元CanCam専属モデルとして活躍した西山茉希さんは、体型に悩み過酷なダイエットをしたことも。「痩せても太っても批判された」という彼女が今考える“美しさ”とは。
スカウトから「脚が太い」と言われダイエットを決意
── 著書『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』で驚いたのが、新潟から上京中、迷子になっているときに出会ったスカウトに「脚が太い」と言われたことが、デビューのきっかけだったとか。
西山さん:珍しいですよね(笑)。ただ、逆にそういうレアな経験だったからこそ、初めて「自分を磨く」という意識が生まれたと思います。
そのスカウトの人に「太っている」と言われて悔しい思いをしなかったら、太っている自分に向き合おうとも、痩せようとも思わなかったよな、と。
── 実際どれぐらいダイエットしたんですか?
西山さん:高校3年生のときは、1日7食ぐらい食べてたんですよ。
中学時代バレー部だったんですが、部活をやめてからも食欲だけは変わらなかったんです。最後に体重計に乗ったときの体重で覚えているのが60キロ。それで、55キロくらいまで、そのスカウトがきっかけで落として。
その後「東京の事務所に来てみてよ」ということで、またそのスカウトの人に会ったときに「きれいになったね」って言われたんですよ。そこで「きれいになると、人は見る目が変わるんだ」と気づいたんですよね。
それでデビューしたんですが、本来そのくらいの体重でもいいんだと思うんです。ただ、当時のCanCamの世界は、マネキンみたいなスタイルのモデルさんたちばかりで。
先輩モデルさんたちは、お弁当のごはんも食べない、揚げ物の衣は全部剥がす、というようなこだわりのモデル生活をしている方もいて。
「ガム一個食べるのも怖かった」
── ストイックな方が多かったんですね…。
西山さん:そしたらどんどん「私は異色なタイプなのかな」と思って、なにが正解かわからなくなっちゃって。そこから数年は、間違ったダイエットから抜け出せない時期がありました。
今考えると確実に間違っていたけど、当時は必死すぎて気づけなかった。家族からも心配の目で見られていましたが、気にしていられなくて。
「やらなきゃいけない」と思い込んでいましたね。
── 当時はどんな食生活だったんですか?
西山さん:もう本当にガム1個食べるのも怖い、みたいな。何かを口にするときは「これ何カロリーなんだろう」と考えるし、水も「水分だからむくむんじゃないか」とか。
周りにも知識がないのにダイエットに踏み込む人が多くて、拒食症になるぐらいみんな追い込まれていました。撮影の後、うちに帰った後の生活はボロボロでしたね。
大人になってから、まだご縁がある当時のモデルの先輩たちと会うと、いろんな笑い話がわんさか出てきます。当時は、本音を吐き出し合うこともできなかったんですよ。
女性として、きれいの定義をどこに置くかというのはとても難しいことだなと思いましたよね。
── そういう現状は、ここ十数年で変わったのでしょうか?
西山さん:「痩せていることが美しい」という価値観が変わりましたよね。
私が現役でモデルをやらせてもらっていたときも、途中から身長が低い普通の体型の子がモデルをやることでお洋服が売れる、と言われるようになってきて。
スタイルのいいモデルさんが服を着ていても「モデルさんだから似合うんでしょ」と思われたり。「モデルに憧れて服が売れる」ということでもない時代にも入りかけていました。
その後はもう少し普通っぽい子が、チャーミングにおしゃれに着こなすことのほうが「カリスマ性がある」と言われる時代になりましたよね。
痩せたら「病んでる」、太れば「ストレス太り」
── エッセイには、痩せたら痩せたで「病んでる」などと批判され、太ったら太ったで批判されるといったことを書かれていました。
西山さん:そうですね。なんて言うんだろう…、たとえば私が現役のモデルさんで、独身で、仕事一本でやっていたら、極端に痩せ型でも「モデルさんだからかっこいい」って言われてたかもしれない。
だけど、結婚して離婚して、という人生の肩書きが増えるたびに、体型とか容姿が、メンタルとリンクされて読み取られるようになったんです。
ただ「痩せている」じゃなく、「不幸そう」「病んでる」とか、ネガティブなワードが急にくっつき始めてしまった。
太ったら太ったで「ストレス太り」「あの人は今…」と言われてしまうじゃないですか。
仕方ないことなのかもしれないけど。外見で判断されてしまうんだったら、内面をもっと届けられるようになりたい、と思うようになりました。自分自身の心が負けちゃう前に、心を守る方法を考えるようにはなりましたよね。
人生で自分が「素敵だ」と思うものだけを残していく
── 具体的にどうしているんですか?
