中学受験を終えたご家庭は、ホッとひと息つかれている頃でしょうか。今回のご相談者もそのひとりですが、これまでお子さんの学習やスケジュールを管理しすぎた面があり、お子さんが自ら学ぶようになるにはどうしたらよいのかとお悩み中。教育家・見守る子育て研究所(R)所長の小川大介先生がアドバイスします。

 

「『親の管理』で受験合格『自走する子』になるには何が必要?『課題は子どもではく親にある』」
「『親の管理』で受験合格『自走する子』になるには何が必要?『課題は子どもでなく親にある』」P1

【Q】もう勉強の口出しは卒業したい

中学受験をし、なんとか合格をいただき、この4月から中学への進学が決まりました。中学受験では、親の私が子どもの勉強のスケジュールをガッツリ管理し、わからない問題はチェックして先生に質問に行かせ、ダラダラしていたらお尻を叩いたり、にんじんをぶら下げて勉強をさせるなど、手取り足取りやってきました。

 

しかし、これからは思春期でもありますし、親があれこれ口出しされるのも嫌でしょう。そもそも、自分で勉強を進めるようにならないとまずいなと思っています。自学自習をさせるには今後、どのように進めれば良いのでしょうか?

子どもに「意志」がなければ自学自習はできない

ご相談者様にとって、「自学自習」とはどういう状態をさしますか。まずはご自身が考えている自学自習のイメージを具体的に書き出してみましょう。

 

次に、ご自身が描いている自学自習にお子さんが取り組んでいる姿を思い浮かべてみてください。そのときお子さんは、どんな思いや気持ちがあるからみずから学習に取り組めていると思いますか。

 

人が行動するときというのは、先に感情や意志が働きます。つまり、本人に意志がなければ自学自習はできません。ご相談者様はお子さんが学習を手取り足取り管理されてきたとのことなので、もしかすると、お子さんが学びに向かう思いや意志を想像することは、少々難しいのではないでしょうか。

 

勉強に関して親子関係がうまくいかないご家庭のほとんどが、「勉強すべきだからやりなさい」と、「べき論」を子どもに押しつけてしまう傾向があります。しかし、それは絶対に失敗します。なぜなら、親が勝手に「すべきこと」を決めていて、子どもは「すべきこと」だとは思っていないからです。

 

ご相談者様も、お子さんが学びそのものに喜びを感じるような関わりをしてこなかったようですから、お子さんが自走するようになるにはかなり時間がかかりそうです。

課題は子どもではなく、親にある

お子さん自身が学習する理由を持ち、また学習した結果、楽しい、やりがいがある、心地よいといった感情を抱けることが重要になることを理解しましょう。

 

そのうえで、まずは「勉強してよかった」という実感や、「これくらいなら取り組める」と思える自信の幅を徐々に広げていくような、お子さんの足元を耕していく時間が必要になります。

 

そのあいだ、ご相談者様は、褒める、一緒に学習計画を考える、質問されたら調べ方を教えてあげるなど、学習するためのさまざまな技術をサポートしてあげる並走も重要になります。うまくいったとしても、半年から1年はかかると思ってください。

 

同時に、「なぜ勉強するの?」という子どもが当然抱く問いに対して、ぶれない答えを持っておかなければいけません。

 

一般的には、人は幸せになるために学びますよね。まだ中学1年生なので、お子さんは自身の幸せについて考えたことなどないかもしれませんが、だからこそ折に触れて、「どんな大人になりたいか」「将来どんな分野に興味を持つだろうか」といった話を重ね、「自分の人生は自分がつくる」という意志を持たせてあげてください。

 

そして、理想の人生をつくるため、人は学ぶという方法を採るのだということも教えてあげましょう。また、こうした会話をするときは、「あなたが自分で納得して満足する人生を、親の自分は望んでいる」という、当たり前すぎて日頃言い忘れていることも伝えてあげてください。

 

もし、お子さんが親御さんの態度が急に変わったことに驚いてしまうようでしたら、「受験勉強中は本来あなたが自分自身の道を決める時間だったのに、合格させてあげたくて手出しや口出しをしてしまった」など、今までの親としての関わり方を素直に謝りましょう。

 

思春期だから今後は口出しをしたくないという思いについてですが、確かに子どもの話を聞かずに自分の話だけを聞かせようとする親には誰だってなりたくないですよね。しかし、中学受験という子ども任せではどうにもならないチャレンジを乗り越えるために、仕方なく過度の手取り足取り状態へと陥ってきた期間を経た以上、これからのお子さんの自立には一種のリハビリが必要です。

 

今ご相談者様に必要なのは、お子さんの話を「聞くこと」。親が決めたことをやらせるという、ある意味最も楽な道を歩んでこられたわけですから、「聞く自分」になるのは相当大変かもしれません。

 

しかし、自走させたいということは、お子さんの成長を願ってのことだと思います。課題は、お子さんではなくご自身にあるということを理解し、取り組んでいってみてください。

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!