インスタグラムのフォロワー数が51万人を超える、人気漫画家の三本阪奈さん。4年前まで専業主婦で漫画家を志した経験もなかった彼女の『ご成長ありがとうございます』シリーズは、先日5冊目の単行本『おさわがせ編』が刊行されました。「初出版は運よく決まっていった」という三本さんに、1冊目出版から現在に至るまでの心境の変化を聞きました。(全2回中の1回)

自信がなく「開くのが怖かった」初単行本

──『おさわがせ編』の刊行、おめでとうございます!1冊目のときと比べて、心境に変化はありますか?

 

三本さん:ありがとうございます!読者の皆さんのおかげです。

 

1冊目ができたときは、もちろんすごく嬉しかったんですが、最初はページをめくることができなかったですね。届いた日は表紙だけ開いて、パタンと閉じちゃいました。専業主婦だった私のマンガが運良く出版社さんの目にとまって、連載・出版と決まっていったものの、当時はまだ画力や構成力に自信がなくて。だから、改めて自分の作品を見るのが怖かったんです。

 

── いつ、ご自身で単行本を見ることができましたか?

 

三本さん:翌日「自分でちゃんと見なきゃ」と思ったものの、パラパラと流し読むだけで精一杯でした。そのうち、家族が何度も読んで「おもしろいやん」「上手に描けてるよ」と言ってくれたことで、少しずつ作品に向き合えるようになりました。

 

── ご自身で作品を読んでいかがでしたか?

 

三本さん:やっぱり「ここはもうちょっとうまく描けたはず」と、反省点ばかり浮かんで。ただ、当時すでに2冊目の『のびざかり編』に掲載予定の話も描いていたので「反省を次に絶対に活かそう」と誓いましたね。そこから絵の研究や練習を重ねて、3冊目以降は自分が納得いくマンガが描けるようになりました。

「ありのままを描き残したい」作風変化のきっかけ

── 3冊目の『たべざかり編』では、今までより家族に踏み込んだ描き下ろしエピソードも収録されています。絵の進化とともに、作風にも変化があったのでしょうか?

 

三本さん:マンガを描き始めたころは「読んでくれた人に笑ってもらいたい」という気持ちが強かったんです。だからこそ「この話はネガティブだからやめておこう」と、すごく考えながら描いていました。

 

あと、以前は作品内で自分の感情を主張しないと決めていて。私の喜怒哀楽を描くと、読んだ人が私の感情に影響されると思っていたんです。でも、それを続けるうちに、読者の方から「いつも冷静ですね」とか「子どもとの接し方のお手本にしてます」と言っていただくようになってしまって。

 

── 私も、三本さんについて「冷静に子どもを受け入れている」印象を持っています。

 

三本さん:いやあ、マンガに描いていないだけで、子どもたちを叱ることはもちろんあるし、全然冷静じゃないですよ(笑)。感情を隠しすぎた結果、本来とは違うイメージになってしまったと思うようになりました。だから「感情を作品に出さないでおこう」「おもしろいことだけ描こう」とするんじゃなく「描き残しておきたい出来事を、ありのまま描こう」と思うようになりました。

「学校に行く意味って?」成長した3人の個性

── 三本家のお子さんたちの近況を教えてください。

 

三本さん:長女のケイは中学生になって、大人びてきました。もともとボーイッシュな子なんですが「髪、伸ばそうかな」と、おしゃれを気にし始めましたね。

 

次女のフミは昨年春のクラス替えで、仲の良い友達と離ればなれになってしまって。進級をきっかけに「学校楽しくない」、「学校に行く意味って何なん?」と、言うようになりました。担任の先生がフミの性格を理解してフォローしてくださるおかげで、学校生活を送れています。

 

── お姉ちゃんたちは思春期に差しかかっている感じですね。ユキくんはいかがですか?

 

三本さん:長男のユキは、今春小学生になります。「小学校ってどんなところ?」とか、「給食って美味しい?」とか、しょっちゅうフミに質問していて、小学生になるのを楽しみにしている様子です。

子どものエピソードを描く賛否

── 1年前のインタビューでは、「子どもたちが『自分のエピソードを描かないで』と言ったら、潔く描くのを辞める」と仰っていました。思春期に差しかかっているお姉ちゃんたちの反応はいかがですか?

 

三本さん:フミはマンガが大好きで、いつも自分自身のエピソードを読んでは、「昔を思い出しておもしろい」と爆笑してくれています。ケイはマンガに詳しいので「このコマで終わらせたほうがおもしろいのに」と、構成についてアドバイスしてくれるようになりました。編集さんが家にいるみたいです(笑)。

 

思春期を迎えた長女・ケイちゃん (c)三本阪奈/新潮社

SNSや本で子どものエピソードを残すことについては、いろいろな意見がありますよね。ただ、ケイは「自分のエピソードが残ることについて、将来の私がどう思うか、今は誰にもわからへん。でも、ママがマンガを描いていて楽しいなら、一生描き続けて欲しい」と言ってくれていて。

 

── 子どもにそんなこと言われたら嬉しいですね。ママのことを応援していることがわかります。

 

三本さん:私自身、作品を見返して「『子どものそんなこと描いていいの?』と、感じる人が1人でもいたら…」と、考えることもあります。でも、家族への愛情を持って描いている自信があるから、「笑顔になってくれる人が1人でもいるなら、良いやん」と思える自分もいるんです。これからも子どもたちの気持ちを大事にしながら、作品と向き合っていきたいです。

 

PROFILE 三本阪奈さん

関西在住、3児の母。2019年1月より5人家族の日々を描いたコミックエッセイをInstagramに投稿、たちまち大人気となる。2020年2月よりWEB漫画サイト「くらげバンチ」で連載開始、『ご成長ありがとうございます~三本家ダイアリー〜』(新潮社)として単行本化。最新作はシリーズ5冊目の『ご成長ありがとうございます おさわがせ編』。 

 

取材・文/笠井ゆかり