街路樹の診断をする樹木医みずほさん
街路樹の診断をするみずほさん

熊本県で初めての女性の樹木医になったみずほさん(54)。各地の木々を治療するお医者さんとして、自らの会社も経営しますが、さまざまな苦労と困難がありました。

3000人のうち女性は1割

── 樹木医とはどんな職業ですか?

 

みずほさん:その名の通り、木のお医者さんで木の病気やケガを診察して治します。日本には約3000人の樹木医がいますが、女性は300人ほどです。

 

── 樹木のケガや病気はどういうものがありますか?

 

みずほさん:ずいぶん前から日本の海岸線では、防風林となる松枯れの病気がはやっています。松に線虫が侵入して通水障害を引き起こして枯らしてしまうのです。

 

私の現場でも同様の病気の治療の依頼があって、防いだり駆除したりします。

 

街路樹も適切な剪定をしないと、腐って倒れたりする危険もあるために、診断して治療します。土壌に栄養分を与えたり、薬剤を塗布したりすることもあります。

 

このような仕事は主に、自治体や官公庁からの依頼で行いますが、企業や神社の御神木や個人の家の樹木を治すこともあります。

 

私は民間のマーケットを切り開いてきました。

 

ピカスで樹木を診断する樹木医みずほさん
ピカスで樹木を診断するみずほさん

祖母が医師だったので…

── どのように樹木を診断するのですか?

 

みずほさん:これは私が最初に導入したのですが、「ピカス」という樹木内部の腐朽(ふきゅう)の程度を診断する機械を使い、樹木内部の状態を調べます。

 

私たちが開発したブレスパイプという筒形の土壌改良材を使い、樹木が生育する土壌を改善することもあります。

 

── 今まで治療した樹木で印象に残っているものはありますか?

 

みずほさん:やはり、奄美群島にある加計呂麻(かけろま)島のデイゴ並木です。というのは、私の祖母が奄美で医師として働いていたことがあったからです。

 

“Dr.コトー”のような人で、私もいつかは奄美に行きたいと思っていたので、そのデイゴを治療することになったときは、祖母の縁がつないでくれたものだと思いました。

 

奄美のデイゴを治療する樹木医みずほさん
奄美のデイゴを治療するみずほさん

税金でまかなわれるので

── デイゴ並木の治療は無事、終わったのですか?

 

みずほさん:最初の契約は終わりましたが、このような樹木の治療は税金でまかなわれているので、期間が決まっています。

 

町全体のデイゴも治療したいと思っているので、資金集めを画策しています。

 

腐朽が進行していた江戸川区の「タブノキ」は、保険会社の大樹生命さんに協賛していただき、治療を施すことができました。

 

寄付を受け付けるための一般社団法人(日本樹木遺産協会)も設立しています。

 

── 自治体や企業ではなく、個人からの依頼はありますか?

 

みずほさん:私たちの仕事は、庭師や造園業とも異なります。知らない人には相談先がないと思われていたようですが、最近は相談が以前より増えています。

 

樹木医になったころのみずほさん。現在、24歳の長男を抱っこして
樹木医になったころ。現在、24歳の長男を抱っこして

おしんのように息子をおぶって

── そんな樹木医をみずほさんが目指したきっかけを教えてください。

 

みずほさん:医師だった祖母と造園業を営んでいた父の影響が強いです。

 

父は職人というより実業家で「これからは自分が吸う酸素の分は、自分で樹木を植えなくてはいけない法律ができるはずだ」と言うような人で、私は小さいころから樹木や環境問題には興味を持っていました。

 

短大を卒業後、造園建設業会社の設計部に就職しましたが、テーマパークや公共施設の樹木の植え方や扱い方に疑問を抱いていました。

 

その後、熊本の実家に里帰り出産をしていたときに父が持っていた樹木医の試験のテキストをみたところ興味をもち、受験することにして、2回目で合格しました。

 

── 今で言う「リスキリング」だと思いますが、出産前後の勉強は大変ではありませんでしたか??

 

みずほさん:すごく大変でしたよ(笑)。おしんのように、息子をおんぶしながら本を読んで、夜は寝かしつけながらヘッドライトをつけて勉強していました。

 

樹木医の先輩のもとでアルバイトをしながら、保育園の送り迎えをしつつ、トイレやお風呂のときも勉強しました。

 

取材に応じてくれた樹木医みずほさん
取材に応じてくれたみずほさん

合格すれば熊本初の女性樹木医になれる!

── 大変な時期に、なぜそこまで頑張ることができたのですか?

 

みずほさん:1日でも早く合格して、熊本県で初の女性樹木医になりたかったからです。離婚も視野に入れてましたので(笑)。

 

元夫は、芸術家でしたが家庭をかえりみない人で、男尊女卑でもあったので未来に希望が持てませんでした。

 

PROFILE 樹木医みずほ さん

1968年、東京都生まれ。造園建設業会社勤務後、熊本県初の女性樹木医に。2007年に事務所「木風」を開設。樹木診断業務や緑地管理などを行う。『情熱大陸』出演。著書に『樹を見る女(ひと)のつぶやき』。東久邇宮国際文化褒賞受賞。

取材・文・写真/CHANTO WEB NEWS 写真提供/樹木医みずほ