西山さん:私自身、20代前半の自分の体型や生活は、間違っていたこともあったなと思っているんです。ダイエットにしかり、正解だと思っていた体型にしかり、自分らしくなかったよね、と。じゃあ自分のベストってなんだろうと考えたら、マインドが安定しているときの体型なんですよね。
マインドが安定していても批判されるのは変わらないんですけど…。それで傷ついたとしても、傷ついた先で、どうのらりくらり進み続けるか。
人がいる社会で生きていかなきゃいけないので、見られるお仕事をしている限り、批判されなくなる方法はないんだと思うんです。
でも、私に対してなにか批判していた人も、私が10年後も変わらず笑っていたら「この人はこれで良かったんだな」と、未来でついてきてくれるかもしれないじゃないですか。そういう考え方にはなれたかなと思います。
── そう考えられるようになったのは、きっかけがあったんですか?
西山さん:徐々にですね、きっと。一気には変われなかったです。
でも自分が出会ってきた縁がある人たちとの景色のなかで、自分が「素敵だ」と思うものだけを残して、あまりプラスじゃないなと思うことは、自分のなかにあるものでも見たことでも、スルーするようにしています。
最終的に自分のなかになにを残して、積み重ねていくのか。私は素敵なことを重ねていきたいから、出会う人たちも、いろんな経験も糧にしたいんですよね。
自分自身に優しくしてあげることが大切
── そう考えられるのが素敵です。なかなかスルーできないので…。
西山さん:そうなりますよね。私も「ネガティブにならない」という人間ではいたくないなって思うんですよ。
「ポジティブだよね」「強いよね」と言ってもらえることも多いんですけど、決してそうじゃなくて。傷ついたその次の一歩の踏み出し方が上手になれば、傷ついていいんだと思うんです。
自分が傷つくことで「こういうことが人の心を傷つけるんだな」と知ることができる。だから、同じ経験をしている子に手を差し伸べられたり、寄り添うことができたり、自分の幅を広げられることにもなる。
だから、私はとことん傷つくんですよ。傷つかないという強さはないんです。
批判に対して「また言ってるな」「どうせ嫉妬でしょ」ってスルーできる子も知ってるんです。「そのほうがこのお仕事に向いてるんだろうな」って思うけど、私はその強さは真似できなかった。心が本来持ってる強さは、生まれてきた環境や性格で、どう憧れようとそんなに変われない。
だから、強くなるんじゃなくて、自分を緩ませることを心がけたほうが柔軟に生きていけると思うんです。
── エッセイにも「30代以降は、メンタルの柔軟性が美しさにつながる」と書かれていますね。
西山さん:そうですね。「自己肯定感を高めなさい」とかも、今の時代言われることが多くなったじゃないですか。でも高められない人は高められないし、自信を持てない人は自信を持てない。
でも「私はこうだから大丈夫」って言える自分でいたい。ただ自分自身を受け入れてあげる。自分に優しくいてあげることができるほうが、大事なんじゃないかなって思うんですよね。
PROFILE 西山茉希さん
モデル・タレント。1985年生まれ。2005年より雑誌『CanCam』の専属モデルを務め人気を博す。13年に結婚、2人の娘を出産。19年離婚。23年エッセイ『だいじょうぶじゃなくてもだいじょうぶ』を上梓。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美