2人の娘をひとりで育てる西山茉希さん。離婚後は世間の見方が変わり「同じ子育てをしているのに批判されるようになった」と言います。シングルマザーと呼ばれる違和感とは。
いちばん話したいはずの彼と会話ができなくなっていた
── 2019年に離婚されました。葛藤もあったかと思うのですが、すぐに離婚の決断にたどり着いたのでしょうか?
西山さん:「離婚」と声に出してからは早かったです。声に出すときは、自分のなかで決めた状態で相手と話していたので。
いろいろあっても継続するご夫婦って、ギブアンドテイクが見えないところであったり、会話がちゃんとあったりする。でも、当時の私は、一番近くにいるはずの大切な人と会話ができない哀しさが勝ってしまっていたんです。
のどから先に声が出てこない。思っていることがいっぱいあったはずなんだけど、話せない自分と向き合っていた、その数か月がいちばん苦しかったです。
“シングルマザー”が「ミドルネームみたいになった」
── 離婚後は、おひとりで2人の娘さんを育てています。著書『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』では、「シングルマザー」という言葉に違和感があると語っていますね。
西山さん:「シングルマザー」という言葉が、ミドルネームぐらいに自分の名前にくっついてくるものになったので不思議だなぁって思いました。
結婚したりママになっただけなら、なにかの言葉がくっついてくることはないのに、離婚をした瞬間から「西山茉希、シングルマザー」という言葉が名前と同じくらいの温度で常にセットで動くようになりました。
あと、同じ子育てをしていても、世間の見方や反応が変わることを感じました。離婚していなかったら、そんなふうに言われなかったのにな、という賛否が出てきたりもしました。
── 苦労している姿を見たくて、イメージと違うと批判する、という。
西山さん:そうですね。シングルマザーだったら苦労しているほうが共感されたり、大変そうなほど応援したくなるのかな。
シングルマザーが楽しんでいると「育児放棄」と言われたり、シングルマザーがわくわくしていると「家庭を大事にしない。結局自分が大事なんでしょ」と、声が届く。そういう「いつできたんだろう」と思うような方程式を感じることが多いですね。
── エッセイのなかでポイントカードのお話をされていました。親御さんの手も借りられないなか、不規則な芸能の仕事をしながら2人の娘さんを育て、日々頑張ってポイントがたまったら、どうしてもなときだけポイントを使って飲みに行ったりする、と。すると、飲みに行ったことだけを切り取られて批判されてしまう、という…。
西山さん:切り取られた写真や憶測だけで書かれた文章が動き回る時代なので、難しいですよね(笑)。
アンチと戦わない理由「自分が傷ついて終わるほうが穏やか」
── でも西山さん、批判されてもあまり反論しないのは、どうしてですか?
西山さん:以前は、反論というよりも謝罪していた時期があったんです。批判コメントに対して「そんなつもりじゃなかったんです。ごめんなさい」って。不快にさせるつもりで発信してるわけじゃないので。
それが普通だと思っていて、同業のお友達といたときに相談したら「わざわざ向き合う必要ないんだよ」って言われたんです。私にしたら、それが衝撃で。
「え、じゃあどうしてるの?だって私に対して怒ってる声が届くじゃん。誤解を解きたくならない?」って。
そしたら「みんなコメント欄をわざわざ見ない。真面目に受け止めすぎだと思うよ」って…。
そこで、私もそういうものなのか。返事を返さないことで、さらに嫌われるということでもないのか、と気持ちを切り替えることができました。それからは一つひとつの批判コメントに返信するのはやめさせてもらいました。
── そうだったんですね。
西山さん:すごくファンの方も一瞬でアンチになったり、逆にたったひと言のメッセージで「向き合ってくれた」とファンになってもらえたりもすると聞いたことがあって。
「できるだけみんなに嫌われたくない」という思いはありますが、でも「じゃあ全員を愛せますか?一人ひとりに向き合って、アンチをなくせますか?」って言われたら、今の私はそこまではできないので。
自分が傷ついて終わるほうが、学びがある分、いちばん穏やかな選択だと思っています。
PROFILE 西山茉希さん
モデル・タレント。1985年生まれ。2005年より雑誌『CanCam』の専属モデルを務め人気を博す。13年に結婚、2人の娘を出産。19年離婚。23年エッセイ『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』を上梓。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美