども描かれています。アウトプットが苦手だというのは、意外に感じました。
三戸さん:モデルであればポージングや表情。女優であれば、監督の指示ですぐに演技を変えるなど、瞬発的に対応する引き出しは確かにあると思います。
ただ経験を重ねるうちに身につけてきたもので、表層的な場所から出しているだけだと思うんです。
今の瞬発力で、もっと心の内側や奥底から、どんどん出せるものがないと…と感じています。
── 現状に満足せず、そうしたことを考えるようになったきっかけは?
三戸さん:読者モデルのブームや中田ヤスタカさんのプロデュースのおかげで、さまざまな経験をさせてもらってきました。
でも20代後半くらいから、雑誌が減ったり、プロデュース作品とは違う仕事をしたりするうち、「自分はなにが出せるのか?なにができるのか?」を深く考えるようになりました。
「瞬発力だけじゃ、ダメだ」と思うし、もっと自分の言葉や考えを内側から取り出して表現できないと、伝わらない。表面的なアウトプットだけでは、自分の心がないというか、自分自身の心を失ってしまうと感じたんです。
── 年齢やキャリアを重ねるなかで、危機感を覚えることも?
三戸さん:これまで雑誌やプロデューサーという後ろ盾があって、自分が個性的だと思っていたけれど、後ろ盾がない状態で「果たして自分は最強なのか?」と考えると、そんなことはない。
心の奥から自分の言葉を取り出すのに時間がかかるから、アウトプットが苦手という面があるけれど、きちんと発信できるようにならなきゃ…と思っています。
内側からの言葉を意識し「自分を好きになれた」
── 表現力をアップするため、手帳のウォッチリストを「これから観たいもの」ではなく、「観たもの」の感想を書くようにしているそうですね。
三戸さん:タイトル、国、作品ジャンル、監督とあわせて、感想を書くようにしています。
もともと語彙力がなく、作品の感想を聞かれてもとっさには「…よかったです」くらいしか言えなくて(笑)。具体的な感想をきちんと言えないことへの、もどかしさがずっとありました。
オーディションで感想を話すこともありますし、演技レッスンの先生からも、人に伝えるための練習をしたほうがいいとアドバイスいただいて。本当に簡単なものですけど、映画や舞台を観たら、短くても具体的に、自分の言葉で書いています。
── ウォッチリスト以外で、表現のスキルアップに役立っていることはありますか?
三戸さん:YouTubeで、ファンのみなさんからいただいた質問に答えるのも、自分の言葉で表現する練習になっていると思います。限られた時間で、できるだけたくさんの質問に、ちゃんと考えてお答えしたい。こうしたインタビューでの、練習になっている部分もありますね。
練習やコツとはちょっと違うのですが、YouTubeだと考えてしまった時間を編集でカットできます。バラエティ番組など、テンポが大事な場面はそれじゃいけないし、その場の状況に合わせます。でもインタビューなどでは、自分の言葉が出てくるまで、「待たせるのを怖がらない訓練」も意識していることのひとつです。
── 時間が限られる場面もありますが、「納得できる言葉で語ってもらうほうがいい」というスタンスのインタビュアーは多いと思います。怖がる必要はないし、待たせてもいいんです。
三戸さん:以前はどこか「自分の感情なんて重要じゃない」と、喜怒哀楽を重視しないところもありました。
でも自分の言葉を待ってもらって、きちんと伝えられるようになったら、自分のことを好きになれたんです。時間はかかっても心を失わずに、ちゃんと自分の内側と向き合って表現するのが、大事だな…と感じています。
絵本『ムム』の続きを構想中
── 2017年に絵本『ムム』、翌2018年には続編『ムム〜しまちゃんのおたんじょうび〜』を出版しました。主人公のムムは、お母様に買ってもらったぬいぐるみ・クゥがモデルだそうですね。
三戸さん:5歳くらいに、母のメイクショーについて行きました。そのとき買ってもらったクマのぬいぐるみが、クゥです。
ずっと大事にしていて、ある日「私が死んでお葬式が終わったら、この子はどうなっちゃうの?」と、ちょっとおセンチになって(笑)。そのとき考えたストーリーが、絵本を描くきっかけになりました。
── 今後、続編の予定はあるのでしょうか?
三戸さん:具体的な予定はないですが、続きを描きたいと思っています。構想というか、断片的なストーリーのストックはあるけど、まとまっていない状態です。
先日「大人になった、しまちゃん」のストーリーを思いついて、いつか描きたいな…と。ただシリーズとしては2冊しか出していないので、しまちゃんが大人になるのは、だいぶ先のことですね(笑)。
女優として憧れるのは片桐はいりさん
── デビュー当時、「5年後は紅白歌合戦に出て、10年後は女優になって、20年後は文房具屋をやる」と語っています。10周年の今、女優として活躍していますが、文房具屋への構想は?
三戸さん:文房具のプロデュースや連載をさせてもらい、好きなことを仕事にできているのは、すごくありがたいです。
ただお金周りなど、経営に関する能力がない(笑)。あわよくば、経営面を担当してくれるパートナーというか、共同経営者になってくれる人と出会えたらいいですね。
── 今後の目標にしている人はいますか?
三戸さん:目標というか、YUKIさんにはずっと憧れています。JUDY AND MARY時代のファッションは、今も参考にしていますね。YUKIさんは、人というより私にとってはアートのような存在です。
女優として憧れるのは、片桐はいりさん。どんな作品、どんな役でも存在感があり、その場をすべて持っていける人。役者はもらった役で髪型や体型を変えたりしますが、変わらないビジュアルや姿で役をあてはめてもらえるような唯一無二な存在に憧れます。
年齢や経験を重ねるなかで、演技を頑張っていきたい。懐の広い人になって、緩やかに軽やかなおばあちゃんになれたら…というのが、今の目標です。
今年は10周年でいろいろなことを発信していくので、注目してもらえたら嬉しいです!
PROFILE 三戸なつめさん
1990年奈良県生まれ。関西でモデルとして活動後、2013年上京しモデル、歌手、女優、絵本作家として活躍。YouTubeチャンネル「なつめと、」ほか、SNSでさまざまな情報を発信。今年芸能活動10周年を迎える。
取材・文/鍬田美穂 撮影/二瓶彩